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『日本の繊維産業 なぜ、これほど弱くなってしまったのか』 [シルク・コットン]

日本の繊維産業 なぜ、これほど弱くなってしまったのか (日本の産業シリーズ)

日本の繊維産業 なぜ、これほど弱くなってしまったのか (日本の産業シリーズ)

  • 作者: 伊丹敬之&伊丹研究室
  • 出版社/メーカー: NTT出版
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
繊維は日本産業の先駆けなのか。かつてリーディング産業であった繊維産業がいまあえいでいる。これが日本産業の未来の姿なのか、再生の道はあるのか。多角的な分析によりその本質に鋭く迫る。

以前、シルクだとかコットンだとかのことを調べようとしていて一度だけ本書を読んでみようと思った時期があったのだが、市立図書館で借りたきり、結局読めずに返却し、今日に至っている。それがなんで今さら読もうと思ったのかというと、著者とお話する機会が1カ月ほど前にあったからだ。著者の本は『場の論理とマネジメント』ぐらいしか過去に読了したことがなく、それも6年も前の読書経験だったわけで、その時の話の文脈からは日本の産業の発展(と衰退)の経験の話にならざるを得ず、この繊維産業の衰退の理由を論じた本に言及することになった。特定の産業を取り上げて、その発展と衰退のプロセスと要因を分析した書籍は珍しい。伊丹先生からは、産業経験のまとまった書籍としてもう1冊推薦していただいていて、このブログ記事を書くのと並行して、現在も読書中である。

繊維産業については最初から「衰退」と銘打ってしまったが、繊維産業と言っても一枚岩ではなく、著者は先ず分析のための枠組みとして、川上・川中・川下という分類を提示している。

 川上:化学繊維製造業、製糸業、紡績業、撚糸製造業
 川中:織物業、ニット生地製造業、染色整理業
 川下:衣服その他の繊維製品製造業、綱・網製造業、レース・繊維雑品製造業、その他の繊維工業

その上で、繊維産業全体が弱くなったわけではなく、化学繊維については今でも高い競争力を有する企業が多いが、川下と川中の競争力が弱く、それが産業全体が弱体化との印象を与えてしまっていると主張する。戦後の一時期は花形産業ともいえた繊維産業が凋落の一途をたどったのは、政府の過保護政策や合繊業界など川上主導の産業構造、そして欧米ブランド頼みのアパレル業界の企画力不足があったからだと著者は主張する。

この凋落を川上の合繊業界の企業が主導して強化を図れなかった理由について、著者は、川上のメーカーは繊維だけでなく他の業界へ素材を提供する多角化を進めていて、繊維業界を俯瞰してのリーダーシップがなかなか発揮されなかったという事情を指摘している。

目下の僕の関心はアパレル産業だから、川下のアパレルに関する記述の中で腑に落ちたところを拾っておくと、著者は日本のアパレル産業の特徴として、①きわめて国内志向が強く海外輸出が少ないこと、②しかし国内市場は巨大な規模であること、③そのおかげで国内市場向けの国内アパレル産業による供給が巨大であり続けたこと、の3点を指摘している。

これは僕がハンズオンで知っているイメージと似ている。SDGsの時代に持続可能な開発に十分貢献できるアピーリングなビジネスモデルを展開しているアパレル企業があったとしても、そのアピールが日本語だけで、しかも日本国内だけで行われているのはもったいないなと感じていたが、そもそも顧客を日本国内だけに限定して想定しているからそういうことが起きるのだろう。

もしこれを英語で発信できるようにすれば、ビジネスモデルが秀逸なだけに、欧米やインドの川上、川中部門の企業でも関心を持ってくれるのではないかと思えてきた。最近、この企業が設立した財団法人のFacebookページの管理者権限を分けてもらうことになったが、海外に発信していくことをもっと意識して行くことで現状を打開していけたらと思っている。

それにしても分厚い1冊だが、業界俯瞰するにはいい解説書だと思う。1995年までのデータを用いて2001年に出ている。それから20年近くが既に経過していて、今はどうかというところが気になってしまう。バブル崩壊から95年までのわずか数年でもこれだけの劇的変化があるなら、21世紀に入ってからの、特にアパレル業界での変化はもっと劇的であっても不思議ではないだろう。続編は期待できないだろうが、分析枠組みが既にあるのだから、誰かやってくれないかなと思ってしまう。

タグ:伊丹敬之
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