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『森の生活』 [持続可能な開発]

森の生活 (講談社学術文庫)

森の生活 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1991/03/05
  • メディア: 文庫
内容紹介
ボストンの近郊、コンコードの町に近いウォールデン池のほとりに、ソローは自ら建てた小屋で、2年3ヵ月、独り思索と労働と自然観察の日々を過した。人間の生活における経済の理念をはじめ、人生のあるべき姿や精神生活の大切さ、森の動植物への情愛などを語りながら、彼は当時のアメリカ社会と人間を考察し続けた。物質文明の発展が問い直されている今日、ソローの思想の持つ意味はますます大きい。
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隔離施設収容が21日間もあると、普通は読めないような大部の本を読むいい機会かもと思い、今回携行したのがこの古典の邦訳であった。新型コロナウィルス感染が始まった頃から、日本では「ソロキャンプ」とかいうのが流行り始めたが、そこで期待される効能を今から170年以上前に訴え、米国ニューイングランド地方で、2年以上にもわたるソロキャンプを敢行した人がいた。19世紀半ばというのは、米国文学の黄金期だと思うが、その中でも代表的なのが、ヘンリー・デビッド・ソローの『ウォールデン、または森での生活(Walden, Or Life In The Woods)』(以下、森の生活)である。

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確か、昨秋ロバート・B・パーカー『初秋』を読んだ時にも、『森の生活』には言及されていたなと思い出す。パーカーのスペンサーシリーズの舞台もボストンだし、確かスペンサーがポールを連れて行ってログハウスを作った森というのはメイン州だったと記憶しているけれど、ウォールデン池の写真を見ると、『初秋』の舞台もきっとこんな感じだったんだろうなと想像してしまう。

さて、肝心の本文だが、ただただ厚い、段落が長い、原文がそうなっているんならしょうがないけれど、一目見てひるむ文章だった。第1章ともいえる「経済」がそれだけで100頁もあるような長さであった以外は、だいたい20頁ぐらいの章が続くので、休憩を入れながら少しずつでも読んでいけるような構成ではあるといえる。ただ、各章それぞれテーマはあるというものの、思い付いたままに書きなぐっていったような展開の仕方で、ちょっと気を抜くと自分が今どこにいるのかがわからなくなる、そんな状態に陥ることが度々あった。

それでも、著者の観察眼とそれを言語化する力、ウォールデン池周辺の自然だけでなく、そこを往来する人々、コンコードの町の人々との交流を通じた人々の営みへの洞察には、十分感銘を受けた。自然や人々へのアプローチの仕方は違うし、1カ所に腰を落ち着けての定点観測という方法論は違うと思うが、日本の民俗学者・宮本常一の著作にも通じるものがあるように感じた。ソローが人々とどのような会話を交わしていたのか、実際にその場で見てみたいとも思った。

また、時折文章にぶち込まれる引用が、古今東西の出来事への著者のアンテナの張り方や、読み込んできた文献の量によって裏付けられており、自然や人々の観察を観察するためのベースにもなっている。

加えて、森での生活に必要なものを自分で作るという、DIY的な要素も、カネを払えば必要なものを買える今の僕らが忘れてしまった、生きるために必要なスキルの重要性を、改めて痛感させられた。

ただ、ソローの『森の生活』が、完全に人間界から距離を置いて森の中で過ごした話かと思っていたらそうではない。ソローは元々コンコードの生まれだし、それが街の中心からちょっと離れた森の中で暮らしていたといっても、街には時々出かけていたようだし、街や近くの民家からの来訪者もあったみたいで、必ずしも人里離れた森の中での一人暮らしというわけでもなかったみたい。それに、わずか2年3ヶ月の滞在だしね。

だからといって、これだけの文章にまとめたソローの評価が下がるわけではない。

冒頭、ソロキャンプの話を出したが、新型コロナウィルス感染爆発が起きて、リモートワークが盛んな世の中になってくると、こういう作品には改めて光が当たっていくのだろう。縁もゆかりもない土地に行ってそこでずっと滞在するような人はさほど多くはないかもしれないが、自分が世話になる土地で地域を見る際の視点を提供してくれる本として、本書を読まれてはどうだろうか。

Walden Or, Life in the Woods and the Duty of Civil Disobedience

Walden Or, Life in the Woods and the Duty of Civil Disobedience

  • 作者: Thoreau, Henry David
  • 出版社/メーカー: HarperCollins
  • 発売日: 1973/06/01
  • メディア: ペーパーバック



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