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『公文書問題と日本の病理』 [読書日記]

公文書問題と日本の病理 (平凡社新書)

公文書問題と日本の病理 (平凡社新書)

  • 作者: 資明, 松岡
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2018/10/17
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
森友学園問題、加計学園問題、陸上自衛隊南スーダン派遣PKO部隊日報問題…。公文書の管理を巡る問題が続出している。なぜ、この国では民主主義の根幹である、「記録」が疎かにされるのか。その解決策を見出すことはできるのか。公文書問題に先駆的に取り組んできた著者がその核心を衝き、根底にある病根を抉る

著者が平凡社新書から出した二度目の本。2011年の『アーカイブが社会を変える』は、当時アーカイブについて集中的に文献を読んでいてわりと初期に出会った本の1冊である。一昨年続刊が出たのは知っていたが、帰国してから読もうとずっと思っていて、すぐに着手できなかった。帰国してから関わった仕事と直接的に結び付かなかったというのと、図書館で借りて読もうと考えていたというのが大きな理由だ。

今年3月、森友学園を巡る公文書偽造問題が、当時公文書偽造に関わらざるを得なくなり、自死を選んだ財務省近畿財務局の職員の遺書の公表とともに再燃した。このため、新型コロナウィルス感染拡大を受けて、何となく世の中のムードが、今は非常事態なんだし、コロナ対応で安倍総理は十分批判にさらされているんだからというので、森友学園問題での首相追及の手はちょっと緩んでいるんじゃないかとも思える。そんな時だったから、積読蔵書数が20冊を下回ったのを機に、新たに買って読んでみることにした。図書館はずっと休館で、借りようにも借りられない。

前著は2011年の公文書管理法制定までのいきさつがまとめられていた。そして今回は、その後起こった3つの事件を通じ、制定された法律が、それでも運用段階に問題を抱えており、これらの問題に絡んだ公文書の偽造や意図的な廃棄を防ぎきれなかった点を厳しく指摘し、次なるステップとして残された取組み課題を列挙しておられる。

その上で第Ⅲ部は、著者の得意とする歴史資料の保存に向けた民間の取組みを、満蒙開拓平和祈念館(長野県阿智村)、戦没した船と海員の資料館(神戸)、阪神淡路大震災時の歴史資料救出活動と史料ネットの活動等を例に紹介している。いずれのケースも、後から資料を掘り起こしてピースの当てはめをやっていくのが相当大変だということで、しかも、欧米の公文書館に助けられたという話が結構頻繁に出てくる。

アーカイブもデジタル化が進む現在、欧米や、ややもすると中国、韓国等の公文書館と比べても、日本の取組みは見劣りがして、格差はさらに拡大していくことが懸念されるという。

本書が出た2018年は明治維新から150年目ということで、日本の近代化を再評価する機運が高まった。そこで、「日本の近代化を外国の人にも学んでもらおう」と叫んでみても、戦後独立したという多くの開発途上国では、そもそも「歴史」という概念があまり育っておらず、言われてもピンとこないという無反応を目にしたこともある。そもそも明治維新の頃だって、江戸時代の封建制度を全否定するところから始まっているから、その頃来た外国人が江戸時代までにでき上がっていた文化や習慣にスゴイと注目しても、「あんなのはクソです」と当の明治新政府の役人は言っていたとどこかで読んだことがある。

本書でも出てくるが、岩倉使節団が米欧を訪問した後、図書館や博物館というのは持ち帰ったが、公文書館という概念は持ち帰らなかったらしい。必要性を感じなかったからなのだろうが、今となってみれば、その時に公文書管理について確たる方針が打ち出されていたら、その後の公的価値の高い文書の保存に関する日本人の意識は確実に変わっていただろう。

まだあまり考えが整理できていない中でこのブログ記事は書いているが、日本の近代化を今さら研究対象にするのなら、公文書管理の問題点に関して頬かむりをしているわけにはいかないのではないかという気がする。近代化の経験を今言っている某機関が自分の肩幅でできる研究テーマもあることにはある。史料を当たるのにも苦労するような100年200年の歴史などとは言わず、当事者もまだご健在であろう近年の政策制度構築の歴史を整理するようなテーマで取り組み、併せてアーカイブの整備を行うようなことをもっとやっていけばいいと思う。

久しぶりにアーカイブに思いをはせる、いい読書タイムになった。一方で、公文書偽造で犠牲者まで出してしまった森友学園問題については、徹底的に真相究明をやって欲しいと強く望みたい。

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