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バイパス道路の要否 [ブータン]

ウラ・リンミタン道路拡幅はシンカル・ゴルガン道路にかかっている
Ura-Lingmithang widening to depend on Shingkhar-Gorgan fate
Kuensel、2018年12月29日、Yangchen C Rinzin記者
http://www.kuenselonline.com/ura-lingmithang-widening-to-depend-on-shingkhar-gorgan-fate/

2018-12-28 BBS02.jpg
【抄訳】
これまでにも議論されてきたシンカル・ゴルガン道路問題が再び注目されてきた。公共事業省は、全国環境コミッション(NEC)がルンツィまでの行程を100km短縮するバイパス道路の建設計画にゴーサインを出すことを期待し、第12次五カ年計画で、4億ニュルタムの予算を計上した。

28日(金)に行われた報道陣との会談で、ドルジ・ツェリン公共事業相は、シンカル・ゴルガン道路の建設認可が下りなければ、この予算はウラからリンミタンまでの国道の拡幅工事に投入するとの意向を明らかにした。

シンカル・ゴルガン道路の建設は、NECが道路建設にかかる環境クリアランスを道路局に与えていないことでストップしている。公共事業相によると、このシンカル・ゴルガン道路に関する議論は10年以上続いており、同省としては着工準備はできているものの、環境保護問題のためだけに建設はストップしているという。

「我々はNECが求めた追加書類を既に提出済みであり、少なくとも第12次五ヵ年計画の初年度または2年度目までに認可を得ることを望んでいます。 でなければ、我々も時間を浪費したくないので、確保済みの資金は、ウラ・リンミタン国道の拡幅工事に振り向けることにします」――公共事業相はこのように述べた。

NECは、環境クリアランスを決定する際の重要な要因である環境影響評価(EIA)が不十分であることを以前に指摘している。道路が中核エリアを通過しているとの最初のEIA報告書での指摘に対し、道路局は森林許可を取得しており、その道路が中核エリアを通過していないと反論している。

また、2011年から2012年頃に提出されたEIA報告書の記載情報の大部分はデスクサーベイによるものであり、EIAを実施した職員は現場に一度も出向いていないことも指摘されている。

ドルジ・ツェリン大臣は、シンカル・ゴルガン道路は重要であり、NECがまだ環境クリアランスを発行していないと述べた。その遅れが、ウラ・リンミタン国道の拡幅工事の進捗を妨げているとも指摘する。「クリアランスが得られれば、拡幅工事は不要になるでしょう。」

NECはこれまで、道路局に対しEIAのやり直しを求めてきた。大臣は、再評価には多大な費用と時間がかかるため、それほど簡単ではないと反論する。 「EIAを完璧なものにするには、実施資金の確保に2年かかり、さらにEIA実施に2年がかかります。そうなると第12次五カ年計画は既に折り返しを過ぎてしまっています。我々が着工認可を得るのは、2023年にもなってしまうでしょう」と大臣。今求められているのは、評価レポートのどの部分に瑕疵が見られるのか、どのようなデータが欠落しているのかを再検討することだと指摘する。

当初は8億9000万ニュルタムもの費用がかかるとみられていたシンカル・ゴルガン道路は、ティンプーと東部3県と間の移動距離を短縮することが期待されている。この道路はまた、貧困人口が最も多い県の1つであるルンツィにも恩恵をもたらす。 現在、ルンツィに行くには、トゥムシンラ峠を越え、リンミタンまで高度を下げ、そこからまたルンツィに向けて登攀を開始せねばならない。シンカル・ゴルガン間のバイパス道路の総距離は69.6km。これは、従来の国道ルート利用に比べ、約100kmの距離短縮となる。

◇◇◇◇

ブムタン県ウラで国道を外れ、未舗装の農道を登ること約40分。シンカルはそんな高原の村である。海抜は3500メートル。約40世帯が集う集落で、僕は昨年一度だけ民泊をさせてもらったことがあるが、夜になると灯りはほとんどなく、空気が澄んでいて夜空の星がものすごくよく見えた。肉眼で天の川を見たのは生まれて初めての経験で、ここに天文台でもあれば天体観測のメッカになるのではないかと単純に思ったことがある。

*シンカルの地形をGoogle Earthでお楽しみください。こちらからどうぞ!

