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このためだけに作ったのか? [ブータン]

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国会を人々のもとに:ブータンのバーチャル集会
Bringing Parliament to the People: Bhutan's Virtual Zomdu Initiative
Open Government Partnership、2016年11月14日、Namgay Wangchuk(UNDPブータン)
https://www.opengovpartnership.org/stories/bringing-parliament-people-bhutans-virtual-zomdu-initiative

ブータン:バーチャルに国会を人々のもとへ
Bhutan: Bringing parliament to people - virtually
UNDP Asia Pacific、2016年1月30日
http://www.asia-pacific.undp.org/content/rbap/en/home/ourwork/development-impact/innovation/projects/bhutan-virtual-zomdu.html

3月1日、ロイヤルティンプーカレッジ(RTC)で開かれた某ワークショップに出ていて、ゲストスピーカーが「バーチャル・ゾムドゥ(Virtual Zomdu、バーチャル集会)」のウェブサイトを紹介して下さった。ブータンのIT業界の中ではかなり有名な方なので、当日のゲストスピーカーをされていたわけだが、SDGsとコミュニティの持続可能性を学生が論じるワークショップでこの話題を出された理由は、「SDGs」という言葉と、ご自身の専門とする情報通信技術を絡めて検索したらヒットしたということだったような印象だ。そして、このスピーカー、「活用状況には検討の余地があるけれども…」と正直におっしゃっていた。

このコメントは、僕が地方のゲオッグ・センターを幾つか訪問した時の印象とも非常に通じるものがある。全国205あるゲオッグ(郡)には、選挙で選ばれたガップ(Gup、郡長)、マングミ(Mangmi、副郡長)、それに行政を司り、中央政府からの任命で配置されているGAO(Gewog Administration Officer、郡行政官)、AEO(Agriculture Extension Officer、農業普及員)等がいる。彼らの務めるゲオッグ・センター(郡庁)には、執務室の入った管理棟の他に、コミュニティインフォメーションセンター(CIC)や、多目的ホール等が建てられている。

バーチャル・ゾムドゥというのは、このCICにテレビ会議システムを入れて、地元選出の国会議員が、国会会期中でありながらも、地元選挙区の人々の声を聞くことができるようにしようという取組みだと理解した。UNDPが2015年8月にローンチして、先ずはサムチ、ブムタン、タシヤンツェ、ダガナの4県で、47ゲオッグのCICにテレビ会議システムを入れたということらしい。

2015年にローンチングされてから、2016年頃まではバーチャル・ゾムドゥで検索すれば、ある程度の記事はヒットする。でも、僕自身が地方を回ってみた印象で言うと、テレビ会議システムを入れているCICは、当初の4県よりはもうちょっと増えているようには思えるのだけれど、どこのゲオッグ・センターのCICにもテレビ会議システムが入っているわけではない。また、テレビ会議システムを入れていたCICでどういう時にシステムを使うのかと訊いてみたところ、国会議員と住民が直接対話する時という模範解答を聞いたのは一度だけで、それ以外では使うことはないのかと尋ねてみたところ、「ない」という答えが返ってきた。今となっては悔やまれるが、その国会議員と住民の直接対話の頻度も訊いてみればよかった。ただ、中には「そうだろうな」と思えるケースとして、普段は近所の子どもが来てテレビを見ているというシーンにも出くわしたことがある。

こういうシステムの評価ってどのようにすればいいんだろうか?バーチャル・ゾムドゥだけのために入れたというのなら、資本投資は結構かかっているわりに、年2回程度しか使われないのはかなりもったいない気がする。

こういうプロジェクトの企画書が組織の中で通るためには、もうちょっと費用対効果を高めに盛るための説明が必要だったのではないかと想像するんだけど、元々の利用が年2回程度のものに、どうやったら「盛れる」のかが不思議だ。ただ、可能性はある。UNDPは地方でもいろいろ事業をやっているんだろうから、必ず問題になるのはプロジェクトのモニタリングをどうやるのかということだ。ブータンの地理条件のせいで移動が難しいのは国会議員だけじゃない。プロジェクトを地方で展開している国際協力実施機関だって、スタッフが頻繁に地方に行くのは難しい筈である。だから、テレビ会議システムを使えたらスタッフが地方巡回をしなくても済む可能性はあると思う。ついでに言えば、UNDPだけでなく、こういうシステムの利活用をオープン化して、他の国際協力実施機関だって使っていいということにしたら、もっと使用頻度は上がる可能性はある。こういうシステムって、ある程度の頻度で使わないと劣化が著しいと思うので、むしろ、バーチャル・ゾムドゥ以外の使用の仕方についても、考えられていれば良かったのではないかと思う。

ただ、それでも少し疑問は残る。ゲオッグセンターは住民が集まりやすい場所にばかり立地しているわけでもない。国道に近いところにゲオッグセンターはあるけど、ほとんどの集落はそこから徒歩で2時間かかるというところだってあるのだ。わざわざ2時間かけてCICまで行き、地元の国会議員にものを申すような選挙区民って、どれくらいいるのだろうか。僕だったら、国会議員の電話番号をメモっておいて、スマホで電話して陳情しちゃうだろう。(実際、最近某国会議員とダガナで晩御飯をご一緒していて、やたらとその手の電話が国会議員の携帯にかかってきて、議員が応答に追われている姿を見てしまった。)

固定式のシステムというのは、そういう点ではちょっと時代遅れになりつつあるのではないだろうか。もしスマホのアプリでマルチリンク接続して、実際に映像見せながら対話する方がもっとバーチャルっぽい気がするんだけれど。ブムタンではWhatsappアプリを使って日本と村とを結んで遠隔モニタリングをされているJICAの草の根技術協力プロジェクトが1つ行なわれているんだけど、そういうのがもっと普及していったらいいのではないかと思う。

なにせその後このプロジェクトがどうなったのかはUNDPのウェブサイトではわからないので、勝手な推測だけでこの記事は書いている。UNDPのブータン事務所長は今度日本人の方がなられるらしいので、是非その後どうなっているのかをご覧いただけたらと思う。

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