松尾諭『拾われた男』 [読書日記]
内容紹介
自販機の下で航空券を拾ったら、人生が動き出した――。振られた回数13回、借金地獄や数々の失敗を経て掴んだ、恋と役者業。個性派俳優・松尾諭による波瀾万丈「自伝風」エッセイ! 自販機の下で拾った航空券。その落とし主はモデル事務所の社長だった。俳優志望の昭和顔の男は、それをきっかけになぜかモデル事務所に所属することに――。
振られた回数13回、借金地獄に、落ち続けるオーディション。悲しくては泣き、嬉しくては泣く、そんな男が手に入れた大役、そして恋。それでも減らない借金生活が続くある日、かかってきた一本の電話により、アメリカに旅立つことになる。何年も会っていない兄を迎えに――。
「SP」「シン・ゴジラ」「エール」など数々の映画・ドラマに出演し、個性派俳優として名を馳せる著者が書く、泣いて泣いて笑っての、七転八倒俳優生活。
超多忙の1週間が終わった。鳥取にも行ったし、大学の講義を1日に2つもこなした日もあった。2週前から準備を開始し、次週のことも考えながらペース配分し、今週は全てのイベントをこなした。きつかった。
そんなタイミングで、市立図書館から、3カ月ほど前から予約をかけていた脇役俳優・松尾諭さんの話題のエッセイ集『拾われた男』の貸出準備ができたとの連絡があり、金曜夜に図書館で借りて、土曜日1日で読み切った。
こう書くと簡単に読めたように思われるかもしれないが、300頁近くある本だし、同じような分量のビジネス書や自己啓発本が段落切りが多くてサクサク読めるのと比べると、ワンセンテンスが結構長く、ひとつひとつの段落が長いので、読み進めるのには時間がかかった。比較するのはおこがましいが、僕のワンセンテンスの長さや段落の切り方とよく似ていて、既視感を感じた。勿論、文章の面白さは格段に違うけど。
そう、この俳優、結構な文才がある。そして、その文才が注目されて、本書は話題になっていたのだ。
多分、俳優という人たちなら、大学にまともに通っていたとは思わないし、女の子と同棲したり、酒に溺れて仕事や約束をすっぽかしたり(それにも懲りずにまた飲んだり)、故郷の両親と音信不通になっていたり、そういうのは普通にやっているだろう。だが、そのようなグダグダなところだけでなく、これまでの半生でも、結構面白いエピソードを持っておられる。それを読ませる文体で描いておられるのだから、話題にもなろうもの。
あと、この俳優、結構な頻度で号泣している。生活が多少グダグダでも、きっといい人なんだろうなというのが、エピソードの端々で伝わってくるのである。
そして、最後の100頁は、米国渡航して音信不通になっていた3つ上の兄とのエピソード。それまでがユーモアたっぷりの笑えるエピソードだったのに対して、一転して終盤はシリアスな話の展開になる。お兄さんとの思い出話にはしんみり。そしてしまいの号泣シーンには読んでいるこちらももらい泣きした。
『SP』『蛍草~菜々の剣』『ノーサイドゲーム』『エール』と、海外駐在の空白期間があったにも関わらず何度も映画やドラマで顔を見かけた俳優さんだ。そして、あの作品に出演していた頃、私生活ではそんな状況だったんだというのがよくわかった。下積み生活時代に井川遥さんの運転手をやっていたというエピソードで有名だが、本書での扱いは結構薄めです。それ以上に面白いエピソードが多いエッセイ集だ。
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