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『アパレル興亡』 [黒木亮]

アパレル興亡

アパレル興亡

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2020/02/20
  • メディア: 単行本
内容紹介
経済小説の旗手が、大手婦人服メーカーを舞台に、焼け野原からのアパレル産業の復興、「ガチャマン」景気、百貨店の隆盛と高度経済成長、バブルの熱気、カテゴリーキラー台頭による平成の主役交代、会社とは何かを社会に問うた村上ファンドとの攻防、社長の死と競合他社による経営乗っ取りまでを描く。85年間にわたるアパレル業界の変遷というプリズムを通して展開する、戦後日本経済の栄枯盛衰の物語。

2月を締めくくる最後の読書日記は、黒木亮の新刊ビジネス小説―――。

先週、国立の外勤先での用務が終わった後、歩きながらふとスマホでFacebookの画面を見ていたら、黒木亮の記名入り記事「村上ファンドを退けた名門アパレルがたちまち消滅した理由」を見かけた。導入のパラを読んだだけで、著者がファッション・アパレルの業界を舞台にした新作を上梓したんだとわかり、そのまま国立駅前の本屋に飛び込んで平積みになっていた本書を1冊購入した。

黒木亮の作品は2002年の『アジアの隼』が最初。これを薦めてくれた知人の評では、「誰だか知らないけど、国際金融業界の中の人じゃないとここまでは詳しく描けない」とのことだった。実際読んでみて、僕も同じ印象を持った。実際にその業界に身を置いたことのある人だったし。

そして今回、東京スタイルがモデルと思われるアパレルメーカーを中心に据えた85年にもわたるファッション・アパレルの変遷の歴史を読んでみて、もし黒木亮の過去の作品を全く読まずに本書を最初に読んでいたら、著者はファッション・アパレルの業界に身を置いたことがある人なのだろうと信じたに違いない。

繊維業界は、川上の紡績メーカー、織物メーカー、川中の既製服などの製品メーカー、川下の卸・小売り等から構成されている。作品の中心となるオリエント・レディ社は川中の製品メーカーに相当し、売れる製品を企画し、それに基づき川上の糸や生地を仕入れて、出来上がった服を百貨店に卸し、時に百貨店店頭販売を手伝ったりして事業拡大を図っていった。

なので、作品の中でも、地方の糸屋や機屋、東京の大手百貨店や地方の中規模百貨店等、業界を構成する様々な場面が、オリエント・レディの営業担当とのやり取りを通じて描かれている。また、製品企画に関しても、社内のMD(マーチャンダイザー)やデザイナー、パタンナーが外のデザイナーと組んでどのように企画し、それが社内でのどのようなプロセスを経て商品化が決まっていくのかも、かなりわかりやすく描かれている。

小説を読むことを通じて、この業界の姿を俯瞰でき、しかも業界が戦前戦後の混乱期から21世紀に至るまで、どのように姿を変えてきたのか、所得水準の上昇とともに人々の消費スタイルがどのように変わっていったのか、人々はバブル経済にどう踊らされていたのか等を振り返ることもできる。いわば、小説を通じた業界入門書といってもよい。

消費者が百貨店での購入を中心とした消費スタイルを取っていた1960年代から70年代に急速に売上げを伸ばすことができたが、百貨店の売上げに陰りが見え始めると、業態を百貨店中心からどうシフトさせてていくかが課題となっていった。オリエント・レディはそこがうまく乗り切れなかった。

そこに、自社店舗を持ち、川中、川上まで一貫した製造工程を管理するユニクロのようなSPAが出てきて、徐々にファッション・アパレルの業界勢力図を塗り替えていく。本書でも、オリエント・レディは架空の企業であるが、ユニクロと柳井正社長については実名で出てくる。

そこから先、ファッションECとか大量廃棄の問題とかは、最後の方で少しだけ出てくる。

仕事柄、日本の政治経済の通史はここ数ヵ月やたらと勉強させられてきた。それはそれでためにはなったが、それが今の仕事で自分がやりたいことなのかと問われれば違う。通史は通史でも、特定の業界の通史であったり、ある特定の政策制度構築の経緯であったりといったものだ。その意味では、日本のファッション・アパレル業界の85年史は、僕の関心にはフィットする内容だった。

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