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『2052』 [持続可能な開発]

2052 今後40年のグローバル予測

2052 今後40年のグローバル予測

  • 作者: ヨルゲン・ランダース
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2013/01/09
  • メディア: 単行本
内容紹介
最も「実現確率の高い未来」を徹底予測―――本書『2052』は、かつて世界の人々に重大な警告を与えた『成長の限界ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』を受け継ぎ、21世紀の警告書としてあらためて問い直したものです。
『成長の限界』(1972年)では、人類は地球の物理的限界にどのように適応するかという壮大な問いに取り組み、資源枯渇や持続可能性、温室効果ガスの弊害について、世界が真剣に考え始めるきっかけを作りました。
本書『2052』は『成長の限界』から40年が過ぎた今、持続不可能な方向に進んでいる地球に対して、人類がどんなアクションをとっていくのか(あるいはとらないのか)、経済、環境、エネルギー、政治など30以上の分野にわたる世界のキーパーソンの観測を踏まえて、今後の40年間の予測を取りまとめました。 元祖『成長の限界』の著者の一人であるヨルゲン・ランダースが描く「最も実現確率の高い近未来」は、混沌の21世紀をどのように生きるべきかの重要な指標になります。巻末には、今後40年を生きていくためのランダースからの20のアドバイスがあります。

長かった。10日がかりの読書であった。仕事で1週間ほどクルタンに滞在したので、その間、時間を見つけてはシコシコ読んだ。こうした特別な環境に身を置く機会でないと、なかなか読めない本だと思う。

本書は、未来予測の本を何冊か読みたくて、2016年4月にブータンに来る時に買って持って来た。サイズのわりに安かったし。でも、A5判で500ページもあるそのボリューム感を敬遠して、なかなか手を伸ばすことができなかった。さすがに自分の残りの任期を考えたら、当地に置いていくのか持って帰るのかの判断をしてしまいたくて、1週間も日常生活から離れるという特殊な機会を利用して、真っ先に読んだものである。(で、結局この1冊しか読了できなかったのだが。)

結論から言うと、この本は持って帰る。図書館で借りればいいじゃないかという考えもあったが、手元に置いておいた方がいい本だと判断した。今後予想される我が子の進路選択の判断材料にでもなればという思いもあったから。面白いことに、著者は彼自身も著者の1人であった1972年の『成長の限界』から本書を著した2012年がちょうど40年経過した時点だったので、そこからの次の40年というのを未来予測のターゲット年に定めたとしているが、僕が本書を読んだのは55歳の時点で、2052年というターゲット年、順調なら僕の長男が55歳になっていることになる。自分の長男がどういう状況の中で55歳を迎えているのかはわからないが、1つだけ言えることは、僕自身も含めて今大人たちがしでかしていること、それと僕らの前の世代から続いてきた地球を痛めつけるような行為のつけを、僕らの子どもや孫の世代が払わされていることだ。

個人的には中国を過大評価し過ぎのような気がしたが、あとのところの予測はおおむね腑に落ちるものであった。著者の予測にかなりの信憑性を持たせているのは、彼がドネラ・メドウズ『地球はシステムで動く』でも紹介されていたシステム思考を用いて包括的な予測に務めているからだ。何をどう分析してそうなるのかというところまでは、凡人の思いが及ぶところではない。述べられていることを鵜呑みにするしかないのだが、「やっぱりそうなんだ」と思うところが多かった。

特に、これを読むと、2015年9月に合意された「持続可能な開発に向けた2030アジェンダ」と「持続可能な開発目標(SDGs)」自体、達成が相当難しいというのも何となくわかった。方向性としては正しいし、良識ある企業は特に、SDGs達成にどれだけ貢献しようとしているのかをアピールしようとしている。短期的な利潤の最大化を追い求めているわけではない、もっと長期のタイムスパンでの利益に貢献するものとして、「持続可能性」は強く意識する必要があるということなのだろう。でも、それでもSDGsは達成困難だろう。

