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『インドの経済発展と人・労働』 [インド]

インドの経済発展と人・労働: フィールド調査で見えてきたこと

インドの経済発展と人・労働: フィールド調査で見えてきたこと

  • 作者: 木曽順子
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2012/12/20
  • メディア: 単行本
内容紹介
発展著しいインド経済。それにより労働者の多様性は一層鮮明になってきた。生活まで踏み込んだフィールド調査でその実態に迫る。
【会社の図書室】
この本は、会社の図書室から借りて読んだものだが、実はそもそも会社の図書室に入れた張本人は僕である。2012年に大学院の指導教官から読むように勧められたので購入したのだが、2012年度末をもって僕はその大学院を自己都合退学した。インド駐在を2010年6月に終えて帰国して、しばらくは細々とでもインドと関わるようなことを、仕事でもプライベートでもしてきていたのだが、この大学院退学をもって完全にインドと関わる機会を失った。そんな中で、本書を読もうというモチベーションも起こらず、僕自身がキープしておくよりも他の人にも読んでもらえるようにしておいた方がいいと考え、図書室に寄贈した。

当然ながら、指導教官にも大変申し訳ないことをしたと思っている。既に退官もされて5年が経過する。先生の最後の弟子として期待をかけていただいていたのに。その後取り組んできたことを上手く組み合わせれば博士論文にまで仕上げることも可能かもしれないが、先生が退官されて以降、母校で僕の研究したいテーマで指導して下さる先生もいらっしゃらないため、どうしようか思案中である。とはいっても今自分が論文にまとめたいと思っているテーマは必ずしもインドがフィールドではないため、参考文献として本書を用いることはないと思う。

本書を購入した当時の僕の関心は、「インド北部から南部への人口移動は起こり得るのか」ということだった。例えば、ウッタルプラデシュ州やビハール州の貧困世帯なら、おそらく出稼ぎ労働者の行き先はデリーやコルカタ、ムンバイなどなんだろうが、それがバンガロールやチェンナイ、ハイデラバードあたりまで出稼ぎに行くような人はいるのだろうかということだった。今回本書を読んでみたけれど、その著者のフィールドはグジャラート州アーメダバードらしいので、2012年の購入直後に本書を読んでいたとしても、当時の僕にとって参考になったかどうかはかなり怪しい。

では今はどうか。今の僕の関心は、「オディシャ州やテランガナ州からムンバイ、アーメダバード方面への人口移動」である。そして、実際にこれらの州から出稼ぎに行った労働者が、どういう環境で生活し、どんな仕事を得ているのかということだった。それは、僕が2017年からプロボノで関わっている某財団法人が抱えているインド事業の文脈での話である。

こうした都市に滞在して日雇い労働に従事している人々の仕事や暮らしの実態については、本書には描かれている。だいたい想像はしていたが、そうした想像があながち誤りではないというのが確認できたという点では良かったと思う。

ただ、意外だったのは、アーメダバードに来ている日雇い労働者の大半は、グジャラート州内から集まってきているという指摘だった。そうなると、州外から来ている労働者に光が当たらない。特に、グジャラート州の場合、チャッティスガル州からの州またぎの人口移動の目的地になっているような特別な関係があると何かの文献で指摘されていた記憶があるが、そういうのには全く言及されていない。

また、本書ではこうした日雇い労働者の季節移動の実態にまで光が当たっていない。なんとなくだが、モンスーンの時期はあまり仕事がなく、それ以外の時期は仕事が多いという書きぶりで、モンスーン期には村に戻って農作業をやっているのではないかというのが示唆はされていると思われるが。

僕の関わっている財団法人のインド事業は、フィールドがオディシャ州南部とテランガナ州北部なのだが、どちらも2月に豆類の収穫期が終わると、6月のモンスーン入りまでの約3カ月間、村から出稼ぎに行く人が大勢いる。去年はその出稼ぎの時期が新型コロナウィルス感染拡大に伴う全国ロックダウンと重なってしまい、多くの出稼ぎ労働者が、仕事も得られず、現金収入も得られない中、汽車のチケットも確保できず、村に戻るのに難儀した。影響を受けた出稼ぎ労働者の規模は、数百万人から数千万人とも言われている。

僕が知りたかったのは、こうした農村において、どういう人は出稼ぎに行き、どういう人は村に残るのかという整理と、出稼ぎに行く人がどういう伝手を辿ってどこに出稼ぎに行くのか、それが各世帯の月別の現金収入の平準化の取り組みにどのように貢献しているのか、出稼ぎが急にできなくなるとどのような影響があるのか、そして、出稼ぎに代わり、州内ないしは村内でどのような代替収入源を創出し得るのかということだった。

残念ながら、著者のフィールドは都市部なので、こういう、都市労働市場を支える農村部という視点での考察はあまりなされていない。でも、仮に都市部がフィールドであったなら、都市スラムに暮らす人々が、年間通じてずっとそこに暮らしているのか、頻繁に職場を変えているのなら、季節労働者もいる筈で、1年の間に出入りも結構あるのではないか、そのあたりの実態に光が当たっていれば、今の僕にとってはもっと参考になる文献だっただろう。

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