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『偉い人ほどすぐ逃げる』 [読書日記]

偉い人ほどすぐ逃げる (文春e-book)

偉い人ほどすぐ逃げる (文春e-book)

  • 作者: 武田 砂鉄
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/05/27
  • メディア: Kindle版
内容紹介
「このまま忘れてもらおう」作戦に惑わされない―――。
偉い人が嘘をついて真っ先に逃げ出し、監視しあう空気と共に「逆らうのは良くないよね」ムードが社会に蔓延。「それどころではない」のに五輪中止が即断されず、言葉の劣化はますます加速。身内に甘いメディア、届かないアベノマスクを待ち続ける私……これでいいのか?このところ、俺は偉いんだぞ、と叫びながらこっちに向かってくるのではなく、そう叫びながら逃げていく姿ばかりが目に入る。そんな社会を活写したところ、こんな一冊に仕上がった。(「あとがき」より)
【購入】
赴任国での到着後の隔離生活も今日で21日。三度目の週末を迎えている。退所は明後日らしい。体調には異常はない。これまで二度PCR検査を受けたが、いずれも陰性だった。

さすがに分厚い古典(『森の生活~ウォールデン』のこと)と格闘していると、気分転換的に同時並行でもう少し読みやすい本が欲しくなった。そんな時に、Yahooのコラムで、ライターの武田砂鉄さんが東京五輪の問題に絡めて本書のことを紹介されていたので、てっきり東京五輪フォーカスの話だろうと思ってキンドルでダウンロードしてみた。

実際のところは、版元の文藝春秋の月刊文芸誌『文學界』で、2016年から連載されていた「時事殺し」というコラムを1冊にまとめたもので、テーマも東京五輪の話ばかりではなかった。著者が冒頭述べているが、こうして書いてきたコラムを横串しで見直してみて、共通するメッセージこそが本書のタイトル「偉い人ひどすぐ逃げる」なのだという。

 国家を揺るがす問題であっても、また別の問題が浮上してくれば、その前の問題がそのまま放置され、忘れ去られるようになった。どんな悪事にも、いつまでやってんの、という声が必ず向かう。向かう先が、悪事を働いた権力者ではなく、なぜか、追求する側なのだ。(中略)
 わざわざ重言で記すが、疑惑を疑う、という当たり前の行為が、やたらと過激な行為として受け取られ、そういった言葉を向ける様子に、よくぞ言った、勇気があるよね、なんて評定が下される。(「はじめに」より)

この、「済んだことをいつまでぐじゅぐじゅ言ってんだ」的なムード、確かに感じる。「済んだ」といっても曖昧な済ませ方で、追求する側はまだ疑惑が晴れたわけじゃない、全貌が明確になったわけじゃないと思っていることでも、追求される側は、「記憶にないと言ってるじゃないか」「秘書がやったと言ってるじゃないか(自分がやったんじゃないけど)」などと幕引き感をアピールしようとする。メディアも良くない。疑惑の眼を回避するために、元々ストックしてあったに違いない別の餌をバラまかれると、そっちに気がとられる。そうでなくても、新たに起きる様々な出来事の取材に戦力を振り向け、その前にあった疑惑の追及の手が弱まったりする。

東京五輪については、思い出してもいろいろあった。1つ1つを取り上げるのも難しいぐらいに、過去に招致推進者達がアピールしていたことが今となっては反故にされているし、そう言っていた偉い人たちがコロナ禍での五輪開催の是非論の表舞台から退場してしまっている。こうなっちゃた責任を取れと言ったって、誰も取らないだろう。いかに今の世論が開催反対であったとしても、責任持って開催中止の意思決定を下せる権限がどこにあるのか非常に曖昧で、たぶん誰も責任を取らない形で開催に向かって邁進していってしまうのだろうし、それで仮に危惧されている変異株の感染爆発が国内はおろか、世界中の感染爆発の震源地になってしまったとしても、誰も詰め腹を切ったりはしないだろう。

東京五輪目当てでダウンロードしたが、読みながら、森友学園問題やLGBTを巡る杉田水脈議員発言問題、アベノマスクなど、「そういえば…」と思い出した出来事も多くあったし、新国立競技場建設に伴う霞アパート入居者立ち退き問題や、「読書感想文のマニュアル」、ある映画を巡る原稿掲載取りやめや原稿執筆依頼に対する辞退の経緯やら、僕自身のアンテナの感度が悪くてそんなことがあったとも知らない出来事も結構多かった。チコちゃんじゃないがボーッと生きてきた自分自身の感度の悪さを改めて痛感させられた。

こういう言論、あるいは論争が掲載されているようなメディア―――本書で言及あったものでいえば『文學界』や『新潮45』(廃刊になっちゃったけど)、『月刊hanada』等は、僕はほとんど読んだことがないし、それに近いかもしれなかった『選択』は、20年近く続けてきた定期購読を2年ほど前にやめてしまった。(やめたから余計に感度が鈍ったかもしれない…)今はまた海外駐在になってしまい、余計に「なしで済まそうと思えば済ませられる」状況になってしまっているが、キャッチアップするにはどうしたらいいのか、少し考えないといけない。

著者の武田砂鉄さんについては、TBSラジオの番組に出ておられたのをこの2年ほどよく聴いていた。いろいろなソースから情報を集め、弱い人や取り残されそうな人に対する目配りもされている人なのだろうなと思いながら聴いていた。前からそういう名前のライターがいるというのは知っていたが(多分、『噂の眞相』か何かだったと思う)、書かれた文章をじっくり読むのは今回が初めて。また時々読ませていただきます。少なくとも、若い世代の我が子に、「世の中の空気に流されるなよ」ぐらいのことは言えるだけの感度は自分自身も磨いておきたいから。

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