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再読『絶対貧困』(文庫版) [仕事の小ネタ]

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

  • 作者: 光太, 石井
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/06/26
  • メディア: 文庫

この本については、単行本時代から二度にわたってブログでも既に紹介している。内容紹介についてはそちらにお任せしたい。
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2009-06-12
https://sanchai-documents.blog.ss-blog.jp/2011-10-31
面白いことに、この2つのポストは、インドのことをセミナーや講義で話す直前のネタの仕入れのために読んだと当時の僕の置かれた状況を語っている。こういう、誰かに話す機会をいただいて、その直前の文献リサーチの時に、スラスラ読める石井光太さんの著書はありがたいということなのだろう。

さて、ご多分に漏れず、今回の再読もそう。大学生向けにインドの貧困農民のことについてしゃべらなければならなくなり、そのための文献リサーチの過程で、「通勤電車の中でもスラスラ読める本」ということで、再び石井光太さんにご登場願った。

しかし、今回の講義は農村のお話であり、都市のスラム住民や路上生活者の話ではない。従って、後者をメインの取材対象としてきた石井作品では、参考になる部分を少ないのではないかと怪訝な顔をされる読者の方もいらっしゃるだろう。

その通り、今回の再読では、取りあえず通読はしたものの、講義のネタ用に拾えた箇所は実は少ない。にもかかわらず、講義で使いたいネタを得たことには間違いない。

1つめは、路上生活者のうち、出稼ぎ路上生活者に関する次の記述。
 国によっては、路上生活者の多くが出稼ぎ労働者です。彼らは田舎に家をもっているのですが、そこで暮らしていけないために、1年のうち何カ月か都会で路上生活をしながら日雇い労働に勤しんで田舎に残してきた家族に仕送りをしています。日雇い労働の賃金が500円だとしたら、食費は200円に抑えられますから、家賃がかからなければ1日300円を送金することができるのです。
 インドは、こうした出稼ぎ路上生活者がとても多い国ですね。町によってはリキシャ運転手や肉体労働者などはたいてい出稼ぎ路上生活者だと言えるでしょう。
 (中略)デリーやムンバイといった大都市には、出稼ぎ路上生活者が数多く暮らしていますが、彼らはバラバラに住んでいるのではなく、道ごとに職業別に集まって住んでいるのです。この道はリキシャ運転手、この道は肉体労働者、この道は廃品回収者といった具合に分かれているのです。(pp.103-105)
つまり、ここで言われているのは、僕らが注目している農村の土地なし農業労働者が、収穫期を終えるとムンバイやグジャラートに3カ月ほどの出稼ぎに出るケースで、いったいどんなところに彼らは住んでいるのかについての示唆である。なるほど、彼らは短期間の出稼ぎに出て、そこでその間だけ暮らせる住まいがあるわけではなく、借りれば家賃も発生する。現金収入から貯蓄(仕送り)に回せる金額を最大化しようとするなら、出費は切り詰める必要がある。

もう1つは、インドで著者が売春宿の女性と店先で交わした立ち話。「子供に売春の手伝いをさせるのは教育的に良くないのではないか」との問いかけに、女性は次のように答えたという。
「わたしは、娘を絶対に売春婦にはさせたくないの。だから、いま売春婦になって働いているのよ。そうすればご飯も食べさせてあげられるし、日中は学校へ通わせてあげられるでしょ。たぶん、娘が大きくなれば、売春婦である私を軽蔑すると思うわ。けどそうなってくれれば、彼女が売春婦になることはなくなるはず。そうやってしっかりとした人間になってくれれば良いのよ」
 それから6年して同じ所へ行ってみました。すると、その娘さんは美しい高校生になってペラペラの英語で私を迎えてくれました。スラムの子供たちの多くが初等教育すら受けていないのに、売春宿の子供たちだけは高校へ進んで、しっかり勉強していたのです。もちろん、その中に売春婦になった子はいませんでした。
 私はこの時以来、売春宿に暮らす子供たちを一方的に「かわいそう」だと考えるのは失礼にあたるのではないかと思うようになりました。そもそも第三者が「かわいそう」「悲惨」という考え方を押し付けたところで何の意味もなさないのです。(pp.292-293)
売春宿に暮らす女性や子供たちの話なので、一般化するのは難しいのだけれど、女性たちは女性たちなりに、次の世代の子供たちには自分たちと同じ境遇で暮らして欲しくないから、ちゃんと教育を受けさせたいと思っているのだというのを忘れないようにしておきたい。

僕もこれに近い経験をしたことがあるが、立派に育って英語で会話を交わしてくれるかつての我が家のお手伝いさんだったご夫婦の娘さんを見ていて、英語での会話ができない我が家の同世代の子供たちと、どうしても比較したくなってしまうのである。

さあ、短期間の集中読書でネタを仕入れたので、これで残る今月最後のプレゼンに臨みたい。あ、再読中の本がまだ2冊あるけれど(笑)。
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