『テクノロジーが雇用の75％を奪う』：サンチャイ☆ブログ（संचै पत्र）：SSブログ

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『テクノロジーが雇用の75％を奪う』　[読書日記] [編集]

出版社/メーカー: 朝日新聞出版
発売日: 2015/02/20
メディア: 単行本

内容紹介
「今世紀のうちに雇用の75%は消滅する! 」――。本書の原書 The Lights in the Tunnel は、2009年に自費出版されるやアメリカ国内外で大きな反響を呼び、「2045年問題」「雇用なき経済回復」などの機械と雇用収奪の問題を指摘する議論の嚆矢となった。気鋭のIT起業家である著者は、誰よりもシビアに労働市場の現実と未来を語る。低賃金の熟練工だけでなく、今後はホワイトカラーなどの中間層も収奪の対象となるだろう。経済学者はイノベーションによって新たな雇用機会が誕生するというが、指数関数的に発達するコンピュータによって新規雇用さえ奪われているのが現状だ。雇用格差は拡大し、このまま自由市場経済は破綻してしまうのか。危機を乗り越えるためにはどうすればいいのか。社会・環境保護を視野にいれた、著者独自のラディカルな未来構想が提示される。

【市立図書館（MI）】
この本は、父の衰弱で里帰りの予定日を前倒ししなければ、3月25日の段階でブログでもご紹介できていた筈なのだが、その後のバタバタで紹介を今日まで後回しにしてしまった。僕が読書記録を管理している読書メーター上では、2015年頃からずっと「読みたい本」のリストに上がりっぱなしになっていた1冊で、さすがに6年間も放置しておくのは心苦しいと思い、市立図書館で借りて読むことにした。

この手の本は2015年頃には多く世に出ていて、タイトルだけ見たら結構煽っている感じであった。それから6年が経過し、AIなんて言葉が当たり前に職場の中で飛び交ったりすると、世の中は当時描かれていた方向に向かおうとしているのかなという気は確かにする。

本書も、コンピューターが処理能力と普及台数の両面で驚異的な速度でその勢いを伸ばす一方、平均的な人間がその能力を伸ばすペースは頭打ちとなりつつあり、機械化に伴う影響は、想像されているよりもはるかに広い範囲に及ぶと指摘している。これくらいの職種は機械にとって代わられることはないだろうと思われているような仕事も、いずれコンピューターの能力が追いついていくと予想している。

さらに著者は、テクノロジーの進化が加速し、機械による自動化が経済全体に浸透すると、大半の消費者は、賃金によって十分な可処分所得を得られなくなり、その結果、将来への信頼さえ喪失していく。何もしなければ、経済そのものが下方スパイラルに陥っていくと見られている。短期的には賃金労働者ではなく、機械化投資が可能な資本家なのかもしれないが、結局技術革新によってより効率的に生産されたものを買ってくれる消費者がいないので、結局、どんどん経済縮小へと向かっていくのだという。

さらに著者は、事態がその通りに展開するなら、こうした状況に唯一策を講じられるのは政府であると主張する。民間部門では生来、この危機に立ち向かうというより、むしろ加速する性質の誘因が備わっているのだとする。所得の集中という流れが現在進行しているのは、オートメーション技術とグローバリゼーションが急拡大しているせいであるとともに、累進課税に関する適切な運用が欠如しているからだと指摘する。

そこで著者が提唱しているのが、法人税算定の際に、従業員の年収に対して累進スケジュールを導入し、従業員に対して多くの賃金を支払うほど、雇用主の所得控除が大きくなるというインセンティブを設けることである。そうすれば、従業員は週５日も６日も働かなくても賃金は保証されるから、それを消費に向けられるし、余った時間を別の生産活動や社会活動に振り向けたりもできる。

とまあ、提唱されていることにはそれなりに同意したくなる。所得格差が広がっているのなら、沢山もらっている人からもらっていない人に対して所得の再分配がなされればいいとは思える。だが、こういう再分配政策が政治的に受け入れられるものなのだろうか。実現可能性という点では課題も大きいように思える。

本書は2009年に個人出版で世に出たのだそうだ。著者本人もシリコンバレーでソフトウェア開発の企業を創業したご経験もあるのだそうだが、そういうキャリアの方でも驚きなのは、ケインズとかマルクスとかいった古典から、比較的近刊でよく名を聞く文献に至るまで、結構読み込まれていることである。僕は起業家ではないが、どんな立場で仕事していようとも、読まなければならない必須の文献が必ずあると、改めて肝に銘じた。