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高地民支援の可能性を示す [ブータン]

ルナナの子どもたち向けウィンターキャンプ
A special winter camp for children from Lunana
BBS、2019年1月18日、Komal Kharka通信員(プナカ)
http://www.bbs.bt/news/?p=109698
2019-1-18 BBS.jpg
【抄訳】
自分の住む村が凍てつく寒さで閉ざされている中、ルナナから約21人の児童が暖かいプナカに滞在、1週間にわたる特別キャンプに参加した。クラスPP(幼稚園年長に相当)からクラス6(小学六年生に相当)までの児童は、本の読み聞かせや日本の様々な形態のアートに触れた。

このウィンターキャンプには、算数や英語といった学校教育を補完するクラスの他、アートや手工芸、ゲームを通じた体育クラスやスポーツ行事等も含まれる。JICAブータン事務所が主催したこのイベントは、高山僻地に暮らす子どもたちが必要とする機会を提供する初の試みで、こうしたプラットフォームは過去に類を見ない。

「これはJICAにとっても、高地住民の生活について学ぶ初めての機会となります。今年のプログラム実施経験に基づき、来年以降も実施できるようプログラムを改善していきたいと思います」――JICAブータン事務所の山田浩司所長はこのように述べた。

児童はまた、日本の合気道の基本、自衛のためのスキルを学んだ。ワンデュポダンの国立水文気象センター監視ステーションでは、児童らの住む地域の気候変動と氷河湖について、スタッフから説明を聞いた。

「このウィンターキャンプに参加することで、僕は日本語、アートや工芸、そして音楽など、たくさんの新しいことを学びました」―――参加した児童の1人、ペマ・タシ君はそう答えた。

児童はまた、建設現場で働く機械を見学し、そして重機の操作方法も学んだ。

「私は機械の操作とか、音楽とダンス、それに絵を描いたり、本を読んだり、いろいろなことを学びました」と、参加者の1人キンレイ・ワンモさん。

引率したルナナ小学校のゲム・ドルジ校長は、ルナナの地理的条件のためにこんな機会は過去には利用できなかったと述べる。 「このプログラムは、児童が学業成績を向上させ、健全な発展に貢献するのに非常に役立つと思います。」

ウィンターキャンプは16日に終わった。 JICAブータン事務所は、今後同様のキャンプを開催したい意向。

◇◇◇◇

欧米や日本では、夏になるとサマーキャンプが開催されることが多い。自然に触れ合うとか、サバイバル技術とか、普段の学業の補習の意味合いはさほど強くはないプログラム編成が多いのではないかと想像する。

この手法は、夏休みが2週間しかないブータンには適用困難だが、冬休みならあり得る。普通の学校や大学、その他教育機関は12月と1月が丸々休暇なので、その間に生徒や学生向けのイベントは少なからず行われている。以前ご紹介したCamp RUF(Rural-Urban Friendship)などはまさにその典型であり、その他にも、YDF(Youth Development Fund)が「While(in)g Vacation Program」と題した、冬休み限定の10日間ほどの特別イベントを、国内数カ所で開催しているし、ファブラボ・ブータンも1週間ほどの超廉価ラップトップ「Pi-Top」を用いたコーディングの研修を、冬休み中の大学生を対象に主催した。

多分ティンプー市内のジグミドルジワンチュク公立図書館も、週1回は冬休みの児童向け読書会とかを、学生ボランティアを動員してやっていた筈だし、政府主導で各地に開設が進んでいるユースセンターも、冬休みは書き入れ時で、長い冬休みの間に若者や子どもがドラッグ等に手を出さないよう、彼らを啓発するための行事を幾つか主催している筈だ。

だが疑問なのは、こうした活動は基本的に12月と1月が冬休みの学校や教育機関に通う生徒や学生を対象としているものだということだ。では、こうした中山間地や南部よりも冬の寒さが厳しく、冬休みが11月中旬から3月末までと長い高地の学校の子どもたちはどうしているのか?

