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『日本社会のしくみ』 [仕事の小ネタ]

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

  • 作者: 小熊 英二
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/07/17
  • メディア: 新書
内容紹介
「日本社会のしくみ」は、現代では、大きな閉塞感を生んでいる。女性や外国人に対する閉鎖性、「地方」や非正規雇用との格差などばかりではない。転職のしにくさ、高度人材獲得の困難、長時間労働のわりに生産性が低いこと、ワークライフバランスの悪さなど、多くの問題が指摘されている。しかし、それに対する改革がなんども叫ばれているのに、なかなか変わっていかない。それはなぜなのか。そもそもこういう「社会のしくみ」は、どんな経緯でできあがってきたのか。この問題を探究することは、日本経済がピークだった時代から約30年が過ぎたいま、あらためて重要なことだろう。(中略)本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している「社会のしくみ」である。雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている「慣習の束」の解明こそが、本書の主題なのだ。 ――「序章」より

新書のわりには分厚いため、敬遠されるかもしれないが、サブタイトルに「歴史社会学」とあったので非常に気になっていた。買ってしばらくは積読にしていたが、わけあって先週末から読みはじめ、読み切るのにちょうど1週間かかった。1日100頁のペースで、6日かかったことになる。読みはじめた理由は詳述しないが、仕事に関することではある。

著者があとがきで述べているが、もともとこの本は、雇用や教育や福祉、政党や地域社会、さらには「生き方」までを規定している「慣習の束」が、どのような歴史的経緯を経て成立したのかを書きたいとの問題意識からスタートしたという。当初の構想としては、そこから、日本の生き方の類型として、「大企業型」、「地元型」、「残余型」の三類型を設定して、雇用、教育、社会保障、政党、税制、地域社会、社会運動などを、包括的に論じようと考えられていた。ところが、雇用慣行について調べていくうちに、これが全体を規定していることが次第に見えてきたので、最初に書いていた草稿はすべて破棄して、雇用慣行の歴史にウェートを置いて書き直したのだそうだ。だから、教育は社会保障の記述は少なめに抑えられ、政党や税制、地方自治などは割愛された。

それでいて600頁もの大書というのだから恐れ入る。著者の狙いは「人文社会科学の基礎研究」ということらしい。そう考えればこれだけの大部は合点が行く。

「日本社会の近現代史」という講義を考えるなら、こういう本を書いた人にお願いしたいものである。また、どうせなら、この雇用慣習を基点としつつ、残りの教育や社会保障、政党、税制、地域社会、社会運動なども、それぞれ1時間分の講義としてやって下さらないかなとすら思ってしまう。

欧米と違い、日本的経営の特徴は「終身雇用」「年功序列」「企業内組合」の3点だというのはよく指摘されるところで僕でも知っている。ただ、その形成の歴史が意外と最近で、しかもそのルーツが明治の官僚制に遡るというのはちゃんと知らなかった。日本的経営の特徴を列挙するだけでなく、ちゃんと歴史的経緯も含めて話さないと、外国の人には日本を理解してもらいづらいだろうなと思った。

そしてまた、日本で生まれた地域社会や社会運動の取組みを外国に持って行ってそこに移植しようという取組みについても、相手の国の社会制度をそれなりに理解し、それがどのような歴史的経緯を経て形成されてきたのかを理解し、さらにその日本の取組みと相手国社会での親和性の吟味まで行ってみないと、うまく移植できるのかどうかはわからないというのを知らされた。

そういうところで仕事をしてきた人間にとっては、本書は読めば読むほどちょっと暗い気持ちになってしまったことを最後に付記しておく。

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