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LDC卒業に向けて [ブータン]

ブータン、最貧国からの卒業準備期間入り
Bhutan enters preparatory period to shed LDC status
Kuensel、2018年12月15日、Tshering Palden記者
http://www.kuenselonline.com/bhutan-enters-preparatory-period-to-shed-lcd-status/

2018-12-15 Kuensel.jpg
【抄訳】
2023年12月にブータンは最貧国(LDC)から卒業し、下位中所得国入りする。2023年12月13日のLDC卒業に向け、正式な5年間の準備期間に入る。昨日、タンディ・ドルジ外務大臣が明らかにした。12月13日にニューヨーク国連本部で開催された第73回国連総会(UNGA)会合で、ブータンLDC卒業に関する経済社会理事会の報告書が検討され、卒業準備期間入りが承認された。

国連開発政策委員会は、ブータンの実質卒業日を2023年の第12次五ヵ年計画の終了とタイミングを合わせたいとするブータン側の要請を妥当なものと結論付けた。この卒業準備期間中、ブータンは国連の制度的支援を受け、二国間協力機関、域内協力機関、多国間協力機関と協力して円滑な移行戦略を準備する必要がある。

タンディ・ドルジ外相は、政府はLDC卒業に向けた事態の進展を歓迎すると述べた。「これは、ブータンの社会経済開発における成果と、開発パートナーとの実りある協力の証といえる。」外相は、第12次五カ年計画はLDCとしての最後の計画であり、すべての分野における最後の1マイルという課題に取り組み、ブータンが頑強な経済基盤を確実に築くことを保証するものだと語った。

ブータンは、3年ごとに実施されるレビュープロセスで、2015年に初めてLDC卒業の3条件の1つをクリアした。2018年のレビューでも、再びクリアしたことで、国連開発政策委員会がUNGAに推薦できる前提資格を得た。卒業資格条件は、①1人当たり国民所得(GNI)、②人間同意指数(HAI)、③経済脆弱指数(EVI)の3つの基準に基づく。卒業の前提条件は、3年間の平均で、①1人当たりGNIが1,242米ドル以上、②HAIスコアが 66以上、③EVIスコア32以下となることである。

3つの基準のうち少なくとも2つで卒業の閾値を満たしている場合、卒業資格が得られる。また、HAIとEVIのスコアにかかわらず、1人当たりGNIが既定の閾値の少なくとも2倍を超える場合、所得のみのルールに基づいて卒業資格を得ることもできる。卒業に向けた推薦を得るためには、3年ごとのレビュー審査で2回続けて基準をクリアすることが求められる。

その意味
昨年11月の円卓会議会議で、国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)の関係者は、ブータンは卒業プロセスの幕開け期に来ており、卒業からより多くの利益を得ると述べた。途上国がLDCを卒業するとき、過渡期に失う権利は、先進国を中心とした市場への優先的なアクセスである。しかし、ブータンの場合、主な貿易相手国はインドであり、他の国との貿易はあまりないため、貿易はほとんど影響を受けないと見られている。また、LDCからの卒業は、その国が外国からの直接投資(FDI)を誘致できる政治的安定や社会環境整備をうまく行っていることを示すものである。

一方で、ブータンの場合、少ない人口が国全体に広く分散しているために、インフラ整備のための1人あたり費用と、サービス提供のための1人あたり人件費は、他のほとんどの国よりもはるかに高い。これは、GDPがわずか20億ドルの国にとっては大きな課題となる。

3つの指標の1つであるEVIは、水力発電依存度が高いブータンにとって大きな懸念事項である。ブータンは公的債務の水準が高く、近い将来も資金ギャップには苦慮するだろうと見られている。明るい面としては、第12次五カ年計画が卒業に向けた経済多様化を促すことが期待されている。

低中所得国になることは、政府開発援助(ODA)の実施方法と構成の変化につながる可能性もある。卒業国は、多国間協力実施機関が有するLDC特別資金へのアクセスを失う。また、貿易面では外国市場への特恵アクセスを失う可能性がある。移行準備期間中、ブータンは移行の円滑な実施をサポートするための国連の様々な資金の利用が可能である。インドや日本などからの二国間協力の支持を今も有しているため、当面の影響はないと見られている。一方で、多国間開発協力機関の大半は既に段階的に撤退を進めてきている。 

課題
ツェリン首相は、卒業は1960年代からリーダーが掲げてきた長期ビジョンと開発計画の履行の成果であると述べた。「私は、歴代国王が進めてこられた取組みに感謝しています。」

ブータンの1人当たりGNIは2,277ドル。基準値は1,242ドル(3年間平均)で、HAIスコアは2000年の45から現在67.9にまで改善している。ブータンは3つの基準のうちの2つを容易に満たすが、EVIは依然として課題を残している。2000年の43.04から現在40.2に改善してきている(EVIが高いほど、国の経済的脆弱性が高い)。

