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『百年泥』 [読書日記]

百年泥(新潮文庫)

百年泥(新潮文庫)

  • 作者: 石井遊佳
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/08/07
  • メディア: Kindle版

内容紹介
インドの花形産業であるIT企業の若手技術者は、生意気盛り。主人公の「私」は、別れた夫にすがりついて仕事を紹介してもらったのはいいが、この生意気な若者たち相手の日本語教師だった。日本では想像もできない下層の生活から這い上がってきた美形の青年デーヴァラージの授業妨害と戦いながら、日本語を教えはじめて三か月半。豪雨による洪水が南インドの大都市チェンナイを襲った。百年に一度の大洪水がもたらしたものは、川底から溢れた百年分の泥だった。アダイヤール川にかかる橋は泥の模様を見物に来た大勢の人であふれていた。泥と人をかき分け、「私」は川向こうの会社に向かった。途中、泥から様々なものが掻き出されていく。サントリー山崎のボトル、ガラスケースと人魚のミイラ、大阪万博記念コイン……。疾走するユーモアと暴走する知性が暴き出す人生の悲しみと歓び――。新潮新人賞、芥川賞と二冠に輝いた本作は、多数の選考委員から絶賛された希有な問題作である。

先週、11月中の主要イベントが全て片付いた後、小説読もうと心に決めて近所のコミセン図書室に行って借りた本の1つ。当然最初は書架に刺さっていた本の背表紙のタイトル「百年泥」というのに眼が行き、表紙にタージマハルと思しきイラストがあったので(僕が借りたのは単行本の方です)、借りようかとグッと前のめりになり、「芥川賞受賞作」というところに一抹の不安を覚えたものの、100頁少々という分量の魅力には抗うこともできず、借りることにした。

お気づきかと思うが、この時借りた3冊のうち、2冊は結果的に南インド絡みである。「呼ばれているんじゃね~の、オレ」―――な~んて思わないでもない。

それで満を持して読み始めたわけだけれど、そこで思い出したのが、これが芥川賞受賞作だったということ。2000年以前の受賞作品はともかく、僕はモブ・ノリオ『介護入門』を途中でギブアップしてから、ここ十数年の受賞作品とは相性が極めて悪い。つい最近もあの遠野遥『破局』を読んで気持ち悪くなった。シンプルなものをやたら難しく表現しないといけないのかな。やたらと続く修辞にいちいち引っかかるから、スムーズに読み進めることがまるでできない。今回も同じような壁を何度も感じた。

さらにつらかったのは、リアルとフィクションが入り乱れるところ。僕はインドのトイレ事情を知っているから、大河の川べりで用を足している人、街中にボーっとたたずみながら、垂れ流しで小用を足してる女性など何度も見たし、自分も草むらで大きい方を済ませたこともあるが、企業の幹部が自社の駐車場に車を乗り入れて、駐車場で堂々と「脱糞」するなんて聞いたことがなかった。そんなこと本当にあるのかと怪訝に思いつつ、ひょっとしたらインドなんだからそういうのもあるのかもと思ったりした。

だが、よくよく読むと、それは「脱糞」ではなく「脱翼」。企業の役員は運転手付きの車ではなく、渋滞を一気に飛び越せる翼が会社から提供されるという。おそらく本作品で最初に登場するフィクションだろう。さすがにそんなタケコプター的な便利な道具は今のインドにはまだない。

で、そのあたりから何が何だかわからなくなり、リアルと空想、現在と回想、自身の話と日本語教室の生徒の話とが入り乱れていった。そのひとつひとつのエピソードは面白いし、理解はできるのだが、なぜそういう展開になっていくのか、今主人公の「私」はどこにいるのか、場面が急に変わるたびに置いてきぼりを喰ったような気持ちになった。

この混沌ぶりがインドということで、まあ赦すけどね。

ということで、自分が芥川賞受賞作には向かないというのを再認識させられた1冊であった。

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