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『ドナルド・キーンの東京下町日記』 [読書日記]

ドナルド・キーンの東京下町日記

ドナルド・キーンの東京下町日記

  • 作者: ドナルド・キーン
  • 出版社/メーカー: 東京新聞出版局
  • 発売日: 2019/09/26
  • メディア: 単行本
内容紹介
日本文学を愛し、日本文化を愛し、何より日本人を愛したキーンさんは、2019年2月24日に永眠した。日本国籍を取得して7か月後の12年1月に始まった新聞連載「ドナルド・キーンの東京下町日記」は、日記文学研究でも高い 評価を得ながら、自身は日記を書いてこなかったというキーンさんの最初の日記であり、最後の新聞連載だ。
アメリカで生まれ、偶然手にした『源氏物語』で日本文学と出会い、戦争で日本とかかわるようになったいきさつや、三島由紀夫、谷崎潤一郎、安部公房、司馬遼太郎ら著名作家との秘話、戦争と平和についてなど、話題は多岐にわたる。「外国人の時は遠慮したが、もう日本人だから言いたいことを言う」と、現代日本人への手厳しい苦言を呈した回もあった。
そんなキーンさんが遺してくれた言葉たちを再編集するとともに、連載担当記者が接したキーンさんの姿、エピソードをまとめた評伝「人ドナルド・キーン」も収録した。

大学生時代にドナルド・キーンの著書を読んだように記憶していて、著書の一覧を見渡してみたけれど、どうも記憶違いだったようだ。ドナルド・キーンの名前は高校時代に聴いていたラジオ講座『百万人の英語』で、エドワード・サイデンステッカーやエドウィン・ライシャワー、ハーバート・パッシンらとともに頻繁に耳にしていて、その後大学生の頃にその流れで読んだ本が何冊かあったので、てっきりドナルド・キーンも読んだような気になっていた。

でも、本書を読んで、そのことに気付いて本当に良かったと思う。彼が英訳を手がけた古典や日本文学を原書ですぐ読みたいとはなかなか思わないけれど、彼が交流があったという現代文学の作家の作品とか人物評伝とかは、これを機会に気にかけて、時々手に取ってみたいと思った。特に、僕がこれまで一度として読もうと思ったこともない、三島由紀夫の作品はちゃんと読んでみたい。

帰化が認められて晴れて日本人となった著者が、日本人になったのだからというので率直に語った日本と日本人について、当時の東京新聞に月1回のペースで行ってきた連載を集めたものだ。当然、同じ出来事が何度も出てくるところもあるが、それはしょうがないと思う。また、「日記」とは銘打っているけれど、これはインタビューをもとにして、聞き役の東京新聞の記者が文章にまとめたものである。

1話3頁なので、わりと簡単に読める。中学生や高校生にも読むよう勧めたい内容である。時として現代日本人に対する苦言も述べておられるが、根底には日本と日本人に対する愛情とリスペクトが溢れていると思う。日本の政治リーダーはややもすると「日本すごいぞ」的な盲目的な日本礼賛発言をしがちだけれど、そこは違うと思う。日本の良くないところは認めつつ、良いところは大切にしていって欲しい。そんなことを我が子の世代には期待している。

最後に、僕が1カ所付箋をつけておいた箇所を引用しておく。

 新聞を開けば、格差や子どもの貧困の記事を見ない日はない。だが、政府は大企業向けの景気対策を優先する。利己主義が幅を利かせ、IT(情報技術)長者は、効率優先で目先の利益を追いがちだ。大学でも実学系に重きが置かれ、バランスの取れた全人を育てるための教養科目は、ないがしろにされている。
 日本社会の強さは、高い教養と共同体意識のはずだ。それが、世界に誇る日本独自の文化を支えている。私は以前、「日本は文化の維持、発展を国是として、アジアのフランスを目指すべきだ」と主張していた。その思いは、ますます強くなっている。
 急増する外国人観光客が、どこを訪れ、何に関心を持つかを調べてみるといい。日本にとって、日本人のメンタリティーも含めた日本文化そのものが、いかに大切なのか、明らかになるだろう。貧しくも豊だった日本が、豊かだが貧しい国になりやしないか、危機感を持っている。
(p.209)
――その危機感、僕も僕なりに感じている。
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