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『大川周明』 [読書日記]

『大川周明』というタイトルで、我が家に2冊の蔵書が眠っていた。いずれも2010年末頃に購入したものと思われるが、その時は関岡英之『大川周明の大アジア主義』を読んで興味を持ち、続けて2冊購入したものの、いずれも積読になってしまった。我が蔵書の中でも根雪中の根雪であった。

それを何故今頃読み始めたかといえば、根雪を溶かすという以上の大きな理由はない。9年間も積読にしておくのは心苦しいし、こんなことしていてば僕が読書管理に使っている読書メーターでも、いつまで経っても「積読本」の圧縮ができない。図書館で本を借りたりするのもいいが、帰国したら自宅の蔵書もある程度圧縮を図っておいた方がいい。そんな理由だった。

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大川周明  ある復古革新主義者の思想 (講談社学術文庫)

大川周明 ある復古革新主義者の思想 (講談社学術文庫)

  • 作者: 大塚 健洋
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/02/11
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
旧制荘内中学で社会主義に共鳴し、五高時代には黄金万能の資本主義社会打倒を訴えた扇動的学生・大川周明。帝大での宗教学研究から敬天・愛人・克己の思想を深め、さらに日本精神への回帰、アジア主義へと展開する思想的経路はいかなるものだったのか。また大東亜戦争の理論家として破局へと向かう道行とは?「始末に困る」至誠の人の思想と生涯。

1冊目は、大川周明の生涯を辿りながら、その思想形成の経緯を説明したコンパクトな解説書である。8年前に読んだ『大川周明の大アジア主義』が、「途中で同時代に大川と交流のあったキーパーソンの紹介に何度も脱線し、何の本だかわからなくなる錯覚に陥った。まるで昔のカッパブックスやNONブックスを読んでいるような感じだ。大川自身が走り回って周りを巻き込んでいく行動派ではなく、論壇で活発に評論活動を行なった学究肌の人だったからストーリーとしてのスリル性には欠けるのかもしれない」などと酷評するあまりいい文献ではなかったのと比べると、かなりまとまった解説書だった。

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大川周明 イスラームと天皇のはざまで

大川周明 イスラームと天皇のはざまで

  • 作者: 臼杵 陽
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2010/08/10
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
戦前の「国家主義者」の代表とされてきた男が、イスラームに生涯惹かれつづけたのはなぜか?いまだ看過されがちなこの事実から、誤解多き思想家の知られざる姿を蘇らせる。

2冊目はファシズムやイスラームの研究者による大川周明再考の書であった。僕は大川周明には「大東亜共栄圏」の概念形成を論壇から支援した大アジア論者で、東京裁判でも唯一A級戦犯に挙げられた民間人だったというイメージしかなかったが(だから、裁判中に東条英機の頭をひっぱたいて精神鑑定にかけられて訴追を免れ、戦後の年表の記述がかなりスカスカになっている)、大川が日本のイスラーム研究の先駆者で、東京裁判以降療養中にクルアーンの翻訳に取りかかり、『古蘭』として完成させているというのにはあまり注目していなかった。それ以前に彼には『回教概論』という別の著書もあったらしいが、この概論と各論を併せ、その後しばらくは日本のイスラーム研究者にとって、大川の著書は必読の参考文献だったらしい。

本書は、大川がなぜイスラーム研究に取り組んだのか、その焦点はどこに当たっていたのか、それが大アジア主義にどうつながっていったのかなどの問いを立て、彼の著書や他の論者の著書等からその答えを求めていくかなり意欲的な研究書となっている。また、本書は刊行時期が比較的新しく、イラク戦争とサダム・フセインの処刑についても、これを東京裁判の経緯と比較しつつ、「戦勝国による裁き」の矛盾点を炙り出したりもされている。

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いずれの本についても感じたのは、関連文献の解読に充てられた各々の著者のエネルギーの大きさであった。自分の立てた問いに対する答えを暫定的にであっても見つけ出すのに投入した時間とエネルギーは膨大なものであったであろうと予想できるし、各々の参考文献でも、漠然と読んでいたら答えを探し出すことなどできなかったに違いない。

さらに、この2人の著者だけではなく、大川周明その人についても、よくもまあこんなに多くの著書を戦前戦中戦後を通じて遺しておられるものだと驚かされる。1つの文献を著わすのにもペンが進まず四苦八苦している今の自分の体たらくを見るにつけ、大川をここまで集中して多作にしたものは何だったのだろうか、どうやって考察や執筆の時間を捻出していたんだろうか、この人を追いかけて見てみたいと思わされた。

取りあえず、根雪の蔵書2冊をクリアした。この根雪溶解シリーズ、もう2、3冊ほど続けないといけない(苦笑)。
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