『直島から瀬戸内国際芸術祭へ』『ひらく美術』 [仕事の小ネタ]
内容(「BOOK」データベースより)
瀬戸内アート本の決定版!「アートによる地域づくり」を切り拓いてきた福武總一郎(プロデューサー)+北川フラム(ディレクター)初の共著、ついに刊行!
秋元雄史『直島誕生』以来の直島、瀬戸内国際芸術祭関連の書籍である。秋元氏は2006年にベネッセ福武聰一郎会長と袂を分かち、ベネッセを去っている。『直島誕生』は本当に直島が現代アートで復興するまでの経過についてしか描かれていない。それはそれで非常に貴重なナラティブだと思うが、そこで制作されたアート作品について写真すら挿入されていないし、瀬戸内国際芸術祭の今につながるまでには欠けている情報もある。『直島誕生』を読むと、「直島以後」も知りたくなる。
秋元氏がベネッセを去るきっかけとなったのは、直島を到達点として見ていた秋元氏と、直島の経験を近隣の讃岐水道の島々にも拡げていきたいと主張した福武会長との路線の違いであった(と秋元氏は語っている)。秋元氏はベネッセのアート振興部門の事務方の人だったから、会長が言ったことは白を黒とでも言わねばならず、かなり疲弊させられたということもあったのだろう。ベネッセアートサイト直島に至るまでの経緯を描いた文書では、野中郁次郎・廣瀬文乃・平田透『実践ソーシャル・イノベーション』にしても、福武總一郎・北川フラム『直島から瀬戸内国際芸術祭へ』にしても、秋元氏の功績については全く言及されていない。社員という位置付けだったからなのだろうが、福武氏の卓越したビジョンだけが述べられている。
その福武氏から請われて「瀬戸内国際芸術祭」の総合ディレクターに就任したのが北川フラム氏というわけである。そして、そうした関係から、『直島誕生』を読むと、直島以後を知るために必然的に読まねばならなくなるのが、本日ご紹介する最初の本、『直島から瀬戸内国際芸術祭へ』である。
この本、非常に助かる。220頁もあるが、瀬戸内で見られる現代アート作品が写真入りで紹介されている。『直島誕生』で制作に至る背景が詳述されていた幾つかの作品も含まれている。これを読んだら本当に行きたくなる。そして、その瀬戸内国際芸術祭の第4回はまさに今年、既に春季は今開催中だ。夏と秋にも開催予定がある。
うちの娘は大学の授業の一環であいちトリエンナーレ2019の方には行くことになっているらしいし、夏はまた岐阜に里帰りもするから、あいちトリエンナーレ瀬戸内に行けるかどうかはともかく、北川氏がよく言う芸術祭ボランティアサポーター「こえび隊」ぐらいはチェックしておけと伝えておくつもりだ。
直島から他島に展開する時に福武氏は何を考えていたのか、元々越後妻有のアートトリエンナーレの総合ディレクターを2000年から務めていた北川氏は、何を考えて瀬戸内も引き受けることになったのか、本書を読むとよくわかる。また、「現代アートを媒介にした都市と農村の交流と、それを通じた地域おこし」というコンセプトも、本書で瀬戸内が描かれることでよりよく理解できるようになった。
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ついでに、北川フラム氏が主に越後妻有の経験について描いた別の本も4月に読んだ。ブログで紹介してなかったことに気付いたのでここで併せてご紹介しておく。

ひらく美術: 地域と人間のつながりを取り戻す (ちくま新書)
- 作者: 北川 フラム
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/07/06
- メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」。新潟県の里山を舞台に、美術による地域再生を目指して、3年に1度開かれている。本書は、その総合ディレクターによる地域文化論である。文化による地域活性化とはどのようなものか。人と人、人と自然、地方と都市が交わるためにはどうすればいいのか。さまざまな現場での実践をもとに、地域再生の切り札を明かす。
実際に越後妻有を見てないからなのか、300以上もの作品があるからなのかわからないが、越後妻有の発展経過についての記述は正直言ってわかりづらかった。特に最後の2章は急に政治色を帯びてきて、読むのに息切れした。次の越後妻有を訪問してみて、気が向けば改めて読み直してみるのかなと思う。
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