『SDGs(持続可能な開発目標)』(中公新書) [持続可能な開発]
内容(「BOOK」データベースより)
SDGs(持続可能な開発目標)は、国連で採択された「未来のかたち」だ。健康と福祉、産業と技術革新、海の豊かさを守るなど経済・社会・環境にまたがる17の目標があり、2030年までの達成が目指されている。「だれ一人取り残されない」ために目標を設定し、達成のための具体策は裁量に任されているのが特徴だ。ポスト・コロナ時代に、企業・自治体、そして我々個人はどう行動すべきか、第一人者がSDGsのすべてを解説する。
最近、SDGsをタイトルにいただいた本を書店店頭でやたらと見かけるようになった。面白いことに、ほとんどの本がビジネス書のコーナーに配置されている。国際情勢とか各国事情のコーナーではない。
また、新聞紙上でもSDGsという言葉をやたらと目にするようになった。2015年9月にSDGsが制定された当初は、せいぜい朝日新聞か東京新聞ぐらいだったが、今や日本経済新聞では毎日のように取り上げられ、しかもSDGs絡みのビジネスサミットのようなイベント告知広告もデカデカと出ている。もっと驚いたのは、日刊工業新聞ですらSDGsの特集ページが週1回取り上げられていたことである。僕は新聞をあまり購読してないので他の全国紙はしっかりフォローしてないが、今は某Y新聞に勤めている大学時代のサークルの友人から声をかけられ、同紙が後援している高校生による海洋プラスチック問題解決の研究プロジェクトに関わらせてもらっている。
海洋プラスチック問題はちょっと脱線したが、ここで指摘したいのは、SDGs制定に最も敏感に反応した日本のアクターは企業だったという点である。それと、そんなコーナーが書店にないからあくまで印象論に過ぎないが、もう1つの重要アクターは都市を含む地方自治体であるという点も付け加えておく。
2000年のミレニアム開発目標(MDGs)の時代から国際開発目標というのを追いかけていた立場の人間としては、ビジネスセクターと自治体がSDGsにこれほど敏感に反応したというのは驚きだった。MDGsは目標の多くが開発途上国を対象としていたので、これに関心を持っていたのは国際協力に関わっていた政府(主に外務省)であり、援助機関であり、そして国際協力NGOぐらいしかなかった。それがSDGsの時代になると、政府内でも発言が目立つようになったのは環境省であり、「SDGs未来都市」を推進する内閣府である。そして、ビジネスセクターや自治体が目立つようになり、相対的に援助機関やNGOは印象として存在感が薄れた。
それを象徴するような本が、2015年以前から、SDGsの策定過程でやたらと露出していた蟹江憲史先生の手によって世に出された。僕は国際開発の方を見ていた人間なので、失礼ながらSDGsの策定過程を追いかけるようになるまで、蟹江先生のことはまったく知らなかった。国際開発・貧困削減・経済成長系の径路と、環境系の径路は、2012年の「リオ+20」で一本化するまで分かれていたので、環境系のグループがそれまでに取り組んでいたことは、僕らのレーダースコープでは捕捉できていなかったのだ。
でも、日本でSDGsといえば蟹江先生が第一人者と見られているから、その蟹江先生が本を出されたのなら、これは読まないわけにはいかない。そんな気持ちで、僕は本書は購入した。
で、内容拝見すると、やっぱりビジネスセクターと自治体なんだというのがよくわかった。SDGsは日本国内で先ず目標達成に取り組むことが、日本のSDGsへの貢献につながるので、その意味ではこうしたアクターが元気なのは理解できる。MDGsはやっぱり他人事だったのだろう。もっとシニカルなことを付け加えると、もう1つ、SDGsを売りにしてコンサルティングをやっている人が急増している。これも、ビジネスや自治体がSDGsに沸いているんだから当然の話だ。僕ですら、知り合いから、「Sanchaiさん、SDGsでコンサルタントやりなよ」と言われたことがある(笑)。
とまあ、現状追認型の書きぶりなので、今の日本の取組み状況をスナップショット的に知るには最適の1冊だと思う。また、「これはビジネスチャンスですよ」と企業にアピールするのが目的の本ではないので、研究者らしく、大学や研究機関がSDGsの文脈で何にどう力を入れているのかもしっかり描かれている。しかし…
あえて物足りなさを感じさせられたのは、MDGs由来の国際協力系の取組みを、バッサリ割愛しちゃっているからだと思う。つまり、他国がSDGs達成に取り組むのに協力する日本の姿については、ほとんど言及されていない。ゴールとしてもSDG17(グローバルパートナーシップ)のターゲットへの言及がないわけではないのに、ODAの対GNI比0.7%実現という目標を日本が守っていないことや、難民受入れに消極的なこと、外国人留学生の劣悪環境での就業の問題等、人の移動に伴う問題への言及もない。SDG17のターゲット19には、GDPに代わる主観的福祉指標の検討というのが挙げられているが、2000年代後半以降、盛り上がりを見せた国際幸福度研究についても、本書ではまったく言及がない。
1年近く前の話になるが、某国立大学の先生から、「最近は「SDGsの先(Beyond SDGs)」が議論されるようになってきていてね…」と言われたことがある。シリア難民の問題や、トランプのような人物を大統領に選んでしまう世の中の流れなどを例に挙げられていた。新型コロナウィルス感染拡大のSDGs達成努力への影響については本書でも言及があるが、僕はある企業の経営層の方から、「今はSDGsを言っている時ではない」と言われて凹んだことがある。企業は会社の業績が悪化しても「SDGs」を引き続き堅持してくれるのだろうか。結構大きなチャレンジになるような気がする。
本書は、SDGs理解に向けた第一歩としては最適のボリュームであることは認める。しかし、これですべてだと思われては困る。本書は参考としつつも、自分なりのアピール、説得の方法を考えて行かねばならないと思う。
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