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『ハードウェアハッカー』 [仕事の小ネタ]

ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

ハードウェアハッカー~新しいモノをつくる破壊と創造の冒険

  • 出版社/メーカー: 技術評論社
  • 発売日: 2018/10/09
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
世界のイノベーション中心地の1つである深圳に知悉し、スタートアップのハードウェア製造の第一人者だからこそ書けた脅威の書。
◆なぜ、中国経済がいま躍進しているのか?
◆日本企業の多くが停滞している理由は?
◆個人がこれからのイノベーターになるために先ず何が必要なのか?
◆社会がイノベーションを育むためには、何をしていけばいいのか?

2017年の刊行以来、ずっと気になっていた本をようやく手に取ることができた。電子書籍にしても、書籍版にしても、いきなり購入するには勇気が要ったので、先ずは市立図書館で借りてみることに。

う~ん。理解しづらい。監訳者の山形浩生さんが解説で書いておられるが、本書の構成は、
 第1部は著者が会社のネット接続ガジェットを中国で量産した時の話だが、エレクトロニクスの話はそっちのけで、金型だ、射出成形のウェルドラインだ、歩留まりだ、品質管理だという話がやたらに続く。では量産ノウハウの本かと思ったら、第2部は欧米と中国の知的財産の扱いの話から、山寨携帯や中国特産インチキSDカードやLSIをこじ開けてその偽造ポイントをつきとめる話。そして第3部ではクラウドファンディングでハードウェアを設計製造し出荷するまでの苦労話、さらにリバースエンジニアリングを扱う第4部では、LSIのシリコンをむきだしにしてその中身まで書き換える話に、HDMIの映像信号を復号せずに改変する異様な技、はては遺伝子組み換え話まで…(p.416)
―――これで、本書の全容がほぼ語られている。

僕はこういうハードウェアの具体的なハッキング話をそんなに読むのに慣れていないし、自分で手を動かしているわけでもなかったから、著者の体験談には理解困難なところが沢山あった。第1部の話などは、同じ深圳で製品量産に取り組んだ話が書かれている小美濃芳喜『メイカーとスタートアップのための量産入門』(オライリー)の方がむしろ説明も丁寧で理解しやすいに違いない。それが第2部以降話が激変し、自分はいったい何の本を読んでいるんだと戸惑ってしまった。勿論、そんな中にも教訓めいたセリフがちりばめられているし、各部の冒頭の概説とか、各部最終章ぐらいにあるまとめの1章とかは、僕らのような読者もとっつきやすく、読むに値する主張が多く含まれていると感じた。特に、第11章の2本のインタビュー抄録は、ものすごくわかりやすかった。

やっぱり最もぞわっと来たのは、第10章の「生物学とバイオインフォマティクス」で、コンピュータウィルスと豚インフルエンザウィルスを比べたり、豚インフルエンザをハックするような試みが延々語られている箇所だろう。DNAをリバースエンジニアリングしていくのだが、遺伝子のハッキングとコンピュータのハッキングを同じように論じられていて、その先にある、特定の遺伝子を偏って伝達させる遺伝子ドライブによる、人の進化のハックの可能性なんて話まで出てくる。

 CRISPR/Casが自然発生しているのは細菌や菌類に限られるが、遺伝子コードは普遍的なので、人を含むすべての生物系とバイナリ互換だ。このシステムが発見される前は、遺伝子、特に生物のそれは、ほとんどが読み取り専用だった。CRISPR/Casは、宿主生物の生存能力を損なわずに遺伝子をパッチするツールとして、ずっと信頼性の高い効率的なものだ。生物学者は、CRISPR/Casのハックに必要なDNAをウィルスに仕込み、こうした遺伝子編集ツールをDNAを植物や実験用マウス、さらにはヒトなどの生き物の細胞壁から侵入させるのに成功している。CRISPR/Casの構造のおかげで、科学者は1回の実験で複数の編集をおこない、この技術の実験や治療での柔軟性を広げている。
 この技術は人間の細胞や胚ですら実験ずみで、その意義を考えるとクラクラしそうだ。お住まいの国の科学的コミュニティ、あるいは法的コミュニティの倫理基準がどうあれ、親を悩ませた遺伝的疾患のない、カスタム設計の子供をつくるというのは、親にとってあまりに強い誘惑だろう。もし大部分の国がそういう行為を禁止しても、たとえば自分ではまともに子供が持てない億万長者などが資金提供したりして、どこかでだれかが、カスタムエンジニアリングされた人間を作ろうとし始めるのは避けがたいと思う。もしそれがよい結果を生んだら、ムーアの法則よりも人類の進路に大きく影響するだろう。しかもそれより先に、遺伝子ドライブというメカニズムが台頭してくる可能性がある。(p.385)

深圳の話も知れるし、中国のものづくり全般についても知れるし、よく話題になっていた中国のコピー文化についても述べられているし、量産だけでなく資金のクラウド調達に関する留意点なども述べられている。内容が難解な箇所もあることはあるが、トータルで見た時には結構な満足感が得られる1冊であった。

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