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『オービタル・クラウド』 [読書日記]

オービタル・クラウド

オービタル・クラウド

  • 作者: 藤井太洋
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2014/02/21
  • メディア: 単行本
内容紹介
流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb制作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミ(デブリ)の不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーション(ISS)を襲うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリの調査を開始した。その頃、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデブリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだった―――電子時代の俊英が近未来のテクノロジーをリアルに描く、渾身のテクノスリラー巨篇!
【市立図書館MI】
今年は毎月藤井太洋のSF作品を1作は読むというノルマを自分に与えているので、先月の『Gene Mapper-full build-』に続き、藤井のデビュー2作目となる『オービタル・クラウド』を今月は読むことにした。単行本のカバーで上記ご紹介しているが、市立図書館で借りたのは上下巻からなる文庫版である。だから、文庫版で読んでの感想となる。

SF作品を読むときは毎回感じるのだが、作品の世界観はなんとなくは感じることができても、登場する科学技術の1つ1つのディテールはよくわからないことが多い。実写版の映画にでもなってくれたらもっとイメージがしやすくなると思う。CGとか用いたらすんなり作れちゃうような時代かもしれないし。

本作品は2014年に発表されているが、舞台は2020年とわりと近未来の話で(もう過ぎているじゃない!)、その頃までには実用化が進んでいるような科学技術を用いて作品は描かれているようなのだが、話のスケールはものすごくデカい。NORADやらCIAやら出てくるし、日本でも、渋谷のシェアオフィスからJAXAまで飛び出すし、イランだけでなく北朝鮮、果ては中国まで出てくる。衛星軌道上のゴミというのはこれまでに衛星軌道を利用しまくってきた先進国の独壇場のようなところで、技術を持たざる後進の国々は宇宙利用になかなか食い込む余地がない。そういう、ちょっとSDGsの策定交渉の際に見られたような「先進国vs.途上国」という対立の構図に似たものが、衛星軌道上にもあるのかと思う。それが遠因となって、本作品のような「スペース・テロ」というアイデアにつながっている。

これだけ登場人物とそれぞれが元々いた場所が異なると、次々と場面を切り替えてとりあえず全員登場させ、それを二巡ぐらいし終えるまでは、読み進めるスピードも遅い。それぞれがどう繋がっているのかわからないから、和海と明利が渋谷のシェアオフィスでやっていることと、ダレルが上官とやり合っているロッキー山脈の山中(NORAD)がにわかにはつなげて捉えられないし、それで次はどこの誰のシーンだろうという予想も付けにくいから。

そんな状態が上巻の最初の100ページぐらいまでは続く。ただ、そこからの展開が早い。北朝鮮の仕掛けるスペース・テロの陰謀に巻き込まれて和海と明利が日本を後にしてシアトルに向かうあたりから、そもそも下巻ののっけからテロリストとの直接対峙があるのではと期待まで抱かせて、下巻のボリューム分の展開をどう引っ張るつもりなのかが読めず、どんどんページをめくることになった。確かに北朝鮮のテロリストとの直接対峙は意外と早く登場するが、そこから次のどんでん返しがあり(しかも、確かにそうなるわなぁという展開だった)、全く中だるむところもなかった。下巻は10日の祭日1日で読了だ。

「スペース・テザー」という、本作品の中心を成す理論はあまりよくイメージできなかったけれど、それでも十二分に作品を楽しめた。途中、天才的プログラマー明利が、シアトルのDIYショップで買い揃えたもので、データ流出を防ぐ完全遮断のオペレーションルームに改装したり、ラズベリーパイを何十台もつなげて、膨大なデータを分析するシステムを組み立てたりといったシーンも出てくるが、そういうDIY的なシーンも僕にはとても興味があり、それこそもっとイメージがしやすい実写版でも作ってくれないものかと思ってしまった。

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