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コロナ禍のMGNREGS(全国農村雇用保証制度) [インド]

オディシャの大きな課題はMGNREGSの目標達成
Odisha’s big challenge: Meeting MGNREGS target of 200 million person days

Priya Ranjan Sahu、Down To Earth、2020年7月1日
https://www.downtoearth.org.in/news/governance/odisha-s-big-challenge-meeting-mgnregs-target-of-200-million-person-days-72062

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【要約】
◆オディシャ州政府が2020/21年度の目標として設定した、マハトマ・ガンジー全国農村雇用保証制度(MGNREGS)での2億人日の雇用創出は、その実現が危ぶまれている。新型コロナウィルス(COVID-19)感染拡大に伴い実施された全国的なロックダウンの影響で、出稼ぎ先から同州に帰還を余儀なくされた労働者は60万人に及ぶ。MGNREGSは彼らの所得保障にもつながるが、元々州内にいた対象人口に帰還労働者分の就業機会創出は容易ではない。

◆州外労働者の帰還が始まった5月、州政府は州内全30県の徴税官に、MGNREGS制度に基づく就業機会を作るよう指示。関係者によると、水資源管理関連構造物やその他自然資源管理構造物等、13万件を建設する計画を立てた。加えて、8月より前に、1億5000万本の植林も計画。大規模な堤防兼水路(TCB)、等高線に合わせた千鳥状の溝(staggered/contoured trench)から、チェックダム等に至るまで、様々な構造物が計画された。4月以降、5000万人日以上の就業機会が創出された。前年同期比では大幅な増加だが、4月1日から6月30日までの作業員1人当たりの就業日数は平均30日程度で、MGNREGSの法定日数である100日にはとうてい及ばない。

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◆現場からは、同州の制度適用加速化は、指示が出た直後の数週間は順調だったが、その後低迷していると指摘されている。理由として、MGNREGSの最低保証賃金が安いことや、賃金の支払遅延等が指摘される。出稼ぎに出ていた労働者は、1日Rs.700で働いていた者もおり、州が定めたRs.207(出稼ぎ労働機会損失の影響が特に大きい20県ではRs.298に設定)は安すぎて働き続けるのを躊躇するという。作業終了後、賃金支給までに20日以上かかったケースもある。

◆市民活動家は、帰還労働者向け就業機会提供には現行のMGNREGSの制度枠組みでは十分ではないと指摘する。熟練労働者向けの別の制度をMGNREGSの中に設ける検討を中央政府は行うべきだと主張する。

◆出稼ぎ労働者をカバーする具体的なプログラムの即時実施の必要性も指摘されている。現状、日雇い労働者や家事労働者、建設作業員等、都市部で就労する出稼ぎ労働者のような貧困層に対する所得保証や社会保障の制度が欠けている。COVID-19感染拡大を受け、州内の市民活動家グループは、州政府に対し、州内全県におけるMGNREGSの最低保証賃金を一律1日Rs.600に引き上げ、かつ就業保証日数も年100日から年200日に引き上げるよう求めている。

プラスチックゴミ問題と同様、今後週1回のペースで、インドネタも交えていきたい。英文を読む勉強も兼ねてだが、オディシャ州とテランガナ州にターゲットを絞り、関連するネタを隔週刊のDown To Earthや月刊のCivil Society、それと地元紙あたりからサーチしてみることにする。

両州に絞っているのは、今僕が唯一インドで関わっている事業の事業地がそこにあるからだ。関わっていると言っても、そうそう簡単に自分で訪問できる州ではないので、もっぱら現地から上がってくる報告書を読んで理解に努めるしかなかったのだが、そうすると事業に直接関連する情報しか取れない。COVID-19の影響とか、そんな中で州政府がどのような生活保障策を州民に取っているのかとか、そういうのがよくわからない。

そんな中、Down To Earthの8月27日号で、編集主幹のスニータ・ナレインが、『マハトマ・ガンジー全国雇用保証法:現在と未来(MGNREGA: Today and Tomorrow)』という巻頭言を書いている。COVID-19感染拡大の中、世界最大の社会保障制度と言われるMGNREGSの機能がクローズアップされている。MGNREGSを用いて整備される農村インフラは相当数に上り、それは農村貧困層の所得保障というだけでなく、水資源の保全や農地の生産性向上に貢献する筈だが、なぜ我々がいまだに水不足に直面しているのか、農村インフラの質は確保されているのかという問題提起であった。

この巻頭言を読む前に僕が直感的に思ったのは、オディシャ州でのMGNREGS制度運用はどうなっているんだろうかということだった。僕が関わっている事業地でも、豆類の収穫が終わる2月頃から、グジャラート州に出稼ぎに行く農業労働者が多かった。一見豊かに見える農村地帯でも、土地持ち農民と土地なし農民に分かれていて、例えば穀類や綿花の収穫期になると、ふだんはテントのようなところに住んでいる土地なし農民は、農業労働者として雇われる。そして村で就業機会がなくなると、出稼ぎに行く。

COVID-19の影響で、都市に出ていた出稼ぎ労働者は、所得機会も得られぬまま、帰郷を余儀なくされた。通常なら7月頃まではグジャラートに出稼ぎに行っておられたオディシャ南部の土地なし農民も、3ヵ月分ぐらいの収入を得られないまま州に戻ってきた。

その所得補償をどうするか、僕の関わっている事業でもそれが問題になった。結論として一時金を支給する決定が下されたのだが、その判断の過程で、僕の頭の中から消えなかったのが、州政府の所得保障政策はどうなっているんだろうかということだった。現地のパートナーからは、「政府の政策はあてにならない」というひと言だけが、一時金支給の理由として返ってきていた。

オディシャ州でのMGNREGS運用に関するDTEのルポを読む限りでは、出稼ぎ労働者を支援する制度はMGNREGSしかないようだし、支給の遅延とか、債権者によるMGNREGSカード預かりで労働者本人に賃金が届かない問題とか、あるようだ。また、スニータ・ナレインの指摘にあるように、一時にそんなに多くの構造物を作れと言われても、品質保証ができないのではないかという疑問も湧く。設計や施工管理ができるエンジニアがそんなにいないだろうし、住民側にもそれができるだけのキャパシティはないのではないだろうか。

一方で、MGNREGSの最低賃金は安すぎて働く気にならないという声もあるらしい。記事の中で紹介されているケースは、まさに僕らの事業地からケララ州に出稼ぎに行っている労働者の話だった。

この2つの記事を読んで、次に事業地を見る時には、次のようなポイントをチェックすべきだと思った。

①MGNREGSの運用実態
 -どのような事業が行われたのか、
 -作業はどのように行われたのか、
 -作業の間、COVID-19対策は十分配慮されたのか、
 ー賃金はいくらで、タイミングよく支給されたのか 等

②MGNREGSで作られた構造物の質
 -作られた結果、土地の生産性は上がったのか、
 -それによって、住民生活は向上したのか 等

③MGNREGSの制度改善に向けた中央と州の取組み状況

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