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『美術手帖』2020年6月号 [持続可能な開発]

美術手帖 2020年 06月号 [雑誌]

美術手帖 2020年 06月号 [雑誌]

  • 作者: 美術手帖編集部
  • 出版社/メーカー: 美術出版社
  • 発売日: 2020/05/07
  • メディア: Kindle版
内容紹介
気候変動や災害、感染症により世界中が大きな危機を迎えるいま、私たちは「自然」を搾取可能な資源と見なす態度の限界に直面しているのではないだろうか。この問題に対し、現代のアーティストたちは鋭敏な感覚で応答する。彼/彼女らが作品を通して提示する、オルタナティヴで新鮮な環境観・地球観・生命観。それを本特集では「新しいエコロジー」と呼びたい。自然環境と人間の関係にパラダイムシフトを呼び込むこれらのアートは、「生きること」とは何かという、根源的な問いをも照射するはずだ。

さすがに「SDGs」とか「持続可能な開発」という言葉までは全面的に出てこなかったが、アートというのが僕たちに放つ問いの中には、こういうものも含まれるのだなというのが、なんとなく理解できた気がする。アートは現代社会を映す鏡みたいなものなのだ。そういう視点で今までアートを見たことがあまりなかったので、気付きを与えてくれたことには感謝する。

但し、それでも本書で紹介されている作品が、何を僕らに問いかけているのかは想像できても、なぜそのような形でまとまったのか、なぜ別の形ではいけなかったのか、そのあたりの感覚は、アートのセンスの乏しい僕にはよくわからなかった。PETボトルや廃プラスチックを使って何らかの作品に作り上げたりするのはまあまあわかるが、冒頭のオラファー・エリアソンへのインタビューからして、挿入口絵のアート作品が、なぜそれがサステナビリティに関するものなのかがなんだかよくわからなかった。

そういうテーマの展覧会が増えているのであれば、そういうのをちゃんと観て、それでもう少し感受性を養わなければいけない。但し、もうそんなのなしで50年以上生きてきてしまったオジサンが、今さらそんなこと言ってては情けない。そういうセンスを次の世代の人たちには養っていって欲しい。口だけで「持続可能な開発」の重要性を訴えるのではなく、アーティストはアーティストの世界で、ビジネスパーソンはビジネスパーソンの世界で、自分の思い描く持続可能な社会のあるべき姿を形で示していって欲しいと思う。

そして、僕らの業界で最近は「SDGs」「サステナブル」の言説が勢いを失っていると感じるのは、アートのような訴求の仕方があまりできていないからではないかとも思った。僕らのような世代のオジサンたちが発言していていては旧い枠組みからはなかなか抜け出せないので、若い人たちを僕らの旧い枠組みで縛るのではなく、もっと自由に考えてもらえる環境を作ってあげないとね。

その意味では、SDGsについての著作もある落合陽一へのインタビュー「計算機とメディウムから再考する、現代の「自然」と「環境」」なんてのはよかった。唯一、「SDGs」にも言及がある記事である。また、わかりやすかったという意味では、秋田公立美術大学の藤浩志先生と石倉敏明先生の対談「ヒューマンスケールを超える資源と物語」。藤先生は作品として廃棄物の循環システムづくりを展開して来られた美術家で、1980年代には青年海外協力隊としてパプアニューギニアに派遣されていた方らしい。
https://www.fujistudio.co/

本特集を通じて頻出するキーワードは「人新世(アントロポセン)」で、多くのアーティストが記事の中でこの言葉に言及している。「エコロジーの美術史」というまとめ記事の中で、割と詳述されている。

 2000年代になって、「人新世」という概念が登場した。その発端は2000年の国際会議におけるオゾンホール研究の泰斗、大気科学者のパウル・クルッツェンによる発言であった。クルッツェンは、この造語に「人間の活動が地球に地質学的なレヴェルの影響を与えている」という意を込めた。人新世の概念は瞬く間に学術界を席巻し、様々な領域に取り入れられた。
 環境史家のJ.R.マクニールは、人新世の開始を1945年に定める。その理由は、この年を境に「いくつかの異なる仕方で観測され、判定される地球と生物圏に対する人間の影響」が爆発的に増大したことだ。この統計学的事実を、彼は「グレート・アクセラレーション」と名付けた。その原因は人口増加やグローバル化、あるいは産業化・都市化や核開発の頻発に求められる。
(p.100)

そして、2000年代に入ってからのアートは、「非人間中心主義的思想の展開」と「自然との関係性の再考」が中心テーマになっているという。

ブリュノ・ラトゥールも本書ではかなり頻繁に言及があるアーティストだし、それ以前にも僕はどこかで彼の名前を聞いたことがあるのだが、思い出せない…。ただ、ラトゥールの著書『地球に降り立つ: 新気候体制を生き抜くための政治』については、そのうち読んでみたいと思う。多分、この本の刊行が、本書でラトゥールがさかんにフィーチャーされていた理由の1つなのだろうから。

地球に降り立つ: 新気候体制を生き抜くための政治

地球に降り立つ: 新気候体制を生き抜くための政治

  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2019/12/20
  • メディア: 単行本


とても消化しきれないから、本日はこの辺で。


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