2013年に総国民幸福委員会(GNHC)が作成したレポートによると、ブータンは経済的基盤が狭く、対外貿易依存度が高いという課題に直面している。ブータンの経済はGDPに占める農林業の割合が高く、これは貿易条件と自然災害から来るショックに対して脆弱であることを意味する。「非常に脆弱な山岳生態系を持つブータンは、経済発展に悪影響を及ぼす自然災害に対して脆弱で、戦略的インフラ開発に大きな課題を投げかける」と​​GNHCレビューレポートは述べている。

貿易面では、ブータンは水力発電による電力輸出に大きく依存していると言われる。水力輸出は、もともと水文学的リスクや気候変動リスクに脆弱だが、これにインドが実質唯一の買い手であることに伴うリスクが加わる。GNHCのレビューレポートは、ブータンがEVIにかんしてはLDC卒業の基準を満たしているとは言いがたいと指摘する。しかし、1人あたり所得が2003年以降ほぼ3倍増となり、健康や教育に関して非常に良い成果を上げてきていることをもって、卒業提案につながっている。

しかし、卒業国は通常、卒業が成立する前に3年間の猶予期間が与えられる。国がLDCのままでいられるこの期間は、国とその開発パートナーや貿易相手国がスムーズな移行に向けた戦略に合意できるように設けられている。このため、LDCステータスの計画的喪失が国の社会と経済の発展を阻害しないようになっている。

ブータンは、1971年にUNGAがこの分類を確立して以来、一貫してLDCとして分類されてきた。

◇◇◇◇

この記事、紙バージョンで配達された新聞紙面を読むと、ヘッドラインが「LCD」になっていた。無論、「液晶ディスプレイ」のことではない。「Least Developing Countries(後発開発途上国)」、いわゆる最貧国というやつだ。そして、さすがにヘッドラインで誤植をやらかしていたのはみなが指摘したようで、ウエブ版では当然「LDC」に修正されていた。

僕は今まで、ブログにおいてはブータンのLDC卒業についてはあまり取り上げないできた。開発協力に関係している方々は多少関心あるかもしれないが、一般的なブータン愛好家にとってはどうでもいいことだろうと思ったからだ。LDC卒業の話は、実は2年ぐらい前からチラホラと聞いていた。明確に「LDC卒業に向けた最後の1マイル」と言い始めたのは、去年3月の第13回対ブータン援助国・機関円卓会議の場でのことだろう。トブゲイ首相(当時)がそういう言い方をして、メディアでもそう引用されていたのを覚えている。

普通に考えれば、LDC卒業は、2018年の審査を経て3年後の2021年の筈なのだが、始まったばかりの第12次五カ年計画の達成目標とも整合させるために、2023年というターゲット年をブータン政府がいつだったかから言い始めた。これも、前政権の時代のことだったと思う。それが今回、国連総会の場で認められたということのようである。

LDC卒業となるとどうなるか。先ず、日本のようなOECD/DAC加盟国は無償資金協力(贈与)は今までのような具合にはやれなくなるだろう。まあ、無くなりはしないだろうが、経済インフラは借款でやれという話になっていくだろう。但し、インドはOECD/DAC加盟国じゃないから、そういう縛りはないかもしれない。

ODAのうち贈与カウント分がそんなに積み上げられなくなるとすると、別の手段も考えなければならない。それが譲許性の高い借款とか、あるいは小額の贈与を触媒に民間資金やODA以外の公的資金を動員するというタイプの協力なのだろう。

ただ、今のブータン政府の債務政策によると、水力発電以外の事業の借入金によるファイナンスは対GDP比5%だったか10%だったかに上限が決められていたと思うので、それ以外の事業、例えば道路トンネル建設とか、マイクロファイナンス金融機関向けのツーステップローン等は拡大できる余地が限られているように思う。ブータン政府側の債務政策の問題なので、見直すには政府にも相当な覚悟が必要で、すぐには拡大できるとも思えない。

それじゃ民間資金やその他の公的資金はどうかというと、一気にやり過ぎるとJICAとかが案件監理にかけている事務負担が相当大きくなる。1件1件の事業規模はそれほど多くなくても、案件数が増えればそれなりに事務コストはかかる。ましてや小さな事業になればなるほど、事業提案者の関心がバラエティに富んでくるので、JICAの事務所の人がそういうミクロの関心事項にきめ細かく対応して情報収集をやれるとも思えない。

巷間言われている「経済の多角化」をどう図ったらいいのだろうか。僕なりに考えているのは、「多角化を可能にする環境」を作ることである。既に金融アクセス面では多くの取組みがあるが、多様なものの生産を可能にする施設というところでは、ブータンでの取組みは端緒についたばかりである。「一粒で二度どころか何十回でもおいしい」というような施設は、国内各地にもっとあってもよい。

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