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『繁栄のパラドクス』 [仕事の小ネタ]

繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

繁栄のパラドクス 絶望を希望に変えるイノベーションの経済学 (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)

  • 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ジャパン
  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: Kindle版
内容紹介
〝買えない/買わない〟が、巨大市場に変わる時――
最も成長が見込めるのは、貧困をとりまく「無」消費経済である。
C・クリステンセン教授による市場創造型イノベーション論
■アフリカではなぜ井戸は枯れ、携帯電話は普及したのか?
■日本はなぜあれだけのイノベーションを起こせたのか?
■メキシコの効率化イノベーションはなぜ繁栄をもたらさないのか?

毎年この時期になると、途上国の経済開発、社会開発の本を1、2冊は読んで、新しいネタを仕入れるよう意識している。本日ご紹介の文献もその一環だが、『イノベーションのジレンマ』という超有名な著書のあるイノベーション論の大家の遺作だから、先に述べたような意識が最初からあったわけではない。イノベーションの文脈で読み始めたのだけれど、本書は開発論に近かった。

キーワードは「無消費」と「市場創造型イノベーション」。貧困国から大きく発展を遂げた国と、これまで巨額の援助を受け取りながら発展を遂げられず相変わらず貧困にあえいでいる国との間にどんな違いがあるのかを比べてみると、発展を遂げた国は、これまで需要があるとは考えられもしなかった需要を発掘し、それに応えられるイノベーションを起こして市場を創り出すことに成功する企業が存在した国だったということらしい。

著者は、これを「市場創造型イノベーション」と呼び、「持続型イノベーション」(市場にすでに存在する解決策の改良)、「効率化イノベーション」(企業がより少ない資源でより多くのことを行えるようにする)と対比している。つまり、あとの2つのタイプが市場がすでにあることを前提とするのに対し、市場創造型イノベーションは、今は無消費状態で市場もないが、ひとたびそれが求められる状況が生まれて、かつ消費者が費用負担可能な価格で手が出るようにできれば、市場は生まれ、経済活動はさらに活発化し、そして人々の生活も豊かになるのだと主張されている。

なんだか、読んでいて「BOPビジネス」の言い換えのような気もしたが、BOPビジネスは国全体の発展の話と関連付けては論じられていなかったと記憶しているので、その点では「市場創造型イノベーション」には新規性はあるように思う。

また、冒頭で共著者の1人であるエフォサ氏が貧困撲滅を目指して祖国で井戸掘りを進める支援のためのNPOを立ち上げたものの、せっかく掘られた井戸がその後使われなくなってしまったという失敗事例が紹介されている。これと対比する形で「それじゃどうすればよかったのか」まで示唆する別の事例が端的に紹介されていたわけではないが、もちろん、その地域の社会や制度をもっと理解してそれらをふまえたソリューションである必要は当然あるが、例えば井戸のメンテナンスと水供給を請け負う専門組織を作って、定期的に各利用世帯にウォーターボトルを配達するとか、そういうイメージなのかなとも想像する。

しかし、「無消費」が鍵だとすると、そのありかをどうやって突き止めたらいいのだろうか。本書では、そのことはスコット・アンソニー『イノベーションへの解 実践編』でまるごと1章が割かれていると紹介しているが、その要点は、無消費の原因となりうるバリアや制約は、主に「スキル」「資産」「アクセス」「時間」の4つだが、ときには市場にすでに出回っている別の解決策が、未来の消費者の解決策を阻んでしまうこともあるという。(このあたりはブログで詳述すると長くなってしまうので省略するが、77-78ページに書かれている。)「既存の解決策のなかに自分にとってよい選択肢がないから、人は無消費になる」(p. 79)ともある。既存の選択肢よりも良さげに見えて、かつ価格的にも手が届く選択肢なら、人は手を伸ばす。「選択肢」というのも、キーワードなのかな。

現在、いろいろな作業の締切に追われていて、なかなか腰を落ち着けてクイックに読み進めるということができなかった。ダラダラと10日近くかけてしまい、結局10月月内に読み切れなかったという反省がある。読んでみて、これはいい本だから、ひょっとしたら自分が担当している講義とかで、学生と一緒に輪読やってもいいかもなと思う。多分、もうちょっとじっくり読み直すことになるだろう。


The Prosperity Paradox: How Innovation Can Lift Nations Out of Poverty (Harper Business)

The Prosperity Paradox: How Innovation Can Lift Nations Out of Poverty (Harper Business)

  • 出版社/メーカー: Harper Business
  • 発売日: 2019/01/15
  • メディア: ハードカバー



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