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『続 横道世之介』 [吉田修一]

続 横道世之介

続 横道世之介

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
バブルの売り手市場に乗り遅れ、バイトとパチンコで食いつなぐこの男。横道世之介、24歳。いわゆる人生のダメな時期にあるのだが、彼の周りには笑顔が絶えない。鮨職人を目指す女友達、大学時代からの親友、美しきヤンママとその息子。そんな人々の思いが交錯する27年後。オリンピックに沸く東京で、小さな奇跡が生まれる。

日本にいなかった3年間の空白を埋めるための読書。といっても、この作品が出たのは割と最近だが。

過去二度も読んでいる『横道世之介』の続編ということだが、前作が毎日新聞社→文春文庫という版元の組合せだったのに対して、今回は中央公論社から出ている。

前作はバブル全盛期の1988年か89年頃に法政大学に入学してからの最初の1年の19歳の世之介を描いているが、続編の舞台はそれから5年後。大学を1年留年した後、就活で失敗してバイトとパチンコで食いつなぐ生活を始めて1年が経過した、1993年から94年にかけての、24歳の世之介を描いている。その頃を思い出させる事物がいくつか登場する。そんな空気感だったかなという気もする。面白いことに、僕はこの時期、池袋をターミナルとする私鉄沿線に住んでいて、駅も池袋から2つめだったので、この周辺の土地勘が多少ある。しかも世之介のアパートのあったエリアはジョギングコースとして走っていた。僕の住んでいたアパートにも、お節介な管理人とか、訳ありな隣人がいたなというのを思い出す。

前作を二度読んだ時の感想として、「どこにでもいそうで、なんだかイイ奴なんてキャラは結構沢山いるし、それが何で皆の記憶にこれほど残るのかが理解しづらかった」とか、「周囲の人々が彼に一目置く理由があまりよくわからなかった。読込み不足かな」とか書いているが、その印象、またしても拭えなかった。そういう奴は自分の周りにもいなかったわけじゃないけど、いつの間にか関係が疎遠になってしまい、何度か引越するうちに年賀状のやり取りすら覚束なくなってしまうが、だからといってそういう奴のことを今になって思い出すことがあるかといえば、あまりないのが正直なところだ。

「善良」や「いい奴」というのを突き詰めていけばこういうキャラクターになるのだろうが、そのキャラクターを徹底的に描き込んでいったという点では、作者吉田修一の凄みは確かに感じる作品だった。前作と比べて、世之介と絡んでくる登場人物がいずれもキャラが尖っており、世之介だけではなく、それらの登場人物の描き込み方にも、吉田修一の凄みが表れているように思う。どこででも繰り広げられそうな会話のテンポの良さにも、読んでいて心地よさは確かに感じる。

世之介が命を落とすことになる駅での転落事故のモデルは、多分2001年に新大久保で起きたものだろう。そうすると、本作品の1994年から、さらに7年後のことになる。なんとなくの予感だが、そうすると、本作品の終盤でカメラの才能が評価されるきっかけを得た世之介の、次の展開についてもう1作品ぐらいは描かれそうな予感もする。続編が出たばかりなのに言うことではないかもしれないが、続きがあるかもね。
タグ:池袋 小岩
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