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『プロトタイプシティ』 [仕事の小ネタ]

プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション (角川書店単行本)

プロトタイプシティ 深センと世界的イノベーション (角川書店単行本)

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2020/07/31
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
産業の中心は「非連続的価値創造」にシフトした―。現代は「プロトタイプ」、計画を立てるよりも先に手を動かして試作品を作る人や企業が勝利する時代となった。そして、プロトタイプ駆動によるイノベーションを次々と生み出す場「プロトタイプシティ」が誕生し、力を持った。その代表が中国の深圳である。深圳の成功理由から、個々人の新時代への対応方法まで、執筆陣が徹底開示する!

「まず、手を動かす」
――今年はこれにこだわってみたいと思う。

ソフトウェアの開発手法のモデルには、ウォーターフォールとアジャイルという2つの大きな潮流があるらしい。でも、中国のは違う。「アドホックモデル」とか「ビルド&フィックスモデル」とか呼ばれ、「とりあえずプログラムを組んでみる。そこで問題があれば改善する」というやり方だという。工程分割も開発方向修正を巡る密なコミュニケーションもひとまず措いておき、まず作る、拡張性や保守性は二の次でいい、とにかく作ってみるという発想らしい。

 頭でっかちな計画を立てるよりも、手を動かす中で正解を探していくプロトタイプ駆動。そのプロトタイプ駆動をより効率的に行うために必要なコミュニティが、新興国など新たな都市に芽生えている。プロトタイプ駆動とその実践の場、すなわちプロトタイプシティの時代が始まっている。――あとがき(p.251)

企画書を書くよりも作ったほうが早いからです。頭の中にあるものを他人にわかるように説明するコミュニケーションコストは、かなり必要です。ならば、まずは試作品を作り、それを見せたほうがわかってもらえます。いくら言葉を重ねても伝わらないものが、見れば一瞬で理解できるようになるわけです。自分の場合は、ユニティを使い、とりあえず動作するでもプログラムを作ってしまいます。それが企画書代わりになるわけです。まずは、手を動かしたほうがいい。――第5章でのGOROmanさんの発言(p.232)

深圳ーーというか、中国自体が面白いところだなというのが率直な感想だ。僕は深圳には行ったことがないが、本書の編著者の1人である高須さんが5年近く前に「深圳が面白い」と語っておられたのを思い出す。その時は深圳のお話と自分の目の前にある課題とのつながりがよく見えておらず、「そうですか…」というようなボヤっとした相槌しか打てなかったのだが、それから5年近くを過ごし、さらに近年、『アフターデジタル』やら『メイカーとスタートアップのための量産入門』やら『ハードウェアハッカー』やらを読んでいくと、高須さんが当時から言っておられたことが、少しだけれど腑に落ちるようになってきた気がする。

そして、こういうダイナミックな地域と、今自分の前にある仕事とをどうつないだらいいのかにも、思いをはせながら読み進めることができた。自分が今関わっている国は、「起業」が盛んに慫慂されている割には、「とりあえず手を動かしてみよう」という人が少ないし、深圳ほどの電気電子産業の集積もない。なろうと思ってもプロトタイプ駆動型の都市にはなりようがない気はするものの、例えば以下のようなくだりを読むと、WeChatを使って多品種少量の部品調達が可能なチャンネルが作れたらいいかも、なんて思えてしまうのだ。
たとえば、微店というサービスがあります。中国SNS最大手のウィーチャット上に個人のネットショップを開設できるサービスですが、在日中国人の開設数は、なんと45万店舗に達していると発表しています。開店休業状態のユーザーがほとんどでしょうが、アルバイトや副業として個人輸入代行をサポートする人が、万単位、10万単位で存在するわけです。(p.171)

また、そういう具体的な行動への指針だけではなく、もう少し自分が今やろうとしていることを理論的に捉えられるような枠組みを作るのに参考になるような話も、第4章「次のプロトタイプシティ」の中には出てくる。登壇者の1人である伊藤亞聖さんが挙げておられた、デジタル化が新興国にもたらす影響について考察する上での参考文献のいくつかは、今年どこかで読んでみたいと思う。

中国・深圳のようなプロトタイプシティが他所で成立するための条件として、第4章のまとめとしては、「産業蓄積やアントレプレナーシップの有無」がキーポイントになりそうだと指摘されている。また、GAFAに代表される国際的企業の草刈場にならないために、政府規制やカルチャーや言語、技術流派といっ障壁が機能するのではないかとも示唆されている(p.196)。

そして、日本人である僕らのあり方として、第4章の対談では、次のような厳しい指摘もある。
 海外で働く日本人は、異質なカルチャーに触れることですっとんきょうなアイデアを身につけられるチャンスを得ているわけですが、現実はというと、日本人同士でしかつきあわず、日本本社の顔色ばかりを見て過ごす、日本人村で生きている人々がほとんどです。
 積極的に、現地の生活にコミットすべきです。それは、個々のビジネスマンの生き方でもそうですし、あるいは会社の方針という面でもそうです。大企業の海外進出というと、下請け、それも二次請け、三次請けまで引き連れての大名行列のようになります。国は変わっても、日本と同じことをやるのだという意識の表れですが、むしろ現地と積極的にぶつかり、変なものを体験しながら、なんらかのアイデアを得るべきでしょう。(p.198)

年の初めを飾る、示唆に富んだ書籍であった。

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