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『日本産業 三つの波』 [仕事の小ネタ]

日本産業 三つの波

日本産業 三つの波

  • 作者: 伊丹 敬之
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 1998/07
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
20年のサイクルを描いてきた戦後の日本経済は、いまバブルの崩壊と政策ミスで混迷している。しかし過去の豊かな“遺産”を活かし、「支援型」産業と「統合的」産業を軸に、第三の波が盛り上がりつつある。実証分析と理論を融合した労作。

前回、繊維産業についての分析をまとめた本をご紹介した際、最近著者とお目にかかる機会があったと書いた。繰り返しになるが、その時、「近現代の日本の産業経験は既にまとまっている文献はあるが、英語文献は少ないので、既存の文献を英訳するだけでも結構な発信力になる」と言われたので、僕は、例えばどんな文献があるのかと著者に尋ねた。真っ先に挙げられたのが、『日本産業 三つの波』だった。

前回ご紹介した、『日本の繊維産業 なぜ、これほど弱くなってしまったのか』は、時系列的には『~三つの波』より後の作品で、従って『~三つの波』には繊維産業の分析はまだ含まれていない。とはいえ、伊丹教授と伊丹研究室が、10年もの歳月をかけて行って来られた産業分析の集大成として、また産業別の個別分析をまとめた要約本として、『~三つの波』は相当有用な1冊だと強く感じる。これを読めば、少なくとも戦後の主要産業の盛衰とその分析について、だいたい頭に入る。オイルショックか米国の「強いドル政策」、プラザ合意からバブル拡大、そしてバブルの崩壊まで、僕らの世代は実際にそれを目撃している。なので、本書を読むと「ああ、そうだったな」と首肯するところが多くある。

特に、僕は1980年代に学生やってて国際関係論とか経済学とか勉強し、その後一度銀行に就職してバブル崩壊を見ているから、80年代から90年代頃の記述には説得力が相当あった。銀行業についても1章割かれているが、これは実際に自分がいた業界なので、93年にそれまで勤めていた銀行を飛び出して数年が経過した時点で、著者とその研究室が銀行業の興亡の歴史とその勝因・敗因の分析を見て、少し客観的にこの業界を振り返ることができた。

とはいえ20年も前にまとめられた本である。歴史として振り返りに使うには良書だと思うが、そもそもの本書のタイムフレームと同じぐらいの年月がその後流れてしまうと、同様の産業分析を今やったらどうなるのかと考えてしまうところもあった。衰退がさらに進んだだけで終わる産業もあるかもしれないが、ひょっとしたら別の産業を別の枠組みで分析せねばならないようなところも出てくるのではないかと思う。

でも、そう言いつつも本書の最終章では、「新たな成功パターンへのキーワード」として、「自由な実験」と「市場での資源蓄積」が挙げられ、このあたりは読んでいくと、なるほど今台頭してきている新たな産業というのはそういうところがあるなというのも思い知らされる。

「自由な実験」とは、「どこにもまだない知識や技術を実験によって創造し、新結合の試行錯誤の中から新しい製品や市場、そして新しい事業を探していくこと」(p.393)、そして「市場での資源蓄積」は、「市場への多様な参加者(企業も顧客も)によって幅広く行われる資源蓄積で、企業間で共通利用可能な資源」(p.396)で、「個々の参加者が自分のために行う資源蓄積行動が、他の人々にもインフラストラクチャのように意味を持つという資源蓄積」(p.397)とある。

特に「市場での資源蓄積」は、日本産業がこれまで得意とされてきた組織中心の蓄積との対比で描かれていて、今後これが重要になってきて、各企業が自分の組織の内部に蓄積しなくとも、市場への参加者によって作業・工程が多様に行われ、それが多くの企業に利用可能な形になっていくと著者は述べている。

これって、最近では当たり前のように業界紙を賑わせるようになってきた「オープン・イノベーション」のことを言っているのか!?勿論、20年前にはオープン・イノベーションという言葉は未だ登場していなかったと思うが、それを別の形で示唆されていた本書の先見性には舌を巻く。発刊から20年経っても色あせた感じを受けないのは、本書の最終章が、今後の10年、20年をしっかり予測しているからだと思う。

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