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地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門 [仕事の小ネタ]

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

地元がヤバい…と思ったら読む 凡人のための地域再生入門

  • 作者: 木下 斉
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/11/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
SNSで話題の「地元がヤバい本」はこちら!
「補助金が地方のガンなんや!自分らの手で稼ぐ、それ以外の方法で再生なんかありえへん」
地方衰退の「構造」とビジネスでの「変革手法」がストーリーで一気にわかる!
札幌・盛岡・女川・山形・福井・甲府・熱海・勝川・城崎・小倉・長崎・熊本・鹿児島…全国各地の「未経験者」400名が実践したノウハウを大公開!
「地方のリアル」と「成功のコツ」が122の充実キーワード解説からまるわかり!

この本も、発刊当時から読みたいと思っていたものだが、本帰国してすぐに図書館で借りて読むことができた。この人の著書は、以前『稼ぐまちが地方を変える』を二度読んで、毎回ブログで読後感を書き綴ってきている。
第1回:https://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2015-07-24
第2回:https://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2018-01-22

初回読了の際のコメントで、「この(まちおこしの10の)鉄則を当てはめたケースストーリーを幾つか知りたいということなのだと思う。一応本書でも各鉄則毎にそれなりに具体的なケースへの言及はあるものの、全ての鉄則を1つの特定の自治体のまちづくりのケースに当てはめてみるような取組みがもう少し多いとわかりやすくなったかもしれない」と書いているが、それを特定の自治体についてではなく、架空のまちと登場人物を用いて小説として描いたのが本作品である。従って、過去にそうしたコメントを付けた張本人としては、本書は読まねばならない1冊だといえた。

ついでにその小説としてのあらすじも述べておこう―――。

<あらすじ>
主人公の瀬戸淳の地元は、東京から新幹線で1時間、さらに在来線で20分という、人口5万人ほどのどこにでもある地方都市。ある日東京で働く淳に、母が「商売をやめ、店も家もすべて売り払い余生を楽しみたい」と言い出した。淳は東京と地元を行き来し、廃業手続きや不動産売却といった〝実家の片付け〞に追われる。その過程で、地元で飲食店経営者として活躍する「元ヤン」同級生の佐田から「売るなら、一緒に建て替えて事業をやらんか」と誘われる。 最初は「自分にはそんなことはできない」と思うものの、徐々に気持ちが傾く淳。やりがいを感じられない東京での仕事。寂れていくだけの地元の姿。果たしてこのまま、実家を売り払い、東京でサラリーマンを続けることが正しい道なのだろうか――。そして、淳の「実家の片付け問題」は、シャッター街の再生、さらに地域全体の再生という思わぬ方向へと進んでいくのだった。

小説として読むなら、本書の場合の主人公の幸運は、東京と地元を行き来する生活が始まってすぐに、佐田という同級生と出会ったことである。しかも、この同級生が、高校卒業後地元で飲食店経営で小さな成功を収めているというのも幸運であったといえる。人間、そうそう簡単に有能なビジネスパートナーと出会えるわけでもないだろうから、実際にそんなに簡単にうまくいくとは限らない。でも、小さな事業でなら実績をあげている企業家は、探せばいるのではないかとも思える。

なにしろ、僕自身だって早晩主人公と同じような東京と地元の間を頻繁に往来せねばならない時期が訪れるような気がする。そうした時に、少なくともこれから行動は始めようという初期行動のあるべき姿を明らかにしてくれているのはありがたい作品だと思う。そうして人間関係の再構築を図らないと、有用な情報もヒットしないし、誰がどこで何をやっているのかも把握できないだろう。

有用な作品であることは間違いないし、薦める。さすがに経営書の編集においてはノウハウの豊富なダイヤモンド社らしく、囲みコラムも充実させていて、そこにも非常に含蓄のある「まちづくりのあるある」がふんだんに盛り込まれている。それでストーリー展開をぶつ切りにされるのはちょっとつらかったが、ストーリーだけ楽しんだ後、囲み解説やコラムだけ別途まとめ読みするというのもありだと思う。

僕はブータンでこれらと真逆の地域おこしの取組みを見てきている。著者の主張の核になっているのは、「補助金をあてにするな」というところにある。従って、中央も地方も、政府は真剣な地域おこしの取組みの足を引っ張る障害でしかないという立場を取っている。ただ、残念ながら今のブータンで、公的部門などあてにするな、補助金など要らない、自分たちのことは自分たちでなんとかする、という自立志向の強い地域おこしの取組みは、寡聞にして聞かなかった。

そこで僕は考えるのである。この本、英語に翻訳されないのかなと。他力本願的なことを言っているのは無責任なのでもう一歩突っ込んで述べるが、プロの翻訳の仕事はやってないけど、必要なら翻訳の仕事を手伝ってもよいと。

最後のひと言だけちょっと反論も述べておく。著者のスタンスは「政府は何もやるな」ということなのだろうから、こうした民間主導でのまちおこしの展開を横目で見つつ、中央政府や地方自治体がどう変わっていったのかというのは、単に余計な公的助成プログラムを縮小したという以外のことは小説の中で描かれていなかった。例えば、主人公の高校の同級生が地元の自治体に務めている設定になっているが、結局この同級生・森川は、最後まで主人公や佐田らと交流らしい交流は持たなかった。とかくお役所仕事が批判されがちの行政だが、本当にまちづくりでは行政は邪魔になるだけなのか、行政が変わっていくとしたらどういう形になっていくべきなのか、本書からは何の示唆もないのは残念であった。

それと、役所のお抱えのコンサルタントやシンクタンクが予算をもらって実施した「事例集」が、今のその姿をスナップショット的に切り取っただけで、そこまでに至るプロセスへの洞察に欠けるというのはその通りだと僕も思うが、そんなことははなから承知で、本当に僕らが知るべきなのは、そこに至るまでのプロセスには紆余曲折があったという点だろうというのもわかっているつもりである。要は利用する僕らがそれをどう捉え、どう活用するのかが問題なのだと思う。

以前、クエンセルにコラムを1本書くのに、日本の某県における六次産業化の取組みの事例を自分なりに相当調べたことがあるが、最も驚いたのは、同じようなケースストーリーが複数のシンクタンクが行った調査レポートの中に何度も登場していたことだ。しかも、時期にもさほどの差はない。これらの調査にはそれなりの公的資金が投入されていたのだろうが、こんなに対象が重複する調査をやっているというのも驚きで、こういう調査を毎回受け入れて調査員に応じていた事業主もさぞかし大変だったに違いない。ちゃんと取材料を取っていたのかは知りたいところだが。

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