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『不平等の再検討』 [仕事の小ネタ]

不平等の再検討――潜在能力と自由 (岩波現代文庫)

不平等の再検討――潜在能力と自由 (岩波現代文庫)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/10/17
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
人間の不平等の問題は、所得格差の面からだけでは解決できない。1998年にノーベル経済学賞を受賞した著者は、本書で、これらの問題を「人間は多様な存在である」という視点から再考察することを提案した。「潜在能力アプローチ」と呼ばれるその手法は、経済学にとどまらず、倫理学、法律学、哲学など関連の学問諸分野にも多大な影響を与えている。現代文庫版では、参考文献を改訂し、現代の日本における不平等に関する議論を本書の視点から考察した訳者による解説を新たに付した。
【随分昔に購入】
読書メーターを使った読書管理は2009年頃から始めたが、その初期に積読本リストに早々に掲載しておきながら、そのままずっとそのリストの末尾近くに滞留させ続けたアマルティア・センの著書である。今では再判文庫化されてしまったが、僕が持っているのは岩波書店から1999年7月に出た単行本である。

発刊時期は、ちょうど著者がノーベル経済学賞を受賞した後だったから、著者の提唱する「潜在能力アプローチ」を理解するための1冊として注目された。今となっては購入時期も判然としないが、可能性が最も高いのは、著者が故・緒方貞子氏とともに共同議長を務めた、国連の「人間の安全保障委員会」の最終報告書が出るか出ないかという2003年の秋頃だったのではないかと思われる。本書と同じ頃、『貧困と飢饉』『自由と経済開発』『経済学の再生』もなぜかまとめ買いして、そのまま書棚に滞留させている。それなのに『不平等の再検討』だけを読書メーターの積読本リストに載せたのは、購入してから数年経過した後、その当時の状況で読んでおいた方がいいと判断したのが本書だったからだと想像する。

それなのに、なんと10年以上にわたって積読本リスト上に放置していたことになる。著者に対して申し訳ない気持ちとともに、自分自身の不甲斐なさも感じてしまう。結局、必読だと思っていた本書を読まなかったのは、僕が大学院博士課程を断念したというのが大きい気がする。

ただ、月日は流れて、「誰も取り残さない」と人々が安易に口にするようになったSDGsの時代、僕らは一体、誰を取り残さないように配慮せねばならないのか、改めて考えてみることが必要な気もしている。例えば、絶対貧困に対して相対貧困という概念を引き合いに出して、先進国にだって貧困は存在するという論じ方をされているSDGs解説本は結構見かけるけれど、絶対貧困にしても相対貧困にしても、結局のところ所得を基準に見ているという点では共通している。

センの著書を読んでみて、「潜在能力アプローチ」は所得を基準には見ていないけれど、それでも先進国にも存在する貧困というものを捉える枠組みを提示しているという可能性が示唆されている。それほど紙面が割かれているわけではないけれど、そもそも開発途上国か先進国かという線引きも1人当たり国内総所得の水準で行われているのだから、両者を分けた議論に与しないところは著者にはあるような気がする。

何カ所かに線は引いたけれども、序盤の数章は、正直言うと読者が集中して読んでいるかどうかを試されているような難解な記述だった。ロールズの「公正としての正義」の理論について、頻繁に引用しているわりに、読んでいてロールズに与さないとかロールズから批判を受けたという記述があったりして、両者の間で論争があったような記述があるが、そもそも僕はロールズをほとんど理解していないから、両者の論点がよくわからないのである。僕自身のベースが理解を難しくしているので、難しいのは著者の責任だとは思わない。

しかし、我慢して読み進めると、第6章「厚生経済学と不平等」、第7章「貧しさと豊かさ」あたりで、ようやく著者が何を言いたいのかが理解できてきた気がした。まさに、貧困とか不平等に関する考察のあたり。このあたりがなんとか理解できたので、少しほっとした。

機会があれば、もう少し読書に集中できる環境で、改めて読んでみたい気がしないでもない。ただ今は、長年滞留させてきた積読本を1冊クリアできたことで良しとしたい。

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