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『教科書ではわからない ごみの戦後史』 [持続可能な開発]

教科書ではわからない ごみの戦後史

教科書ではわからない ごみの戦後史

  • 作者: 大澤 正明
  • 出版社/メーカー: 文芸社
  • 発売日: 2020/06/30
  • メディア: Kindle版

内容紹介
ヘミングウェイはなぜ缶を蹴ったのか? 隣の街と分別方法が違うのは何故か? 日本は何故焼却大国になったのだろうか? プラスチックの栄光の時と挫折の時って何? 56年前のオリンピックと東京2020はどう違うのだろうか? 使い捨てのプラスチック袋を指定袋にするのはなぜだろうか? 新しいごみ戦争が中国の動向で起こるかもしれない?――これらの解答は本書の中にあります。

仕事の関係で、著者の大澤さんを存じ上げている。ブータンのゴミ問題について、最近の事情を訊いてみたいと思い、先々週大澤さんに久しぶりに連絡をとったところ、訊きたかった情報に加えて、大澤さんが今年の3月に出されたばかりの著書を1冊送って下さった。

ブータンのゴミの話ではない。タイトルからわかる通り、この本は日本の廃棄物処理問題の近現代史の本である。確かに、教科書ではここまで詳述はされていないが、高校や大学の副読本として読まれるべき良書だと思う。

外国から訪れる人も、僕たち自身も、今の日本の姿だけを見て、ごみの分別がこれだけ進んでいて街路がきれいな日本はスゴイと思ってしまう。どうしても今の姿に引っ張られてイメージ形成をしてしまうが、1964年の東京オリンピックあたりまでは、東京の住民のごみの捨て方は相当ひどかったらしい。江戸時代の江戸の町はかなりリサイクルが進んでいたことも有名だから、その間にごみが市中に溢れるような状況が生じたのに違いない。その状況は、僕らが開発途上国の都市で見てきたものと大して変わらないから、日本人はスゴイとはとうてい思えない。

また、廃棄物処理の問題では一時期使われていた「粗大ごみ」という言葉もあまり使われなくなったし、気が付けばダイオキシンの問題も今やあまり取り沙汰されなくなった。僕は海外留学に加えて海外駐在を4回経験しているので、自分の記憶には5回の「空白期間」がある。「そういえばあれはどうなったんだっけ?」的に経験的に思い出せない記憶の空白があるので、こういう特定テーマでの通史は読むとすごく有用だと感じる。

そして、本書を読んで、以前大澤さんがよくおっしゃっていたことが、「そういう意味だったのか」とよりよく理解できるようになった気もした。

例えば焼却炉の問題。ブータンで焼却炉を設けても、燃焼促進するために燃えやすいものを加える必要が生じると言われた記憶があるが、本書を読んでよくわかったのは、生ごみは燃えにくいのだということだった。排出されるごみの構成をしっかり把握していないと、焼却炉のスペックも決められない。

それともう1つは、大澤さんがブータンで力を入れようとされていたコンポストづくりの主張の背景である。焼却炉の話とも関係するが、燃焼促進のために燃料投入が必要になるのでは本末転倒だから、生ごみはかなり減量する必要がある。裏庭で家庭菜園をやるような文化があまりない国なので、コンポストの普及は難易度が高い気もするが、やらないと焼却炉も入れられない。

一見すると独立していそうに見えた各々の論点が、実は絡み合っているのだというのが、本書を読んでみての感想だった。

さらに、焼却炉に高度に依存した日本の廃棄物処理について、必ずしもそれがグッドプラクティスだと見ておられないのもわかった。焼却炉は建設するのにそれなりのカネもかかる。日本には高度にごみ分別を進めて、生ごみはコンポスト、資源ごみはリサイクルといった具合に整理し、しかも戸別回収や収集所回収ではなく、住民にわざわざ家庭内ごみを運んできてもらって分別を図るやり方をとって、焼却炉建設不要なところまで減量やリサイクル・リユースを進めている地域もあるらしい。本来なら、そういう選択肢をとることができるのが、いちばん住民にも行政にも負担の少ないやり方なのだろう。

そんなことを気付かせてくれたのも、大澤さんの著書のおかげである。版元が文芸社だということは、自費出版に近いのだろうと思うが、これは多くの人に知ってもらい、商業出版に乗って欲しいと思わせる良書である。

追伸:ちなみに、本ブログ記事では、文中、「ごみ」「ゴミ」「廃棄物」と言い方を変えている。その理由も、本書には出てくる。僕はこのブログでは「ゴミ」とカタカナを使って表すことが多いが、大澤さんに倣って、ひらがな表記や廃棄物への言い換えを少し意識して、この記事は書いてみた。



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センニン

ご訪問 & nice! ありがとうございました。
また遊びに来ます。
by センニン (2020-09-13 19:32) 

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