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『青が散る』 [読書日記]

青が散る (1982年)

青が散る (1982年)

  • 作者: 宮本 輝
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/01/11
  • メディア: -
内容紹介
燎平は、新設大学の一期生として、テニス部の創立に参加する。炎天下でのコートづくり、部員同士の友情と敵意、勝利への貪婪な欲望と「王道」、そして夏子との運命的な出会い―。青春の光あふれる鮮やかさ、荒々しいほどの野心、そして戸惑いと切なさを、白球を追う若者たちの群像に描いた宮本輝の代表作。退部を賭けたポンクと燎平の試合は、三時間四十分の死闘となった。勝ち進む者の誇りと孤独、コートから去って行く者の悲しみ。若さゆえのひたむきで無謀な賭けに運命を翻弄されながらも、自らの道を懸命に切り開いていこうとする男女たち。「青春」という一度だけの時間の崇高さと残酷さを描き切った永遠の名作。
【コミセン図書室】
新成人の皆さん、おめでとうございます!
今日は成人の日である。既に自分の子どもたちのうち、成人式を控えているのは1人を残すのみなので、成人の日だからどうだというのは特にはないのだけれど、たまたま読了した宮本輝作品が新成人を迎えるような若者たちを描いたものだったから、本日のご紹介はこれにさせて下さい。

『別冊文藝春秋』で1978年夏から82年夏まで連載され、82年には単行本化された作品で、83年秋にはテレビドラマ化もされている。作品の舞台はもっと昔、大学紛争があった60年代末だった。ドラマのイメージで東京のお話なのかと思っていたが、原作読んでみたらどうやら作者の通っていた追手門学院大学が舞台で、登場人物はほとんどがこてこての関西弁を話す。また、時代が大学紛争の頃だからといって、そういう空気はほとんど感じさせない。なにしろ出てくる学生が真面目に授業に出て勉強しているというシーンがほとんどないのだから。

作品の舞台と発表時期との間に10年近い時差があるわけだけれど、それほどの時差は感じなかった。それどころか、この作品が単行本化され、僕が大学入学した1982年頃にもこういう空気は残っていた。僕が大学に上がる頃の話だと言われても何の違和感もない。

それだけに、この作品を読んで思ったことがある。単行本が出た直後にこの作品と出会っていたら、僕の大学生活はどう変わっていたのだろうか―――。

これまでにも時々触れてきたことだが、僕は1979年に高校入学してすぐ、高橋三千綱『九月の空』を読んで高校3年間を剣道と共に過ごしてきた。この出会いにはものすごく感謝している。

で、もし大学入学直後に『青が散る』を読んでいたら、所属サークルの選択とか、当時付き合っていた彼女との距離感とか、その他学生生活で直面した様々な苦悩とかとの向き合い方とか、随分と違ってきていたのではないか。あの頃はなんでそんなしょーもないことにくよくよ悩んでいたのか―――社会人になって十数年も経過して、大学生時代の自分自身を振り返ると、そう苦笑することが多い。もしこういう作品に早くに出会っていれば、「そんなこと、織り込み済みですよ」「女子大生って、そういうものでしょ」と、泰然自若で過ごせたかもしれないなと思う。

確かに、1980年代前半の大学キャンパスの煌びやかさの象徴はテニスだった。体育会庭球部だけじゃなく、同好会愛好会も乱立していて、僕のクラスメートにもテニスをやっていた奴が5人以上いた。僕らの世代や先輩世代には今も時々テニスをやるという人が結構多いが、それはこうした高校大学時代のメジャースポーツにいそしんだ名残だと思えば納得もいく。

これ読んでいたらテニス部入っていたかな―――とは思わないけれど。ただ、素人が見たら単に来た球を打ち返しているとしか思えないテニスが、そんなに奥が深い競技なのかというのがわかって、それもまた面白かった。但し、特にテニスの試合のシーンで顕著に見られる段落切りの少なさは、ちょっと読みづらさにもつながるが。

そして、こういう学生生活を送った登場人物の皆さんが、40年以上経った今、どのように過ごしておられるのかを描いたような宮本作品はないものかな~、などとないものねだりをしてしまうのであった。

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