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『泥の河』『螢川』 [読書日記]

螢川・泥の河

螢川・泥の河

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2013/10/04
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
戦争の傷跡を残す大阪で、河の畔に住む少年と廓舟に暮らす姉弟との短い交友を描く太宰治賞受賞作「泥の河」。ようやく雪雲のはれる北陸富山の春から夏への季節の移ろいのなかに、落魄した父の死、友の事故、淡い初恋を描き、蛍の大群のあやなす妖光に生死を超えた命の輝きをみる芥川賞受賞作「蛍川」。幼年期と思春期のふたつの視線で、二筋の川面に映る人の世の哀歓をとらえた名作。
【購入(Kindle)】
昨年末に『灯台からの響き』を読んで以来、今年は宮本輝作品を少し読んでみようかと思っていた。とはいっても、今までに読めたのは『灯台からの響き』の他には『青が散る』のみ。2月以降、しばらくご無沙汰となっていた。特に5月は手ごわい本ばかりを選んで読んできたので、ちょっと読書に疲れてきていた。こういう時こそ週末は小説だろうと思い、久々の宮本作品をキンドルでダウンロードした。

「泥の河」は1977年のデビュー作、「螢川」も同年発表の作品で、いずれも文学賞を受賞し、80年代には映画化もされた。多分、著者としては編集者と読者の信頼を得るために最も力を入れた時期だった筈で、信頼を勝ち得て安定飛行に至ってからの作品と比べても、作風の鋭さが際立った作品になっているのだろうと想像する。読者の注目を引き付ける素材、流れるような文章、それでいて読者が光景をイメージしやすい表現、久しぶりに「これぞ文学作品」というような美しい文章を見たなという気がする。

両作品が発表された頃、僕は中学生で、「螢川」の水島竜夫君と同世代だったわけだ。発表されてすぐに読んでいれば、それからの数十年、宮本輝作品の愛読者となっていたかもしれない。実際、そういう人は多かったみたい。自分が主人公と同じ世代だった頃に作品と出会っていれば、一生忘れられない作品になっていったに違いない。その代わり、僕は「螢川」の次に芥川賞を1978年に受賞した高橋三千綱『九月の空』を高1の春に同級生の岩田さんから教えられ、同世代の主人公・小林勇君に共感して、高校3年間を剣道に打ち込んだのだが…。

そういう意味では、我が子に薦めるにもちょっとタイミングを逸してしまったのかもしれない―――。

「泥の河」の舞台は昭和30年の大阪、「螢川」は昭和37年の富山である。この頃は、まだ大東亜戦争の際に兵役に駆り出されて戦地に赴いていた帰還兵の方々が残っており、夫を戦地に送り出して帰りを待ち望んでいた女性も多くいた時代だと思う。両作品とも主人公の父親は帰還兵だ。また、朝鮮戦争がもたらした好景気で、復興が一気に進んで経済発展が見え始めた時期でもあった。「螢川」の方は、そうした経済発展の流れにうまく乗れなかった父親とその妻子が描かれている。

先ほどいずれも映画化されたと述べたが、「泥の河」の方はモノクロで、昭和30年頃の大阪って本当にこんな感じだったんだろうなというのがよく描かれている。これが1981年の作品だというのには驚かされるが。それ以降に、こうしたモノクロ作品って、製作されたことがあるのだろうか。


そして、「螢川」の方はカラーだ。原作は「雪」「桜」「螢」の3章で構成されており、映画の方もこれらの光景をふんだんに用いて印象的な映像に仕上げている。原作を読んだ直後に映画の方を見ると、いくつかの点で原作と異なる設定が用いられている。原作では、竜夫が別のクラスだった英子を蛍の大量発生を見に出かけるのに誘うために声をかけるシーンに唐突感が正直あったが(逆に言えば、よく勇気出して誘ったなというのが驚きだったが)、映画の方はクラスメートという設定にして、誘う前から何度も会話を交わしているので、蛍観察に出向くシーンへの持って行き方が自然なような気がした。


さあ、こうなると宮本輝の「川」三部作の最後、『道頓堀川』を近々読まねばなるまい! そんな気になっている。

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