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遠野遥『破局』 [読書日記]

破局

破局

  • 作者: 遠野遥
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/07/04
  • メディア: Kindle版
内容(「BOOK」データベースより)
私を阻むものは、私自身にほかならない。ラグビー、筋トレ、恋とセックス―ふたりの女を行き来するいびつなキャンパスライフ。28歳の鬼才が放つ、新時代の虚無。第163回芥川賞受賞。

モブ・ノリオ『介護入門』とか伊藤たかみ『八月の路上に捨てる』とかを読んで、自分は芥川賞受賞作品を理解して読めるほどの鑑賞力とか審美眼とかはないのだと思っていたが、今回、やっぱりそれを感じた。これでも、昔は高橋三千綱『九月の空』とか吉目木晴彦『寂寥荒野』とか読んでたのにね。

なんで今回読んじゃったかというと、著者の遠野遥氏へのインタビューを、朝のウォーキング中のRadikoで聴いたからだ。日曜朝のNHKラジオ『マイあさ』のコーナーだったと思うが、その週末だけワンポイントで入っていた男性アナウンサーがインタビュアーを務め、いろいろ質問するのだけれど、遠野氏が結構クールにポイントを外した回答をしていた。多分インタビュアーが期待していた答えとは相当異なる回答内容だったんじゃないかと思うが、明らかにインタビュアーも戸惑っていて、更問いを繰り出すのに難儀していた。野球のヒーローインタビューのような予定調和的な応答じゃ面白くないから、僕は歩きながら結構笑った。

その時点で、この主人公が2人の女性に二股をかけているのは知っていたが、ここまでの内容だとは思わずに読んでしまった。今どき、ここまでやってる主人公の話が芥川賞を獲っちゃうんだというのは衝撃だった。昔、『九月の空』の中で、主人公の勇が、剣道部の部室で剣道着を試着していた小夜子の袴の中に手を入れるシーンがあったが、1978年当時にあの程度の描写でときめいていたオジサンには、『破局』の描写はとても耐えきれない。


今どきの大学生ってこうなのか―――?

でも、我が家にも大学生が2人いるが、2人を見ていても、作品で出てくる大学生の姿にかぶるようなところは微塵もない。彼女/彼氏でも見つけてデートでもしてくれたらいいのにと、昔彼らと同じ年齢だった頃には付き合ったり別れたり、普通に経験のあるオジサンとしては心配もしてしまう。

それに、彼らは概して対人コミュニケーションがあまり上手じゃない。SNSを使い慣れているからだと思うが、対面で話すときのしゃべり方がかなりぎこちないと感じる。そんなことで就職大丈夫なのかと心配になる。

弁が立つといえば、今どきの高校生でもSDGsとか社会課題解決とかに関心あるという子はものすごく弁が立つし、オンラインでしか接していないが、話し口調によどみがなく、大人とも平気で対峙できる。こういう子たちが、学生時代の活動履歴をこうして煌びやかにして、将来は社会企業家とかビジネススタートアップとして華々しい活躍をしていくんだろうなと想像してしまう。

そこで気付いた。著者は慶応大学OBだし、本作品の舞台も明らかに慶応大学だ。うちの子どもたちはどう頑張ったって慶応には入れなかっただろうが(もう1人いる高校生も、多分慶応は無理だ)、慶大生になれれば、こういう人と人が直接対峙して肉弾戦で絡み合うようなストーリーの担い手になれるのだろうかと。人生そつなくやってる子ばっかりいるのか慶応は…とか。

だから、こういう主人公が、試験だけである程度まで行ける公務員試験とかを目指していると描かれると、そもそも対人コミュニケーションに難があって民間企業への就職では面接でアピールがしづらい我が家の子どもたちでも頑張ればなんとかなりそうな試験で決まる将来の途まで、主人公みたいな奴らは奪っていくのかと思えてきた。それだけでも抵抗感が増幅される。主人公だけでなく、将来政治家を目指しているというガールフレンド1号も、田舎から出てきましたというあか抜けない1年生だけど結局作中逃げ切ってしまったガールフレンド2号も、そつない生き方してるじゃないかと見えてしまうのである。

だから、読んでいてすごい敗北感を抱かされる作品だった。タイトルの通り、最後は主人公は破局を迎えるわけだけど、共感を抱くこともなかった。「ざまあみろ」と正直思った。

タグ:芥川賞
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