シンカルの集落を抜け、農道はさらに奥まで伸びている。でも、ブムタン・ルンツィ県境にさしかかると道路は消えている。道路はないのだろう。記事にもある通り、今はルンツィに行こうと思ったら、ウラから国道を使ってトゥムシンラ峠を越え、クリチュ川河畔に近いリンミタンの町まで下り、そこから橋を渡ってモンガルの町まで登る途中の分岐から北上を始める。そこから先は、僕は行ったことはない。

シンカルから山を越えてルンツィに入るルートは、ルンツィ県民にとっては悲願であった。前の農業大臣の選挙区だから、ゴリゴリ押しておられた。確かにルンツィからのアクセスは格段に改善されるだろうが、ただでも少ないウラ・リンミタン間の国道の交通量を考えると、バイパス道路を作ったからといって、そんなに交通量が確保できるとは思えない。とはいえ、バイパス道路が開通すれば交通量は若干は増えるだろう。それがシンカル村の村人の生活にどんな影響を及ぼすだろうか。

記事の中では、公共事業大臣はこのバイパス道路建設が認可されなければ、その予算はウラ・リンミタン国道の拡幅工事に投入すると述べている。実は、この拡幅工事は既に始まっている。ウラの町からトゥムシンラ峠までの区間は、これまで1車線の細い道路で、「ハイウェイ」と言うのははばかられるような道路だった。それが、山肌が削られ始めている。この区間にはヒマラヤ杉の見事な原生林があり、レッドパンダなど野生動物の生息地域でもあるのだが、そこをわざわか拡幅することにも複雑な思いを禁じ得ない。ティンプーからブムタンまでは少ないとはいえそこそこの交通量があるが、ブムタンから東への交通量はもっと少なく、数時間対向車とすれ違わないというケースも稀ではない。そこまでして拡幅しなければならないような道路なのかというのは疑問だ。

だから、シンカル・ゴルガン間バイパス道路の認可が下りなければウラ・リンミタン間国道の拡幅工事に予算投入するというのも、なかなか理解できないやり方だ。NECがなぜ環境保護上の理由でバイパス道路認可に待ったをかけているのかはわからないが、それがダメでなぜウラ・リンミタン国道の拡幅は環境影響評価がクリアされているのかという理屈もよくわからない。

少ないパイの奪い合いをやっているように見えてしまう。仮にバイパス道路ができて、ティンプーからモンガルやタシガンに行きやすくなると、旧国道沿いにあったセンゴルやヨンコラの趣ある集落は廃れてしまうんじゃないかと心配になってしまう。また、バイパス道路ができても、シンカルはウラの町に近いから、通行人がわざわざストップして休憩して行くようなところでもない。

聞くところによれば、シンカルには使われていない国有地があって、これまでにもやれゴルフ場建設だ、やれメガソーラー施設だと、外から持ち込まれる開発構想がいろいろあった土地なのだという。天文台だなどとほざいている僕自身も同じ穴のムジナだが、地元の人々が不在で進められる開発はあってはならないもとだと思っている。バイパス道路のこと、村の人々はどのように思っているのだろうか。訊いてみたい気がする。

12月末付で、公共事業省の事務次官が退官された。元々は農業がご専門の方で、直近は件のNECの長官を務めておられた。そのNECから公共事業省に移られるということは、開発事業の環境への影響を厳しくチェックする立場から、開発事業を推進する立場へと変わられるということでもあった。当然、ゴリゴリ来られる前の農業大臣あたりからのプレッシャーは相当あったと思うし、元々公共事業省のエンジニア出身の今の公共事業大臣も、開発推進の立場で発言されているのだろう。いろいろなジレンマを感じながら、次官を1年弱務めて来られたのだろうと推察する。

【2019年1月7日追記】
2019年1月5日付のクエンセルに、元公共事業事務次官によるシンカル・ゴルガン道路に関する論考が掲載されていたので、URLを付記しておきたい。海抜3600メートルとブータンで海抜が最も高い区間が6.9キロもあり、冬場の通行には相当な支障が出ること、急な斜面で相当数のヘアピンカーブが必要になるが、国道と呼ぶのに必要な道幅が確保しづらいことなどを指摘している。

http://www.kuenselonline.com/connecting-shingkhar-and-gorgan-our-challenges/
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