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再読『SFを実現する』 [ブータン]

JICA、CSTのファブラボ開設を支援
JICA to help establish a global standard FabLab at CST
BBS、2019年12月5日
http://www.bbs.bt/news/?p=125030

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―――良かったですね。

僕がブータンにいた最初の年、2016年10月に初めてCSTの学長にデジタルファブリケーションについて吹き込んだ張本人としては、紆余曲折があったけれどもなんとかJICAの技術協力の調印にまで漕ぎつけられたことについては感慨もひとしおだ。張本人がとっくの昔に離任しちゃっている現状については、複雑な思いはあるけれど。

BBSの報じ方は割とサラッとしているので、大事なポイントがカバーされていない。今の政権は、2023年の第12次五カ年計画終了までに全国に15カ所もファブラボを設置すると閣議で決めちゃっている。「デジタルデータからさまざまな物質(フィジカル)へ、またさまざまな物質(フィジカル)からデジタルデータへ、自由に”相互変換”するための技術の総称」がデジタルファブリケーションであり、ファブラボが全国各地にあることで、確かに距離の問題や地理的条件の障壁は克服できる。外国とのコミュニケーションを上手くやれたら、データだけ低コストでダウンロードして現地である程度は生産できてしまうようになるので、対外収支の改善にもつながるだろう。

しかし、各ファブラボで工作機械の操作をアドバイスでき、問題発見やソリューション発見をファシリテートできるファブマスターの育成は大きな課題となって来る筈だ。そういうファシリテーションがちゃんとできる人材を育てられるのがCSTに求められる役割で、それをJICAのプロジェクトでやろうとしているのだろう。

また、CSTのフェースブックページによると、12月3日から5日まで、日本大学の山崎先生という方がCSTを訪れ、人工衛星開発のワークショップを主宰して行かれたそうだが、こういうアドホックな外国人研究者の訪問にその都度真摯に応えているCSTの教員と学生に、その後もちゃんと習ったことを実践させるようなフォローアップを行うことも、実は期待されているのではないかと思う。基本的にCST側は来る者は拒まずなんだろうが、そうやってお客様がいらっしゃる間は真摯に応対してくれる彼らも、お客様が帰られた翌日からは別のお客様の来訪に備え、それに全力投球するようなその日暮らし的な対応をする可能性が高い。折角外国の研究者とのネットワークがあるんだから、そのネットワークを維持させていくことが必要で、そういうフォローアップをJICAのプロジェクトは担っていく必要があるように思う。

―――と僕は思いますが、帰国しちゃったので評論家的なコメントになってしまうことはお許し下さい。

BBSがこのニュースを報じた翌日、僕は岐阜への里帰りの途中であった。2カ月に1回の里帰りは今の僕にとってはノルマになっているのだが、12月5日(木)から8日(日)まで、大垣では「岐阜おおがきビエンナーレ2019」というシンポジウムと企画展示が開催されていた。できれば初日のシンポジウム「ソーシャル・ファブリケーションとメディア技術」に出たかったのだが、それはとうてい不可能で、週末に入ってからようやく今日、シンポジウム「生活の芸術化、芸術の生活化」に参列し、ついでに情報科学芸術大学院大学(IAMAS)が開催していた「岐阜クリエーション工房2019」の作品講評会&トークイベントも見てきた。

岐阜県内の高校生及び専門学校生が制作した作品の展示及び講師による講評会は面白かった。大垣や岐阜の今の高校生は、IAMASが近所にあることで、こんなクリエイティブな活動を高校時代に経験できるのだから羨ましい。僕の母校はあいにく出てなかった。きっと受験勉強で忙しいんだろうが、OBとして言わせてもらえば、受験勉強の手を休めても、デジタル・ファブリケーションは経験しておいて損はないと断言する。

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シンポジウムも良かった。にわかには今のデジタル・ファブリケーションの話と結びつきにくいが、今や誰もがモノを作ることが可能な時代になってきていて、各々が必要だと思う機能だけを付加したシンプルだが最もニーズにフィットしたものを、他の人と一緒になって考え、製作して行くことができる世の中なのだ。誰もがメイカーであり、誰もがデザイナーだということなのだろう。今僕が身を置く業界で、ウイリアム・モリスもフランク・ロイド・ライトも柳宗悦も、ほとんど接点がなかったのだけれど、パネリストの先生方にそう言われてみると、そのあたりも含めてもうちょっと知識の幅を拡げる必要があるのかなと思えてきた。

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ブータンも、STEM教育だ、いやアートも入れてSTEAM教育だと今は大流行りだが、アートという割にはそこまで教えている大学もないのが現状で、IAMASでの議論を見ていて、ブータンの進む道もまだまだ険しいなと思わざるを得ない。

SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書)

SFを実現する 3Dプリンタの想像力 (講談社現代新書)

  • 作者: 田中 浩也
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/05/16
  • メディア: 新書

さて、余談がメチャメチャ長くなってしまったが、そこで本日ご紹介する1冊は、慶應義塾大学SFCの田中浩也先生の2014年の著書。帰省の電車の車中で一気に読み進めて、1日で読了した。既に発刊当時に一度読んで、ブログでも記事を掲載しているが、当時は出てくるカタカナ概念が理解できないところもあった。新書版とはいえ、入門編というのはちょっと難解かも。でも今回は、それから5年以上の自分の蓄積もあって、読むのにそれほどの支障はなかった。多分自分がこうした議論に慣れてきたからだろう。

この当時からFabLab 2.0という話が出ていたのだというのが読み直しての新たな発見だった。簡単に言ってしまえばファブラボでファブラボに必要な工作機械を作ってしまうというもので、3Dプリンタがあればそれができる。でも、それが3.0や4.0になっていくという議論ぐらいからは難易度が増してきた。未だ僕には早いように思う。もう1つ、岐阜おおがきビエンナーレの今年の全体テーマとして「メディア技術がもたらす公共圏」という言葉が使われていたが、事前に本書を読み直しておいたので、ここで使われている「メディア」という言葉について、自分なりの理解をした上でシンポジウムに臨むことができた。

この中でも、23ページにあった「3Dプリンタの可能性」の議論と挿入されている図表は有用だと思う。挿入図自体が他書からの転載らしいが、その中でも、「データは距離を超える」という領域が、当時はまだ言説としてほとんど顕在化していなかったと著者は論じている。ここには、「消費に近い地点で作り、輸送費の減少」とか、「医療やアート分野での利用」とか、「コピーの広がり」といった現象が該当する。

当時はそうだったのだろうが、IAMASやファブラボ鎌倉で行われているアート分野での利用や、著者の勤める慶應大学看護学部やファブラボ品川で行われている医療・介護分野での利用などを見たり聞いたりするにつけ、5年間でも状況はかなり進んできているのかなという気がする。ファブラボ・ブータンでだって、3Dプリンタや小型CNC、レーザーカッターを現地でコピー製作しているし。「地産地消」も、当時よりは日本国内でも多くの取組みが出てきているのではないかと思う。ファブラボ阿蘇南小国とか。

でも、「地産地消」はブータンではまだまだこれから。JICAのプロジェクトでそれが進むことを期待したい。

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