長すぎる冬休みのために、高地の子どもたちは学業的には不利な立場に置かれている。聞けばルナナ小学校は全校生徒数36人と規模は小さく、教員は4人しかいない。校長先生は空席で、BBSのニュースでインタビューを受けていた「校長先生」はアクティング、つまり代理なのである。このアクティングの校長先生、以前もBBSのニュースで見たことがあるが、僻地過ぎて教員がなかなか赴任して来てくれないと訴えていた。全校生徒数36人で教員4人というのはあまり悪い比率ではないが、1人の教員が教えなければならない教科の数がそれなりに多くなるわけで、どうしても質的には問題がある。

そうした中でJICAが目を付けたこのプログラム、詳細はJICAブータン事務所のFacebookで毎日発信されていたので様子をご覧になった方も多いかもしれないが、結構いいポイントを突いている。長い冬休みの間、子どもたちは厳寒のルナナにずっといるのかというと実はそうではなく、避寒のためにプナカに家族と一緒に下りてきている子どもが多い。1月のこの時期、中山間地や南部の学校はまだ冬休みなので、教員研修にでも呼ばれていない限りは教員も暇している。学校施設も空いている。JICAの中でも、学校配属の協力隊員は冬休みで動きが取りやすい。そして、教育省ですら類似のプログラムをやっていない。

Facebookを見れば、これに参加しているのは協力隊員だけではない。JICA事務所の所員も教師を務めているし、JICAの研修で日本に行ったことがあるブータン人教員とか、栄養士とかも参加している。社会科見学で訪れた国立水文気象センターの監視ステーションのスタッフは、JICAの技術協力プロジェクトで育った人材である。それだけではない、JICAはプナカ県庁にも声をかけ、ディグラム・ナムジャ(ブータンの礼儀作法)の講師を派遣してもらっているし、ファブラボ・ブータンやCDCL、道路局ロベサ地域道路事務所にも来てもらって講習会を受け持ってもらっている。スクールバスはガサ県庁からの提供。そして、会場は冬休み中のクルタン職業訓練校である。本来業務とは関係なくとも本人が持つスキルや知識、アイデア、資金等を少しずつ持ち寄り、1つのパッケージに仕上げている。

高地の人口を考えたら、高地で大きなプロジェクトを1つ実施するなんてとうていできないだろう。そうすると、こういう持ち寄り型のパッケージが1つの方向性なのかもしれない。校長先生が7日間ベタ張りでいらしていたみたいなので、生徒だけではなく、校長先生自身も教え方のブラッシュアップにつながったのではないかと想像する。

そして、間違いなくこれに運営側で関わった一人一人が、ルナナの子どもたちの実態を見て学んだことは大きかったと思う。こういうパッケージを今後も毎年JICAが単独で作っていくのは大変なので、1つはユースセンターのような、現地パートナーの主催者側への巻き込み、1つは他の知見や資金、時間を有するユニセフや他の開発機関、他国のボランティアへの参加呼びかけ、もう1つは、教育省への政策提言と県教育予算からの支出の働きかけ、これらを今後1年間の間に着実に進めることがJICAには求められるだろう。

来年以降実施するにしても、キャンプに関わった日本人の顔ぶれは変わってくる。ここで高地の子どもたちの実態を直接見た人々がこれから日本に帰っていくと、今度は日本の市民社会も巻き込んだ高地民支援の輪が広がっていく可能性もあると思う。ウィンターキャンプを目標に、教えてみたい人々にブータンに来てもらったりとか、学校での教具等の寄付を募ってキャンプの場で学校に引き渡すとか、キャンプ期間中の費用として最も大きい昼食代や文具代をクラウド資金調達するとか、ポイントを決めることでいろいろ呼びかけがしやすくなることもあると思う。

昨年11月の僧院での体育ワークショップに続く、高地小学生向けウィンターキャンプ。痒いところに手を届かせるためのJICAの取組みの模索は今も続いている印象だ。
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