『ファブラボのすべて』 [仕事の小ネタ]
内容(「BOOK」データベースより)
デジタル工作機械を用いて地域でのものづくりを促進させてきた工房、Fab Lab(ファブラボ)。その誕生から約20年の歩みをまとめた決定版。ソーシャル・イノベーションや“ファブシティ”構想など、次の一歩へ進むための土台となる一冊。どうやってラボをつくる?どんなプロジェクトができる?持続可能なラボにするには?ラボ同士のネットワークをどう築く?世界中に広がるファブラボの取り組みの中から、17カ国・27のプロジェクトを紹介。
この本のことは1月頃から出ることが話題になっていた。ただ、自分で購入するには4,950円という価格に抵抗があった。多分、個人で購入するよりも、ファブラボやメイカースペースに1冊とか、大学のゼミで1冊とか、組織の予算を使って公共財的な目的で購入するのが想定されているのだろう。図鑑的な装丁だし。よって、僕も会社の図書室に購入をお願いし、入庫と同時に借りて読ませていただいた。
いろいろな意味で春を迎えるには最高の1冊であった。これから取り組もうとしている仕事のとっかかりとして、先ず読んでおくべき1冊である。その邦訳版がこのタイミングで出てきて、さらにこのタイミングで手元に届いたというのは、なんと幸運なことだろう。
邦訳版には日本人のゲスト3人と監訳者である田中浩也さんによる寄稿が加えられている。この話は後ほどするとして、原書であるMassimo Manichnelli編『Fab Lab: Revolution Field Manual』からの翻訳部分だけを読んでも、ファブラボについて僕らが知りたかったことはたいていが網羅されている。例えば、第2章では利用可能なテクノロジー、ツール、素材など、ファブラボにあるものが列挙されているが、これらがすべて揃ってないとファブラボではないのかというとそうではない。レーザー加工機や3Dプリンタだけで始まるようなラボもあるらしいし、今でも大型CNCウッドルーターが必ず配置されているというわけでもないというのが想像できる(逆に大型CNCが主力のファブラボもあるかもだが)。
ファブラボを施設として捉えるだけでは十分ではないのだなというのも、読みながら思ったところである。解決に取り組みたい課題やテーマに対して、どのようなモノを作りたいか、そのためにはどのような素材を用いて、どのマシンをどう組み合わせて使っていくのがいいのか―――そういうのを考えるのは結局人なので、アイデアを出してそれを形にしていくプロトタイピングの経験を何度も積めるような人材育成が重要なのだと、ある方から言われたアドバイスがようやく腑に落ちた気がした。
また、第4章「ファブラボのビジネス面」では、ラボの開設プロセスや維持、特に財政面での持続性確保の方策などが述べられている。ここまでの僕の学びは、最初からフルセットのマシンが必要なわけではなく、必要に応じて徐々に設備拡張を進めていけばいいということであった。
その後、ファブラボで実際進められたプロジェクトの事例がいくつも紹介されている。そこでは、どのマシンがどのように用いられたのか、さらに素材から必要なオブジェクトをどう切り出したのか、2Dの図面等も図示して紹介されている。素材をいかに無駄なく使うかという視点から、これも参考になった。実際にそれらを作ったファブラボのユーザーにスポットを当てた章もあったが、この中でも取り分け示唆に富んだのはアフリカ・トーゴのウォエラボで製作された3Dプリンタで、やはり開発途上国ではフィラメントやいくつかの部品は海外から購入せねばならないとのくだりであった。開発途上国でファブラボを考える場合、部品や材料の入手方法と在庫の常時確保についての方法論を考えておく必要があるということだろう。
ファブラボに関して文献などを読み始めたのは2013年頃からで、僕はそういうのに実際関わっておられる方を何人か知っている。ブータンに駐在していた頃にも現地のファブラボの方々とは交流があった。その彼らが最近よく口にしていたのが、「ファブリカデミー」や「ファブシティ」の話だった。ファブシティについては本編の中でもたびたび言及があるが、巻末のゲスト寄稿の中でも、市川文子さんの「私たちはなぜいまファブと出会いなおすのか」でファブシティについて詳しく語っておられる。ファブリカデミーについては、これもゲスト寄稿で、この分散型教育プログラムに日本人として初めて参加した川原淳さんがその体験談を語っておられる。また、監訳者の田中浩也さんは以前ご紹介した大月ヒロ子・中台澄之・田中浩也・山崎亮・伏見唯『クリエイティブリユース』でも登場されているが、最近のご関心事がファブラボから出る廃棄物の問題だと本書では述べられている。本書では明示的には言われていないけれど、「アップサイクリング」のことだろう。
最後に、もう1人のゲスト寄稿である秋吉浩気さんの「誰もが憧れる成熟したFABLIFEを目指してーデザイナーの拡張としてのスタートアップ」にあった、秋吉さんがスタートアップを立ち上げた理由として書かれていたことで本書紹介を締めくくりたい。
黎明期には、バズワードに惹かれて多くの評論家やコンサルや広告屋がファブラボに視察に訪れていたが、一時的なものにすぎなかった。自分事のようにファブラボが持つ可能性と未来を語ってはいたが、その熱量は持続しなかった。次のバズワードを消費しに向かったからだ。世の中は誰かが変えてくれるようなものじゃない。変えたいと思ったら結局のところ自分で変えるしかない。口だけの奴らに未来を任せていてはいけない。そう学んだのだ。(p.282)
秋吉さんの言う「口だけの奴ら」に名を連ねないようにしたいと思う。
Fab Lab: Revolution Field Manual
- 出版社/メーカー: Arthur Niggli
- 発売日: 2017/08/01
- メディア: ハードカバー
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