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『道頓堀川』 [読書日記]

道頓堀川 (新潮文庫)

道頓堀川 (新潮文庫)

  • 作者: 輝, 宮本
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1994/12/20
  • メディア: 文庫
内容紹介
両親を亡くした大学生の邦彦は、生活の糧を求めて道頓堀の喫茶店に住み込んだ。邦彦に優しい目を向ける店主の武内は、かつて玉突きに命をかけ、妻に去られた無頼の過去をもっていた。――夜は華やかなネオンの光に染まり、昼は街の汚濁を川面に浮かべて流れる道頓堀川。その歓楽の街に生きる男と女たちの人情の機微、秘めた情熱と屈折した思いを、青年の真率な視線でとらえた秀作。
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週末読書。先週の『螢川・泥の河』に引き続き、宮本輝の「川」三部作の最後、『道頓堀川』を読むことにした。舞台は、『泥の河』よりも10年ほど後の、昭和40年頃の大阪・道頓堀で、『泥の河』はまだ戦争の影響を相当色濃く残していて、人が必死で生きている姿が印象的な作品だったが、それから10年も経つと高度経済成長の真っ最中で、繁華街も出てきて、仕事帰りに喫茶店や居酒屋、バー、キャバクラで飲み歩く人の姿が多く見られる。

勿論、戦地に行って戻ってきた人もまだ健在である。そういう、戦争を直接経験した40代、50代の人々と、戦争を知らない10代、20代の人々が交錯する時代の作品で、40~50代の人々が、若者たちをどのように見ていたのかも垣間見ることができる作品と言える。本書の内容紹介では、主人公が邦彦であるように書かれているようだが、実際は邦彦と、彼が勤める喫茶店の店主・武内が主人公で、特に武内の方は、邦彦の大人しさに加え、自身の息子である政夫の、ハスラーを目指したいという生き方を認めがたいものとして捉えている。

世代の異なる2人の目線で道頓堀に出入りする人々が描かれているのだが、とかく登場人物の多さもあって、内容紹介がしづらい作品になっている。武内については、息子とビリヤードで対決することになるが、その結果までは描かれず、邦彦については、道頓堀を去る決心をするところまでは描かれるがそれがどのような進路選択だったのかまでは明記されていない。なんだか、2人の目線による群像劇のような作品になっているのである。

その辺の描きにくさがあったのか、1982年に出た映画版は、もっと明確に、「邦彦とまち子の恋」「武内父子の葛藤」という二軸でストーリーが展開され、原作では曖昧だった結末も明確に描いている。原作と映画版は、登場人物や出来事では共通するところもあるが、相当異なる作品になっている。僕は元々この、松坂慶子がまち子を演じた映画版の方のことを先に知っていたので、原作を読んでみたらまち子の登場する箇所がものすごく少なく、邦彦が美大生だというのを認識させるようなシーンも原作ではそれほど多くなかったので、今回原作を読んで少し肩透かしを食らった気もしてしまった。


でも、原作も映画版も、道頓堀の住人は、お互いをよく知り、時には助け合いながらも、それでもどこかしんどそうで、これからどこに向かって行くのかよくわからない、漠然とした不安感を抱かされる人ばかりだったような気がする。

映画版の劇中で、山崎務演じる武内が言うセリフ、「この道頓堀で賑やかに暮らしとる人間は、みんな心ん中は寒い風が吹いとんのとちゃうか」というのがなぜか心に残っている。

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