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『還暦からの底力』 [読書日記]

還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方 (講談社現代新書)

還暦からの底力―歴史・人・旅に学ぶ生き方 (講談社現代新書)

  • 作者: 出口治明
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2020/05/20
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
人生100年時代をパワフルに行動するための出口流初の人生指南!人生の楽しみは喜怒哀楽の総量で決まる!

僕自身はまだ還暦未到達なのだが、コミセン図書室を訪れたのが敬老の日前日だったこともあり、「定年制も敬老の日もいらない」と販促オビに書かれているちょっと挑発的な本が目に留まり、ちょうど借りる本の中に1冊新書サイズのものを入れたかったこともあって、借りてみることにした。

「「飯・風呂・寝る」の生活から「人・本・旅」へ」とか、「「変態オタク系」が育つ教育を」とか、「60歳は人生の折り返し地点に過ぎない」など、第1章あたりで書かれていることについては、還暦をこれから迎える僕らの世代に対するメッセージとして素直に受け止めた。たまたま偶然だが、僕の書いていた本がこの25日に発売になった。僕はこの本で書いた内容でこれから食っていきたいと思っているので、出口学長のお言葉は僕自身への応援メッセージとして受け止めることができた。

「古典を読め」というのは、最近読んだ本では度々主張されているポイントなので、これも素直に受け止めたい。またしてもアダム・スミスの『国富論』が出てきたりしたわけで…。

また、高校生の息子を抱えている身としては、どうも東大を頂点とした富士山型の人材ピラミッドには違和感があって、受験勉強はとうてい身が入らない奴のことだから、入ってからの勉強でレベルアップを図ってくれたらと思い、立命館アジア太平洋大学(APU)も、受けられるなら挑戦してみて欲しいと思ったりもした。「ダイバーシティ尊重」にも大賛成である。

立命館APUの宣伝という意味では、本書はなかなか良かった。ただ―――。

60歳で起業して、10年社長を務めた後で立命館APUの学長に就任した、言わば「勝ち組」のお方である。よって、話される内容自体、たとえご本人が他人のする自慢話を否定されていても、それはご本人の自慢話に聞こえてしまう。自分でもうまくいったのだから、皆さんも意識さえ持てばうまくいく筈だと思っておられるかもしれないが、自分1人ではどうにもならないものに翻弄されるところもあるのである。

そう簡単に言うなよ―――。そのお言葉を素直に受け入れられないものも感じた。

著者は最近、やたらと著書を連発されている。正直よくそんなに書く時間が作れるなという思いがあるが、売れている著書が多いから、「是非我が社からも出してもらえませんか」という出版社からの企画提案があるケースも多いのではないかと思う(あくまで想像ですが)。そうなると、何時間かのインタビューをライターが行い、その記録をもとにライターが構成して文章にまとめる―――そんなプロセスを踏んだ本も出てくる。

本書も、そういうライターがいて刊行が成り立ったようである。言ってみれば、売れそうな本を出したい出版社側の期待があってのこと。著者が自分で構成を考えて書き下ろしたわけじゃないから、最初の頃は「還暦からの底力」という主題と関連性のある内容になっていたけれど、途中から立命館APUの宣伝っぽくなり、歴史の話になり、日本経済をどう立て直すのかの持論展開の場になり、主題からどんどん離れていく。

講談社新書って、こういう本の出し方するんだ―――。そう感じたのも事実だ。売れる著者ならこちらから頼みこんでも本にしようという魂胆が見えて、読んでてなんだか白けてしまった。

僕が最初に原稿を持ち込んだ大手出版社に袖にされ、原稿を採用してもらうのに苦労したことや、僕が関わったプロジェクトの十年史を出すのに、そのプロジェクトの中心人物を著者にして、編集者とライターが関係者も含めてインタビューを行って、原稿を書き上げるというケースを横目で見ていたことなど、いろいろな背景があるのだが、有名人なら放っておいても向こうから出版企画が来るというところに、この業界の理不尽さを垣間見た気がした。

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