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トカゲのしっぽ切りにならないように [ブータン]

このブログをご覧になられているブータン好きのフォロワーの方々の間では、なぜSanchaiがブログでブータン人日本就学就労支援制度「Learn and Earn」について触れないのかと怪訝に思っておられた方もいらっしゃるのではないかと思う。確かに、ブータンの現地メディアで、12月に最もホットだった話題といえばこの話なので、意図的にこの話題を避けてきたのではないかと思われても仕方ない。

2017年4月にこの制度の第1期で日本に行った若者の中から自殺者が出たり、既に帰国した若者や、未だ日本にいる若者の父兄が「政府どうにかしろ」と新政権や野党、さらには国王にまで陳情したという話もあって、あまりにも報道が多すぎて手に負えなかったというのが正直なところである。さらには、月末近くになって、1年前から査察をしていて、いつ公表するのかとずっと気になっていた反腐敗委員会(ACC)の報告書まで飛び出した。

Learn and Earnは日本だけを対象とした事業ではない。この間、マレーシアでもブータンの若者が就業機会が約束通り提供されなかったと訴えたケースも明るみになったし、ACCの査察対象は日本だけでなく対インドの事業も含まれていて、前の労働大臣が同族企業に便宜を図っただの、労働省雇用人材局長も公務員規程に抵触する行いがあっただの、報道が入り乱れていて、記事の取捨には相当悩んだ。

ただ、ここまでの一連の報道を見ていて、前の労働大臣や労働省雇用人材局長の汚職とか、対日本事業の実施機関となっていたBEOの事業免許の合法性とか、そういうところに報道が集中しちゃっていて、もう少し冷静に、制度を利用しようとしたブータンの若者の認識の甘さや、安易に銀行融資という制度を適用した政策立案者の認識の甘さ、さらにはなぜ借入金の返済に窮することになってしまったのかという日本の生活費の高さといった点についての分析が少ないのが気になっていた。

そうしたところに、12月29日付のクエンセルに、興味深い表が2つ掲載されていた。

2018-12-29 Kuensel.jpg
出所:"Cabinet to discuss overseas programme in Japan" Kuensel、2018年12月29日
http://www.kuenselonline.com/cabinet-to-discuss-overseas-programme-in-japan/

後ろが切れちゃってて申し訳ありません。これは労働省が公表した、そもそも日本に行って暮らしていくのにいくらかかるのかという試算である。総額は64万9000ニュルタムだが、この表を見て驚いたのは彼らが日本で通う日本語学校の学費である。

51万9000ニュルタム!―――うちの子どもの大学の学費よりも高くないか?

残念ながら、この表が掲載されていた記事にも、それ以外の関連記事にも、日本で日本語学校に通うのになんでこんなに学費が高いのかについて、疑問を呈する記述はない。これそもそも1年間の学費なのか、2年間の合計の学費なのかもわからない。ブータン国内の報道だけではこうした点はわからない。いや、本当にそれだけかけないと、日本語学校も採算が取れないんだと言われるのであれば、そこは日本からも発信して欲しいところだ。

すごいラフな計算だが、1人につき約100万円として、このプログラムで既に日本に渡航した若者が700人以上いるというから、7億円分が日本で彼らが通う日本語学校の収入になっていることになる。繰り返すが、これはプログラムに参加する若者が銀行から借り入れたもので、返済義務も本人たちが負う。この件に関する一連の報道を見ていて、心が痛んで仕方がない。

この学費の規模が大きすぎるので、同日付のクエンセルに掲載されていた、BEOが各参加者から徴収した渡航関連費用12万~13万ニュルタムの内訳というのが霞んでしまう。

2018-12-29 Kuensel02.jpg
出所:"Bhutan Employment Overseas was illegally licensed: ACC" Kuensel、2018年12月29日
http://www.kuenselonline.com/bhutan-employment-overseas-was-illegally-licensed-acc/

ACCの指摘は、この内訳に記載されている項目について、徴収はされたけれどもちゃんと明記された通りの使途でBEOが使っていなかったのではないかというところにあるようだ。まあそうはいっても規模感で言えばこの部分をいくらフォーカスしてもトカゲのしっぽ切りになってしまうように思えてならない。

もっと重要なのは、なんでこうも安易に銀行融資をベースにして個人にリスクを負わせる制度設計をこの国は多用してしまったのかという点だと僕には思える。

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