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『小さな地球の大きな世界』 [持続可能な開発]

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

小さな地球の大きな世界 プラネタリー・バウンダリーと持続可能な開発

  • 出版社/メーカー: 丸善出版
  • 発売日: 2018/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
プラネタリー・バウンダリーは、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の基礎となった概念です。著者のロックストローム博士はこの概念を主導する科学者グループのリーダーであり、本書はSDGsをより深く理解するのに役立ちます。私たちは、地球上の自然には限りがなく、それを使ってどこまでも豊かになれると誤解してきました。しかし、人類の活動の爆発的な拡大により地球は限界に近づき、増え続ける異常気象、生物種の大量絶滅、大気や海洋の異変など、地球は私たちに重大な警告を発しています。いまこそ、地球環境が安定して機能する範囲内で将来の世代にわたって成長と発展を続けていくための、新しい経済と社会のパラダイムが求められています。本書は、科学的なデータと美しく印象的な写真を用いて地球の状況を示したうえで、人間と自然の関係を再構築するプロセスを提示し、その実現への励ましを与えてくれます。
【コミセン図書室】
実は、本書は12月にコミセン図書室で借りて、返却期限までに読み切れずに2週間の延長手続きを取り、それで年末までには読み切っていた本である。本書刊行の経緯については監修者の1人が本書の冒頭で語っておられるが、2015年に出た原書がいい本だから、日本の読者にも紹介したいと考えた石井菜穂子氏が、訳本刊行への協力をIGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)に打診し、IGESの首脳陣がそれに乗ったということだったらしい。

でも、できれば原書同様、電子書籍版も作って、書籍版よりも安く販売して欲しかったとも思う。メッセージとしてはいい本なんだけれど、税別で3,200円という価格は高すぎ。美しい写真や示唆に富んだカラー図表を何点も挿入するために上質の紙を使って印刷されているからなのかもしれないが、これに3,200円は出せないなぁ。取りあえず通読した上で、必要ならコミセン図書室で再び借りることにしよう。

SDGsについては多くの解説書が書店の棚を賑わせているが、理論的支柱にまで踏み込んだ解説書はあまり多くない。企業にとってのビジネスチャンスだ主張する本では、SDGsの理論的支柱と言われた「プラネタリー・バウンダリー」にまで言及していないことが多い。僕も最近はSDGsについて人前で話す機会が少しあり、それが昨秋あたりからSDGsの解説書を文献リサーチする動機となっているが、この際だからプラネタリー・バウンダリーについてまるまる1冊扱っている文献でも読んでみようかと思い、本書を手に取った。

「プラネタリー・バウンダリー」は、Wikipediaによると、「人類の活動がある閾値または転換点を通過してしまった後には取り返しがつかない「不可逆的かつ急激な環境変化」の危険性があるものを定義する地球システムにおけるフレームワークの中心的概念」で、ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストロームとオーストラリア国立大学のウィルステファンが主導する地球システムと環境科学者のグループが、持続可能な開発のための前提条件として、あらゆるレベルでの政府や、国際機関、市民社会、科学界および民間部門を含む国際社会のための「人類のために安全動作領域」を定義するように設計されたフレームワークとして提案したとある。

彼らの研究成果は科学誌『ネイチャー』に2009年9月24日に掲載された(https://www.nature.com/articles/461472a)。英語ながら4頁程度のポリシーブリーフなので、読もうと思えば読めるが、この記事は今日現在13万件以上のアクセスがあり、論文での引用回数も5000件を超えている。本気でSDGsを学ぼうと思ったら、必読のペーパーかもしれない。そして本書は、それを一般読者、市民向けに易しく解説するために書かれたもので、そのために美しい地球資源の写真もふんだんに挿入されている。

しかし、挿入写真が美しいからといって、メッセージが優しいわけではない。実は地球は結構ヤバい状況にあるというのがこれでもかこれでもかと伝わってくる。プラネット・バウンダリーでは、地球のとっての安全域や程度を示す「限界値」を有する、以下の9つの地球システムのプロセスを挙げている。
・気候変動
・生物圏の保全
・新人工物質
・成層圏オゾン層の破壊
・海洋酸性化
・生物地球化学フロー(リン、及び窒素サイクル)
・土地利用の変化
・淡水利用
・大気エアロゾルの負荷
その上で、これら9つの領域を同心円の円周上に配置し、中心に近い領域から外周に向かって、「臨界値未満(安全)」「不確実性領域(リスクの増大)」「不確実性領域超(リスクが高い)」を配置している。本書では、2014年のプラネタリー・バウンダリーも示されているが、既に、「生物多様性」のシステムのうち「生物種の絶滅率」が、また「生物地球化学的循環」のうち「窒素」と「リン」が、既に限界値をはるかに超えて、ハイリスクの領域に入っていることが指摘されている。同様に、「気候変動」と「土地利用の変化」も、限界値を超えてリスクの増大が懸念される領域に到達しているとある。

こうなってくると、それまではブレーキとして機能してきた地球環境が、逆に変化を促進・加速する方向に機能し始める事態に陥る恐れがあるということになる。

そして、例えば僕が今も関わっているインドでの綿花の有機栽培への移行支援の意味についても、僕自身が理解していた以上の意味があると思った。土づくりにおける窒素固定や、リンの流失防止に向けた工夫等も、プラネタリー・バウンダリーへの配慮という点では意味あることなのかもしれない。

また、地球上のある地域で起きた些細な出来事が、他の地域への大きな影響につながった(大きなしっぺ返し)というケースとして、「先端技術を備えた漁船を欧州の水域から追い出すために、EUが最近行った漁業政策の変更が、世界最悪のエボラ・ウィルスの流行につながる事象の連鎖を起こした」とか、「2010~2011年の「アラブの春」がロシアでの熱波から始まった」とか、知らなかった話がいくつか出てくる。不謹慎な言い方だが、これは面白かったし、僕らがやっていることが地球のどこかの誰かに与える影響というのを考える訓練のいい素材にもなると思う。

SDGsの策定までのプロセスを見ていて、またその後のSDGsに関する論者の解説などを聞いていて、貧困削減に取り組んできたグループと、地球環境問題に取り組んできたグループが、あまり交流していないのではないかと感じることがあった。本書の監修者の1人、石井菜穂子氏もご自身が以前世界銀行におられて経緯もあってどちらかというと貧困削減寄りの方だったが、GEF(地球環境ファシリティ)のCEOに就任されて以降、環境問題への傾注が進んだ。両方に足をかけておられる貴重な論者である。僕自身もどちらかというと貧困削減の方を重要視していた人間なのだが、本書を読むと、僕らが貧困削減とか途上国の開発課題を考える場合も、「プラネタリー・バウンダリー」というレンズで見て何をすべきかを考えるようなステップが必要だと痛感した。

示唆に富んだ記述がいっぱいあるので、本当は座右に置いておきたいが、値段がな~。まあ、原書の方は電子書籍版があるようだから、それをキープしておくという手はあるかもしれないが、悩むところだ。


Big World, Small Planet: Abundance Within Planetary Boundaries (English Edition)

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  • 出版社/メーカー: Yale University Press
  • 発売日: 2020/08/11
  • メディア: Kindle版



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