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『藤浩志のかえるワークショップ』 [仕事の小ネタ]

藤浩志のかえるワークショップーいまをかえる、美術の教科書

藤浩志のかえるワークショップーいまをかえる、美術の教科書

  • 出版社/メーカー: 3331 Arts Chiyoda
  • 発売日: 2012/07/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
約30年以上に渡り、流行りの思想や手法に流されることなく、社会・地域・日常を見つめ続け、「循環社会への転換」「地域社会の変革」といった大きな命題に対して取り組んできたアーティスト・藤浩志氏。なかでも、おもちゃを交換するシステム「かえっこ」は、2000年に発案されて以来、国内外1,000カ所・5,000回以上にわたって開催され、それぞれの地域が抱える問題に対応し、市民や住民が主導となるコミュニティ・プロジェクトへと発展しています。本書は、その「かえっこ」の中で生まれたさまざまなワークショップから50の事例をまとめた「お金がかからず簡単で、とても楽しく意味深い」ワークショップのハンドブックです。また、「かえっこ」開催者へのインタビューや、藤氏が長年収集してきた廃材・約100種類を、ワークショップで使える素材として掲載。一見何でもないもの・役に立ちそうもないものが未来を変えるかもしれない。そんなアイデアやヒントがたくさん詰まった“新しい美術の教科書”は、アートやアートプロジェクト に携わる方はもちろん、教育、地域マネジメントなどにも役立ちます。

鉄は熱いうちに打て―――。前回、『美術手帖』2020年6月号を読み、藤浩志先生の活動に興味が湧いたので、近所の市立図書館に本の返却に行ったついでに、館内所蔵されていた関連書籍を借り、一気に読み進めた。

「かえっこ」というシステムがこんなに普及しているとは、全く知らなかった。それはうちの子どもたちが「かえっこ」の普及が始まった頃には既に中学生になろうとしていたということがあると思う。「かえっこ」とは、「いらなくなったおもちゃを使って地域にさまざまな活動をつくり出すシステム」で、「おもちゃを持っていくと、その内容に応じて子ども通貨「カエルポイント」が発行され、そのポイント数で別のおもちゃに交換」(p. 8)できるのだという。さらにそのバリエーションで、「「かえっこ」会場ではおもちゃを持って来なくても、ワークショップに参加すると「カエルポイント」が発行」(p. 9)されるという。

本書は、このカエルポイント獲得のために生まれた様々なワークショップを紹介する1冊となっている。

ただ、このワークショップ自体は、紹介されている個々の活動を見るにつけ、僕にとってはデジャブ感があった。僕らが小学生の頃には、こういうポイント制という仕掛けがなくても、僕らは日々の遊びで取り入れていたものが多いし、もっと組織的に大人数で行うというのなら、「子供会」という制度もあった。(そして、中学生になっても「校下クラブ」というのが子供会からの持ち上がりみたいな形で存在していて、大人にファシリテーションしてもらわなくても、自分たちで子供会との接点を作る活動も含め、様々な活動を展開していた。)

地域の大人のサポートも受け、子供会の枠組みで僕らがやっていた活動の多くと、本書でいうところの「カエルワークショップ」は非常によく似ている。今はあまり子供会とか聞かなくなったけれど、こうして父兄が関わる形で「カエルワークショップ」がその機能を継承しているのだろうか。それなら全国規模で普及している現状も腑に落ちる。

こうしたワークショップの数々は僕にとってはある意味復習で、それ以上に本書を読む価値を感じたのは、藤先生ご自身の執筆によるコラムである。こうした、人と接することを狙った仕掛けを考えた背景として、先生はこう述べておられる。

 なにかに夢中になり、なにかを掘り下げている人と出会うことや、その「人」と「なにか」に向き合うことで、自分自身の物事に対する意識がかわることが大切だと思っています。自分が興味を持つ人に出会うことも大切ですし、自分自身の良そうもしなかったまったく別の経験と言葉を持った、なにかに没頭している人に出会い、その感覚を共有し、自分自身のなかの周辺社会に対する興味に変化が生じることも大切です。(p. 74)

そして、先生自身の意識が衝撃的に変化したきっかけとして、1980年代に先生ご自身が青年海外協力隊員として派遣されていたパプアニューギニアの、ある村で出会ったヤセ犬についても詳しく述べておられる。ふだんトボトボと歩いているヤセ犬が、村のある儀式で野豚狩りを行うという場になると豹変し、すごい勢いで野豚を追い始めたという。

社会的になにも価値を持たない物事や意識などが、あるエネルギーを持つことで、常識では考えられないようなものすごい状態に変化する。その変化のありようや、エネルギーに人は感動し、「美しい」と思うのではないかと考えたわけです。
 そしてその状態をつくり出すためのエネルギーのありようや技術や意識のありようが重要なのではないか。あらゆる物事の状態は人の意志やそれに関わる人のエネルギーのありようで「かえる」ことができるのかもしれない、と。
(p. 77)

藤先生は、かえっことは別のトラックだと思うが、廃材を活用したアート作品の制作にも取り組んでおられ、多くの作品を世に出されているが、これについてもコラムで書いておられる。

 結果としてできたものに視点が行きがちですが、実は素材をいじりながら、つないでゆく作業そのものに没頭する時間や、編んだり織ったりする時間そのものを楽しむことが重要なのだと考えています。ものをつくることは、ものが形づくられてゆくプロセスのなかで、なにかが発生するという期待に満ちた時間をつくることなのだと考えています。
(中略)
 なにかをつくっていく先には必ず、なにかができそうだという期待や希望の時間が発生します。その時間をつくり出す素材として、身の回りにあふれる廃材は使えると考えています。
 そして、その「作業に没頭した時間」の結果、できたものたちを自分の周辺や、まちに飾ることで、周辺の人との関係を「かえる」ことにつながり、日常の風景を「かえる」のかもしれません。
(pp. 95-96)

ところで、本書は最後の方で、地域を「かえる」という視点で、神戸のNPO法人プラス・アーツが藤先生と共同開発した新しい形の防災訓練プログラム「イザ!カエルキャラバン!」というのも紹介している。「かえっこ」のシステムをベースに、その中で展開されるワークショップをゲーム感覚あふれる防災訓練にすることで、参加者は楽しみながら防災の知恵や技を学べるように仕組まれているという。

実は、このキャラバンの件で、プラス・アーツの方が寄稿されているが、その中で、このキャラバンが既に海外展開もしていて、ブータンもカバーしているとの記述があった。僕も3年間駐在していたが、そういったキャラバンの話を災害管理局の方から聞いたことがなかったので、気になって少し調べてみた。すると、キャラバンが2012年2月下旬にブータンで実施されたという記述を見つけた。プナカ県、多分クルタンで開かれたようで、その時には本書に寄稿されていたプラス・アーツの方ご本人が出張された様子が写真から伺える。
イザ!カエルキャラバン!inブータン

こういう手法があるというのは紹介はされているらしいが、災害管理局はたいてい、こういうのを外部者にやらせて自分たちは加わって学ぼうとはしないから、結局その後定着していない可能性が高いと思う。ただ、この手法は若い世代への防災の意識付けには有効かもしれない。クルタンのユースセンターをうまく巻き込めれば、同じような活動を時々開催することは可能かもしれないなと思ったりもする。今は駐在生活も終わってしまっているので、こうして言うだけになっている自分がもどかしいが。

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