本書が描かれたのは2012年だから、当然、2015年の新開発アジェンダに対して言及などなされていないが、短期志向の強いのは企業だけじゃなくて政治家を選ぶ我々有権者もそうだから、選挙で選ばれた政治家が行う政策決定も、短期志向の強いものになる。だから貧困や気候変動といった国際社会の共通の課題に対しても、総論では賛成であったとしても、各論になると反対という反応がどうしても出てくる。たとえ2030アジェンダやSDGsに言及されていなかったとしても、この部分は著者ならそう言うだろうと容易に想像ができる。危機が顕在化して来ないと人も国もその行動を改めない。それでも、「次の世代から、『あなたはその時、何をやっていたのか』と指弾されることのないよう、今から責任ある行動は始めておこう」というメッセージは、個人的には重く取り上げたい。

さて、地球温暖化が2℃以内に収まらず、閾値を超えてさらに上昇するのが不可避だとなった場合、ここブータンの風景も今世紀半ばに向けて相当大きく変わっていくのだろうなと思えてきた。今年の冬は格別に寒いと言われているまさに今、地球温暖化の話は非常に論じづらいのだが、温暖化は海抜が高いところほど気温の上昇が見られるというから、氷河の後退なんてもっと加速する可能性が高いし、氷河湖の決壊洪水も発生リスクが今まで以上に高くなっていくのだろう。今は山ヒルのいないティンプーにも、チュカあたりからヒルが進出してきて住民の血を吸うなんてこともあるかもしれない(苦笑)。

それに、今この国が取り組んでいることの中にも、本当にそれが良い取組みなのか、気候変動に対して余計な貢献をするものではないのかという点は、もうちょっと慎重に考えた方がいいように思った。それを最も痛感したのは、観光振興に関する部分であった。飛行機を使ってブータンを訪れる場合、当然飛行機が温室効果ガスを排出するわけだから、観光にはいいかもしれないけど、環境には必ずしも優しいわけではない。本書の著者は、異国情緒を味わいたければVRで済ませることもできるようになっていくだろうと予測している。また、温暖化で今の風景は40年もするうちに変貌を遂げるので、子どもたちに無垢の自然を愛することなど教えても仕方がないとも言っている。結構すごいなと思いつつ、まあそうかもとも思う自分もいる。今金銭的な蓄えがそこそこある60代、70代の方々ならともかく、僕らの次の世代が、それほどの可処分所得を得られるとは思えない。観光振興は短期的にはいいのかもしれないが、長期的に持続可能なのかどうかは、もうちょっと慎重に考えてもいいのかなと思えてきた。

ブータン政府がこれからまとめようとしている「ビジョン2045」なんかも、こういう、グローバルな未来予測も踏まえて、議論が進められねばならないと思う。今国会で審議されている第12次五カ年計画(2018~2023)が確定したら、次は長期ビジョンの検討に入っていくのだと聞いているが、漏れ伝えられる議論の中身も、こういう未来予測も踏まえて見てみたい。

先週金曜日に、国立統計局(NSB)が2017年国勢調査の結果を元にした2047年までの人口動態予測を発表した。地元メディアでは、ブータンの総人口が、2047年までに88万3,900人にしか増えないことを取り上げている。合計特殊出生率も1.7にまで下がって今後も低迷するとの予想である。まあ、ショッキングと言えばショッキングだけれど、『2052』では書かれている世界の未来の姿でもあるので、ブータンだけが特別じゃないよと少し冷めた目で記事は読んだ。

2047年までに、人口88万人にしか増えない
Population projected to reach only 883,866 persons by 2047
The Bhutanese、2019年1月12日、Damchoe Pem記者
https://thebhutanese.bt/population-projected-to-reach-only-883866-persons-by-2047/
2019-1-12 Bhutanese02.jpg
2019-1-12 Kuensel01.jpg

最後は、恒例により本書の英語原書版のリンクについても紹介しておく。

2052: A Global Forecast for the Next Forty Years

2052: A Global Forecast for the Next Forty Years

  • 作者: Jorgen Randers
  • 出版社/メーカー: Chelsea Green Pub Co
  • 発売日: 2012/06/13
  • メディア: ペーパーバック



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