SSブログ

『〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史』 [読書日記]

〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史

〈メイド・イン・ジャパン〉の食文化史

  • 作者: 畑中 三応子
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2020/07/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
「日本の食はすごい」説は、どこから来たのか? 舶来モノに目がなかった日本人が、「国産」をありがたがる時代。一体、何が起きているのか? 地産地消ブームから貿易政策まで、メイド・イン・ジャパンの威光を放つ物事の“本当のところ、どうなのか”を徹底検証。知っているようで知らない食卓の歴史。
【コミセン図書室】
このところ近所のコミセン図書室へ行くときは、週末読書で使える小説を2冊ぐらい借りることが多いのだが、先週末に借り直した際は、小説を1冊減らし、その分週末だけで読了できそうなノンフィクションを1冊増やしてみることにした。ノンフィクションといっても、研究者が書くとちょっと文章が方そうだったので、元々読みやすい文章が書けるジャーナリストが著したものを加えるようにしてみた。

その結果が本書である。「週末」というわけにはいかなかったけれど、23日が天皇誕生日の祭日だったことから、この2日間で読み切ったことになる。特に、23日は、僕にしては珍しくスギ花粉症が急に悪化して、鼻水と目のしょぼつきが止まらなくなり、とても外出する勇気もなく、やや寒気もしたので、もっぱら家の中にいて、それで多くの時間を読書に充てた。(ほかにもやるべきことはあったのだが、後回しにした。)

ジャーナリストが書いた本だから、とにかく読みやすかった。評者によっては分析が足りないとの辛口コメントも目立つが、少なくとも僕ごとき読解力の読者であれば、このタイプの通史でもかなり勉強ができる。いや、勉強というよりは、復習と言った方がいいだろう。

少なくとも、僕が大学生になったばかりの1980年代前半といったら、食糧自給率が40%ってヤバくないかという議論はあったし、そのうちに日米貿易摩擦が激化して、その中で牛肉・オレンジの市場開放が交渉の俎上に上った時期であった。それがコメにまで波及するかと戦々恐々となっていたところに、1993年はすごい凶作で、コメ市場を守るどころか、緊急輸入を余儀なくされた。

さらに、1980年代前半は、「グルメ」という言葉が出てきた時代で、僕はそういう時代に大学進学のために上京してきたものだから、故郷の実家で口にしていたものと、東京の食べ物のきらびやかさとのギャップをよく感じたものだった。

著者は、「和食のユネスコ無形文化遺産登録で、またしても強化された「日本の食はすごい」というメイド・イン・ジャパン礼賛が、どこから来てどのように形成されたかを検証するのが私の課題だったが、結局メイド・イン・ジャパンの食文化なんて、どこにもない幻想だったじゃないと畳みかけるようなことばかり書いた気がする」(p.221)と認めておられる。明治維新にまで遡ると、そもそも文明開化で、政府の公式晩餐の席上での料理はフランス料理と決められたそうだし、1980年代のグルメブームを主導したのも欧州帰りのシェフだったではないかと指摘されている。意外と日本は日本食や日本食材を大事に守ろうとはせず、外国からの食材をどんどん入れてきた。

通史として本書を読むと、日本食をもって「日本すごいぜ」と胸を張りたいとは正直思えない。それとは逆方向のちぐはぐなことを政府と日本人は随分とやってきているじゃないかという気になってしまう。

ただ1つ言えることは、フレンチであってもイタリアンであっても中華であっても、日本人は外国の料理をコピーするというよりは、日本人の口に合うように適応させる取組みには長じていたのかもしれない。僕らの業界で最近よく言われる「Adopt and Adapt」というやつが、食文化についても当てはまるということらしい。ややもすると、本場の料理よりもすごいのが食べられるのが日本なのかも。でも、それって「日本食」って言うのかなぁ~。

通史だから、いい復習になる読み物だった。どこかで連載でもされていたのを合冊したような構成だったが、強いて言うならば、メイド・イン・ジャパンの食材の輸出の可能性ってどうなんだろうかと思ってしまった。確かに、今これだけ日本の食料自給率が下がってしまったのは政府の政策の結果だし、日本人の消費行動の結果でもあるのだけれど、世界的に見たら食料は将来不足する可能性が高いと見られている。日本国内の市場動向だけを見て生産規模を調整するのではなく、食料援助に回せるだけの規模で生産をやったらいいのではないかと思う。費用に見合わないという指摘もあるだろうけど。そういうのも含めての論考にしてほしい。

nice!(8)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 8

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント