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『紙の建築 行動する』 [持続可能な開発]

紙の建築 行動する――建築家は社会のために何ができるか (岩波現代文庫)

紙の建築 行動する――建築家は社会のために何ができるか (岩波現代文庫)

  • 作者: 坂 茂
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2016/06/17
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
人は自然災害によって死ぬのではなく、建物が倒壊することによって命を落とす。しかし災害が起こった場に、建築家の存在感は薄い―そのような問題意識により、世界中の被災地で避難民を支援してきた坂茂。2014年にプリツカー賞の栄誉に浴した独創性と人道的取り組みへの意志は、どのように実践されてきたのか。地震と向き合わなければならない日本社会において、最も注目すべき建築家の思いと行動を伝える、最新インタビューを「あとがき」に加える。
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昨年末に『Voluntary Architects' Network―建築をつくる。人をつくる』を読んで以来、坂茂先生の著書をもう少しリサーチしてみたい気持ちに駆られていて、入門編としてはちょうどいいと思い、手始めにこの岩波現代文庫の1冊を入手した。岩波現代文庫はどこの書店に行ってもそれほど大きなスペースがないので、5年近く前の本だと棚に残っているケースはかなり稀だ。ブックオフも含めて何軒かの書店で物色し、ようやく見つけて購入した。

本書の初版が書かれたのは『Voluntary Architects' Network」よりも前のことだから、序盤の阪神・淡路大震災における「紙の教会」「紙のログハウス」あたりは、既視感あるカラー口絵が多かった。ただ、本書の方はさすがに読み物になっているので、誕生までのストーリー、特に被災地住民の理解を得るまでの葛藤と自治体の事なかれ主義との闘いなどは、読んでいて勉強になった。

読み進めていくと、続いて良かったのが坂茂先生のライフヒストリー的な留学や師との出会いが述べられている中盤の2章だった。内外を問わず被災地でのシェルター建設を地元で入手可能な材料を用いて行われているが、特に開発途上国の被災地での活動に、あまり「日本」という旗印を感じない、そこに集うボランティアの多国籍性が印象的だ。坂先生が途上国の現場との接点を持ったきっかけがUNHCRだからということもあるのだろうが、それ以前に米国留学で培われたネットワークがあるのだろう。

坂先生の建築の核は紙管の活用だから、途上国の被災地への適用を考える上で、紙管の現地生産能力は気になるところだ。実際にルワンダでは現地生産実験も行われたようであるが、その結果については本書では詳述はされていない。シェルター建設以外に、平時に紙管の需要があるのかどうかもわからないし、単純に紙というよりも、耐水性を高めるためのコーティングなども行われるのだろうから、現地生産に至るのは大変だろうなという気はする。

ちょっと惹かれたのは、VANが2015年のネパール大地震の後、復興住宅の提案を行っているという記述であった。この辺りは文庫化するにあたって増補された箇所なのだが、僕はネパールや、また著者がそれ以前に2001年に関わられたインド・グジャラート州大地震のあったインドの弱っちいボール紙の品質を身をもって体験しているので、そんなところで紙管が果たして現地生産できるのだろうかと懐疑的もあった。

それで、本書読了後、少しだけVANのネパールでの活動を調べてみたのだが、避難用シェルターとしてはやはり紙管を用いられるようで、しかもどこの国でも安く手軽に既製品の紙管が手に入るのに対し、プラスチックや合板のコネクターは製造に手間がかかるという記述があった。そうなんだ…。
http://www.shigerubanarchitects.com/works/2015_nepal_earthquake-2/index-jp.html

実は、このネパールでの活動に興味を惹かれたのは、同様の取組みが近隣国でもできるのだろうかと気になっていたからだ。ブータンの科学技術カレッジ(CST)には建築学科があるが、伝統的組積造建築の耐震性能強化とかの取組みはあるのかもしれないが、万が一実際に大地震のような災害が起きてしまった時に、避難所を迅速かつローコストで立ち上げるような方策の検討まではおそらく行われていないだろう。VANの取組みをブータンでも知ってもらうような仕掛けが考えられないものか―――本書を読みながら思ったところである。

灯台下暗しというか、この紙管を使ったシェルターが市ヶ谷に展示されているらしいので、近々見学に行ってみたいと思っている。

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