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『義貞の旗』 [読書日記]

義貞の旗

義貞の旗

  • 作者: 安部 龍太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2015/10/26
  • メディア: 単行本
内容紹介
朝廷方として鎌倉幕府を滅亡させ、建武の新政に貢献し、のちに離反した足利尊氏・直義兄弟と激闘を繰り広げた坂東武者・新田義貞。鎌倉末~南北朝時代に歴史の表舞台を駆け抜けた「太平記」の雄、その魅力溢れる人物像と、劇的な生涯を描ききった傑作歴史長編。

毎月10冊以上の読書を年明けから続けているうちに、いつの頃からか、「年間200冊」というのが視野に入って来た。今月10冊読めばこの大台には到達する。到達すれば、何年かぶりのことになる。来年は気軽に図書館で借りたりすることができない土地で仕事をすることになりそうだし、今のうちに情報をため込んでおきたい。とはいえペースが上がらない時もある。そんな時の刺激物といったら、小説である。

とはいえ、僕の贔屓の作家の作品は、主要なところはほとんど読みつくしているし、そんなに頻繁に新刊を出してくれるわけではない。少しずつでも新たな作家にチャレンジしていくことも必要だ。今はそんな時期であり、今回挑戦したのは歴史小説、それも安部龍太郎の作品である。

安部作品に挑戦しようという気にさせたのは、題材が南北朝時代だったからだ。このブログでも何度か取り上げているが、今NHK-BSでは毎週日曜日に大河ドラマ『太平記』の再放送が行われている。今はちょうど足利尊氏が新田義貞率いる朝廷の尊氏追討軍に敗れていったん九州に敗走するところまで来ていて、今週末はいよいよ湊川の合戦――楠木正成兄弟が自刃する場面が描かれる。安部作品でも登場するシーンである。楠木正成退場後、続いて北畠顕家が退場し、さらには新田義貞も退場する。安部作品最終版の大詰めシーンが、テレビドラマでも再現されることになる。

そんなタイミングでの読書である。

僕もこの大河ドラマが放送された1991年からの数年、南北朝を扱った小説はかなりの数を読んでいるが、どの作品でも割と共通しているのは、新田義貞に対する低い評価であった。足利尊氏については、賛否両面あって作品によって評価が分かれるし、楠木正成は基本的には高評価を与えるケースがほとんどである。

ところが新田義貞になると、そもそも源氏嫡流ながら足利氏に比べてうだつの上がらぬ鎌倉御家人というところからスタートし、鎌倉攻略も足利高氏の嫡男・千寿王の着陣がなければ新田軍だけでは達成し得なかったとも見られている。さらには京にのぼって以降は勾当内侍の美貌に溺れて足利軍追討出陣を渋り、その結果好機を逃して後醍醐天皇の吉野動座の原因を作ったとも。平場での騎馬戦が中心で戦が下手だとも、また大局が読めず北畠顕家の二度目の西上軍と連携することができず、青野ヶ原で足利軍を粉砕するチャンスを逃してもいる。そして最後は越前・藤島で田畑に足を取られているところに敵方から弓を射かけられてあえなく死亡する。戦死とも言えない最後だった。

そういう最後を遂げたのもわかっていて、それでも一般の悪評を覆すような作品が描けるのかどうか。それが気になって、面白そうだから読んでみた。

結論から言うと、面白かった。これまで新田義貞が登場する作品は幾つか読んだが、その中でも最も義貞をポジティブに評価していて、こういう解釈のしかたもあるんだなというのを感じさせられたいい作品だと思う。結末はどうあがいたって変えようがないんだから、あっさり感があるのは致し方ないと思う。要はそこまでの過程をどこまで面白く描けるかだと思うし、そこが歴史小説におけるイマジネーションの入り込む余地、作家の腕の見せ所だろう。

ただ、義貞の口調があまりに砕けすぎていて、およそ坂東武者っぽくないのには最後まで違和感があった。同様に、宮中の公家がまるで京の商人が使うような口調でしゃべっているのにも違和感があった。公家の口調はとはいえ「ああ、確かに都暮らしが長い人ならこういうしゃべり方をするかもな」という新鮮な気付きがあったからいいが(多分、幕末の岩倉具視あたりはそういうしゃべり方をしていたと思う)、こと義貞に関しては、弟・義助との間でもあまりに違い過ぎて、かえってリアリティがなかった。

それと、護良親王の発給した「綸旨」に心を打たれて倒幕に参加することにした義貞は、当然ながら護良派だった筈だが、どこかの時点で護良親王の話が浮いてしまい、結果後醍醐天皇に振り回される展開で終わっている。帝に向かって砕けた口調で話しかけるなんてことができるなんて話もフィクションだから許されるのだろうが、護良親王を差し置いて、それで後醍醐天皇と意思が通じ合ったなんて展開では、義貞がなんでここまで頑張ったのか、あまりうまく描けていない気もした。

とはいえ、1冊だけ読んで安部龍太郎を判断するのは時期尚早だと思う。安部作品には南北朝を扱った作品がいくつかあるようだし、もう少し何冊か読んでみたい。

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