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コメ作付面積の減少 [ブータン]

コメ作付面積の縮小
Rice cultivation area shrinks
Kuensel、2018年12月6日、Nima記者
http://www.kuenselonline.com/rice-cultivation-area-shrinks/

2018-12-6 Kuensel.jpg
《農業への予算配分が減ったから作付面積が減った、とは思わないけど…》

【ポイント】
作付面積の減少により、ブータンは過去20年間で31,300トン以上のコメ生産機会を失った。しっかり生産していれば、人口の5分の1を1年間食べさせることができたことになる。国のコメ自給率は47%。12月3日に開催されたブータン・イノベーション・サイエンス・ソサエティ(BLISS)講演会で、ユシパン農業研究開発センターのヤドゥナート・バジガイ主任研究員が発表したもの。

同主任研究員によると、コメ作付面積は1981年の約2万8000haから2017年の2万547haへと減った。同じ期間内で作付面積は減った一方、土地1ha当たりの農業生産性は上昇。1981年の2.2トンから2017年には4.2トンにほぼ倍増した。これには、品種改良、作物栄養管理、計画的な保護政策が寄与している。

インフラ開発や都市開発、灌漑用水不足、野生動物による獣害、農業に従事できる労働者の不足などが、農民が耕作を放棄する主な理由である。同主任研究員は食用油を例に挙げ、資源エネルギーの賦存量は十分あるのに食用油の自給率はわずか3%であり、政策介入と重点投資が必要だと述べた。

その原因として、農業部門(RNR)への政府予算配分が減っていることが考えられる。第4次五カ年計画では全体の23%を占めていたRNR部門への予算配分額は、第4次五カ年計画では7%に低下。「これがRNRのGDP貢献度を引き下げるのにつながった」と彼は指摘する。1981年のRNR部門のGDP貢献度は約37%だったが、2016年には17%に低下した。その後五カ年計画に占めるRNR部門向け予算配分は、第7次計画時の16%をピークに、第10次の5.6%、第11次の6.3%と低迷が続いている。

農業が直面する課題としては、他に土壌肥沃度の低下、主に土壌中のリンの喪失、気候変動、2016年のブータンRNR研究評議会解散のような農業研究への注目度の低下等が挙げられる。「RNR部門は最大の打撃に見まわれるだろう。今日耕作に適した作物が、10年後にも耕作に適しているとは限らない。新品種の開発には10年以上かかるため、農業研究開発への投資は今から始めていないといけない」と同主任研究員。彼は発表の中で、政策立案者と各ステークホルダーに対し、食料生産と農業を重要開発課題として再検討し、再び高い優先度を与えるよう求めた。

今日農業が直面する制約として、労働力不足、野生動物による作物被害、灌漑用水不足、市場へのアクセス制限の4つが挙げられる。同主任研究員は、農業研究開発に優先投資し、人材を育成し、食料生産の機械化、農業生態系と市場の多様化を進めることが必要だと述べた。

コメは、ブータンの1日当たりエネルギー摂取量の53%を占めている。作付面積は5万3,055エーカーで、生産高は8万5,090トンである。耕地面積は国土のわずか3%未満だが、国民の約57%は国内生産作物に頼っている。生産性向上に寄与した要素として、第11次五カ年計画終了時点の灌漑用水路の総延長距離は1,718kmに達し、耕耘機1,200台、農道総延長距離1万1,196km、電気柵1万8,691kmなどが挙げられる。
◇◇◇◇

クエンセルの記事は、書いている記者によって記事のクオリティが異なる。コメの作付面積が減少しているという話は僕もいろいろなところで言及しているが、具体的な数値が引用されている有用な記事としてこの日のヘッドラインを飾ったこの記事は取り上げたが、数字の信憑性はともかくとして、記事の構成としてはイマイチのような気がする。

ニマという記者、まだ記者経験が浅いのかもしれないけど、時々やらかす。記事の前半と後半で全く性格が異なるケースもあるし、肝心のことを記事で書き漏らすケースもある。今回のこの記事、研究会で発表した主任研究員の発表内容がおかしかったのかもしれないが、コメの作付面積縮小が主たるメッセージだったのか、そもそも農業全体の耕作面積の縮小を言いたかったのか、どちらなのかわからない。コメだろうと思って読んでいくと、いきなり食用油の話に飛ぶ。コメの作付面積の減少はヘクタール表示で冒頭言及しているのに、記事の最後の方になると、今度は現状の作付面積をエーカー表示で改めて示したりもしている。そもそも講師となったユシパンの主任研究員がそういう脈絡のないことを言っちゃったのかもしれないが、それを正してより正確なメッセージとして記事にまとめるのは記者の仕事ではないのだろうか。

それに、挿入されているグラフも、こういうのを使っちゃうと、政府の予算配分が足りないのが問題なのだというメッセージを読者に送ってしまうんじゃないだろうか。政府が農業部門に予算をもっとつければコメの作付面積が増えるというのは僕は一概には言えないと思う。農村部に行けば若者がおらず、お年寄りや女性で農作業を担っている。体力的に野良仕事がきつくなってくれば、自ずと作付面積を減らして自給する分だけ生産するようになっていくのは必定。根本原因は若い農業従事者が少ない点にある。その部分の施策は農業予算には含まれていない可能性がある。

さらにこの記事に欠けているのは、このBLISSと呼ばれる講演が行われた文脈に関する言及である。このBLISSという講演会を主催したのはブータン生態学会(Bhutan Ecological Society、BES)という学会で、12月2日、3日の両日、ティンプー市内の青年スポーツ局(DYS)の敷地を会場にして行われた第5回シンポジウムの1イベントとして開催されている。BESのシンポジウムは、昨年は青年海外協力隊の方が氷河の後退に関する相当インパクトのある発表をやって、それがクエンセルのトップを飾ったことがあるが、今年もこの時期に開催された。歴史は浅いが、イベントの開催予測性としては比較的信頼が置ける。2カ月も前に発表者募集をアナウンスしていた。去年はパロ開催だったが、今年はティンプー開催となった。

【参考記事】
BESシンポジウム、ティンプーで開幕
BES symposium begins in Thimphu
Kuensel、2018年12月3日、Rinchen Zangmo記者
http://www.kuenselonline.com/bes-symposium-begins-in-thimphu/
2018-12-3 Kuensel.jpg

同じ12月2日には時計塔広場で日本大使館が「ジャパンウィーク」のオープニングイベントを開催していたが、集客がイマイチだったのは、このBESのシンポジウムや同日韓国映画祭が開かれていたのと客の奪い合いになったからだと思う。そこで初めてローンチングされたのが、このBLISSという講演会で、従ってまだネームバリューは少ない。それなのに、BESシンポジウム最終日から3日も後になってこの記事が出てきたのはなんでなんだろうか?

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