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『市民自治の育て方』 [仕事の小ネタ]

市民自治の育て方 ー協働型アクションリサーチの理論と実践ー (関西大学経済・政治研究所研究双書)

市民自治の育て方 ー協働型アクションリサーチの理論と実践ー (関西大学経済・政治研究所研究双書)

  • 編著者: 草郷 孝好
  • 出版社/メーカー: 関西大学出版部
  • 発売日: 2018/03/23
  • メディア: 単行本
内容紹介
関西大学経済・政治研究所の委託(2014年度-2017年度)を受け「市民自治力の醸成と向上を目指すアクションリサーチ(実践支援型研究)手法と実践知に関する学際的研究」をテーマとする研究班(市民自治力向上とアクションリサーチ研究班)の研究活動に基づいてまとめられた実践的研究に関する論考。

1年前に編著者の草郷先生からいただいていた本。当時駐在していたブータンからの離任直前だったこともあり、取りあえず日本に持ち帰った。1年寝かせてしまったことをお詫びしつつ、自分がこれからやろうとしていることとの接点領域がないかどうかを考えてみるために、今読んでみることにした。

本書で言われている「アクションリサーチ」とは、「当事者と研究者が協働して、特定の社会問題に向き合い、その問題の解決のために、関係者が協働して行う調査から改善への一連の研究活動」(p. 3)を指し、「調査によって問題の所在を明らかにし、次に、その問題を解決するための具体策を検討する。そして、具体策を実際に適用し、その結果を関係者が協働して検証することで、対策の成果と課題を詳らかにし、更なる改善を目指していくという一連の実践的研究手法」(同上)だという。

これをまちづくりや地域振興の文脈で言い換えると、「常に変化していく地域社会の中で生じるさまざまな市民生活に関する問題に対して、個々の問題の当事者である市民・行政・地域企業・NPOなどが研究者とともに、調査によって当該問題の内容を把握し、調査結果をもとにして、当事者と研究者が協働チームとして対応策を検討し、それを実行する。そして、その対応策の有効性について、当事者と研究者チームが協働して検証し、検証結果をもとにして、対応策の修正などを行い、当該問題の解決に向けてよりよい成果を導こうとする実践的調査活動」(同上)ということができる。

本書では出てこないが、僕が編著者の草郷先生と知り合ったのは、先生がブータンで関わっておられたブータンメディア開発センター(BCMD)の「コミュニティ・マッピング」との関連だった(関連記事はこちら)。2017年9月にBCMDがパロで行ったワークショップに、草郷先生はゲストで来られてレクチャーをやられた。その直後に先生にお目にかかる機会があった。先生のお陰で、BCMDの代表ともその後親交を深めることができた。

このBCMDがティンプーやパロで試行していたコミュニティ・マッピングも、BCMDを研究者、地域の高校生や住民を当事者と見立てれば、やられていたことは一種の協働型アクションリサーチだと思える。BCMDのコミュニティ・マッピングの手法は冊子にまとめられていて、これを読んだことがあるので、本書の第1章「市民自治を育てる協働型アクションリサーチ」第2章「協働型アクションリサーチの鍵となる要素と実践知の抽出」、第7章「協働型アクションリサーチの実践事例~ながくて幸せのモノサシづくり~」で書かれていることは腑に落ちた。

特に、第2章で述べられている「協働型アクションリサーチを特色づける5つの要素」は、心に刻んでおく必要があると思う。本書のキーワードである。

 - 当事者性
 - 当事者間のパートナーシップの形成と双方向の対話
 - 実践における協働プロセスの可視化と共有
 - 当事者協働を志向する行政のあり方
 - 実践的研究者の技能と役割

自分の今後の活動の中でもこれは取り入れていきたいと思う。仕事でちょっと接点がある研究のほとんどは、「実証」や「エビデンス」を重視する論文の生産に充てられている。それが今の社会科学の風潮なんだからそれを全否定するつもりはないものの、研究者というよりも実践者だと思っている僕自身は、実証研究とかエビデンスベースというものにずっとアウェイ感を感じていて、一方で、走りながら考えていき、試行錯誤を記録にまとめていくようなタイプの研究――それを「研究」というかどうかはともかく――に親近感を感じてきた。これからしばらくはそういうタイプの活動ができる場所に身を置ける可能性が高い。

ただ、正直言うと本書を読んだだけでアクションリサーチを学び直せたとはあまり思えていない。自分がちゃんと読み切れていないからかもしれないが、これは地域づくりのPDCAサイクルのようにも見えるけれど、研究者の関与の度合いの相場観がよくわからなかった。仮に参与観察に近いぐらいにフルにコミットするならいい論文が書けそうだけれど、当事者はそこに住む住民だということになれば、研究者の関与は限定的なものにとどめる必要があり、そうするとこれを「研究」と言い切れるのかどうかが怪しくなる。

こういう協働の中から、研究者はどのような研究成果を挙げていけるのだろうか。もうちょっと事例が知りたいなというのが今の正直な気持ちである。

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