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『明治維新史』 [仕事の小ネタ]

明治維新史 自力工業化の奇跡 (講談社学術文庫)

明治維新史 自力工業化の奇跡 (講談社学術文庫)

  • 作者: 石井 寛治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/04/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
強大な外圧を前に倒幕を果たした維新の志士と、開国の波をのりこえ産業の近代化に歩みだした豪商農を支えたものは澎湃とする「独立の精神」だった―。黒船来航から西南戦争まで、近代国家揺籃期の光と影は現代にまで続いている。新しい国のかたちを模索した激動の時代を、政治や社会そして経済・産業をふまえて立体的に描きだす、清新な明治維新通史。

「あれ、もう日本の近現代史とはおさらばって言ってなかったっけ?」などと訊かないで下さい(苦笑)。

できれば、もうおさらばしたかった日本の近現代史。でも、随分昔に、なんとかクイックに勉強せねばとの焦りから、購入しておきながら死蔵していた本が書棚から見つかってしまった。文庫本だからいつでも読めるとたかをくくっていたが、読む時間を作れなかった。この週末を金曜日を含めて三連休にした。積読状態の蔵書を圧縮する作業に取り組む中で、この「今さら」感のある文庫本も読み切っておくことになった―――というか、今週月曜日から通勤時間限定で読んでいたけれども、連休を迎えるにあたってまだ200頁近く残していて、それを連休中に読み切ったということになる。

この本を読んでいての気付きは、「明治維新」という言葉によってどこからどこまでが描かれるのかの定義が「諸説あり」だということだった。通説は西南戦争終結を以って維新の終幕ということらしいが(遠山茂樹『明治維新』)、著者は「19世紀後半という世界史的状況のもとでの明治維新変革の終期は、むしろ明治憲法体制の成立と日本産業革命の開始におくべきだ」(p.364)との立場であるし、僕が普段お仕えしている偉い方々も、明治憲法発布から民法、商法制定あたりまでをカバーして、大政奉還から約30年間が明治維新として描かれるべきとの立場を取っている。

少なくともこの本を読むまでは、僕の頭の中には、「大政奉還・王政復古 vs.近代国家としての諸制度の成立」の対比軸しかなかったから、「維新改革の主体勢力だった討幕派の政治生命終了 vs. 国際社会にも比肩しうる近代国家としての成立」という対比軸があるということ、さらには「近代国家」というのを何で見るかについても、法制度の整備や政党内閣制で見る法学・政治学的視点と、産業発展で見る経済学的視点というのがあるということがわかった。話す相手によって立場を調節していかないと、変なところで足元をすくわれるから気を付けないとね。サラリーマンは。

この著者の本は、2012年に同じ講談社学術文庫から出ている『日本の産業革命』を読んだことがある。そこには著者が明治維新の定義におく「日本産業革命の開始」移行が描かれている。その意味では、本日ご紹介の明治維新史では、忸怩たる思いを抱きながら西南戦争終結と維新三傑のご退場あたりまでで記述を打ち切られている。日本がどうやって近代国家としての諸制度の整備を進めて行ったのかは本書だけでは十分ではないと思うが、幕末から西南戦争までの記述は、日本史の教科書を深掘りして詳しく描かれており、とても包括的だった。著者が経済学者だからだろうが、結構、通商や流通、経済の視点がふんだんに盛り込まれていて、そういう視点から日本史を勉強していない読者には大変興味深い。

さて、これで日本の近現代史を読むのはおしまい―――と言いたいところだったが、これを読んでて別の本も気になり始めた(苦笑)。当面の課題は新型コロナウィルス感染禍で公立図書館も閉館になっている中、先ずは積読状態の蔵書を減らしていくことなので、今すぐではないが、事態が少しは終息の方向(というか、ひょっとしたら定常化する方向なのかも)に向かい、図書館が再開すれば、本書で引用されているような文献のいくつかは、読んでみるかもしれない。

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