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デジタル技術が拓く、人道支援の新たな扉 [ブータン]

災害後の救命救急活動でのデジタル技術の活用
Exploring digital technologies to assist in post disaster rescue operation
BBS、2018年11月14日、Sherub Dorji記者
http://www.bbs.bt/news/?p=106795

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【ポイント】
ブータンはその地理的条件から頻繁な洪水や地震にさらされている。そうした予期せぬ事態に対して、被災後への備えはの救命救急活動の枢要を成すものである。3Dプリンティングのようなデジタル工作技術がどのように緊急人道援助に適用できるかを理解するため、13日、首都においてセミナーが開かれた。災害発生後の緊急事態においては、医療やその他緊急時に必要となる器具をすぐに手元に用意できる能力を備えることは必須だ。

国際NGOフィールド・レディのグローバル・イノベーション・アドバイザーであるアンドルー・ラム氏によれば、デジタル工作技術とはコンピュータ制御された機械に関するものだ。「私達は木や金属を切ったりプラスチックを成形したりして、必要なものを作るのに、時には手を使い、また時には手動工作機械を使ったり、また時には電動工作機械を使ったりもします。より複雑なものを作ったり、変わった成形が必要な場合は、コンピュータ制御の機械が、必要なものを適切な質や複雑なレベルのものに仕上げてくれます。デジタル工作技術はそうした取組みを支えてくれるものです。」

フィールド・レディによると、災害発生現場でものを作ってしまうことは、単に迅速性や簡易性の利点以外にも、より安価に作れるというメリットがあるという。フィールド・レディが既に製作した医療器具やその他救命器具が、当日参加者にも紹介された。

「私達が作った品目のいくつかは医療デバイスや医療機材のスペアパーツです。医療デバイスのほんの小さな1つでも壊れた場合、私達はそれを修理することができます」とラム氏。「胎児観察鏡やピンセット、人の耳の穴を見る内視鏡等は既に作っています。かなり広範なツールを作ることが可能です。」

セミナーには、災害管理局やJICA、ファブラボ・ブータンをはじめ、多くのステークホルダーが参加。災害管理局によれば、こうした新たなイノベーションが発災後の救命救急活動をさらに促進してくれるだろうと期待している。デジタル工作技術は同局がまとめる防災計画にも統合される見込み。

フィールド・レディのチームはこの後、村や学校を訪問して災害発生時にブータンでどのような支援活動が可能かを調査する予定。フィールド・レディはファブラボ・ブータンの招待によりブータンを訪問中である。

◇◇◇◇

各県、ゲオッグレベルで策定が進んでいると言われる「災害管理計画」だが、そういう話を聞いてから既に2年以上が経過するのに、未だに公開されていない。人づてで聞いたところではティンプー市の災害管理計画も存在するようだが、大地震が起きた時、僕らはどこに避難すればいいのか、確たる情報はないのが現状だ。

ひとたび大地震が発生し、多くの死傷者が出るようであれば、国際社会は緊急人道支援を開始するところだが、パロ国際空港のキャパシティの問題や、パロ、プンツォリンから被災地までの道路アクセスの脆弱性の問題等もあって、迅速に救援物資が被災地に届けられる保証はない。ロジスティクスにかかる費用は結構膨大である。この部分をカットして地元で救援物資や医療活動、救命救急活動に必要な資機材を現地で作ってしまう能力がその国にあれば、その物資の生産費用は、他国で生産して被災地まで輸送するための費用も含めた外国援助物資の調達費用よりも安くあげることができるかもしれない。先ずは自分達で助けられる命は救う対応が必要になる。

デジタル工作技術をブータンが身につけることによって、高価な緊急人道支援物資を遅れて受け取るよりも、安価でタイムリーな物資の調達が現地でできるようになる。また、国際救援物資の品目は決まっており、現場で急に必要になったりする場合にすぐに対応できない。逆に実際には必要ではないものでも供与されるケースもあるかもしれない。デジタル工作技術があれば、たとえ1個であっても現地で製作可能である。被災地で電力供給がない時にはどうしょうもないじゃないかとの反論もありそうだが、フィールド・レディは太陽光や故障自動車のバッテリーなどを電源とするシステムを既に持っている。

デジタル工作技術は、これまで国際社会が続けてきた緊急人道支援のあり方に革新的な変化をもたらす可能性が強い。フィールド・レディは内戦下のシリアや2015年に大地震に見舞われたネパールで人道支援に取組み、復興過程においてはこうした人道支援に必要な物資をコミュニティが自ら製作できる能力の構築に向けて協力を続けてきた。2016年5月にイスタンブールで開催された世界人道サミットでも、フィールド・レディのチームは、人道支援の現地化、人道支援のイノベーションというアジェンダを打ち出し、主導的役割を果たしてきたという。

ファブラボ・ブータンがフィールド・レディとつながることにより、これまでファブラボではあまり意識されていなかった災害時の自らの役割についての自覚も芽生えたことだろう。また、これまで国連がリードしてシミュレーションなどが行われてきたブータンの大地震発生時の緊急援助のあり方に、この現地化の取組みは一石を投じる可能性が高いと思う。

聞けばこのフィールド・レディのブータン招聘。確かに招いたのはファブラボ・ブータンだが、最初のコンタクトはJICAの所長が今年5月にカトマンズを訪れ、アポなしでフィールド・レディの事務所に飛び込んだのがきっかけだったらしい。その時にネパールで応対したフィールド・レディの英国人スタッフとネパール人スタッフに、一度ブータンに来て欲しいと口説いたのだとか。JICAの所長、フィールド・レディのネパールでの事業については、ブータンに赴任してくる前から知っていて、そのノウハウをブータンにも生かしたいと虎視眈々と狙っていたらしい。

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ブータンに限らず、どこの途上国に行ってもそうだと思うが、外国の援助で供与された高価な医療機材が、スペアパーツの入手問題で使用不能状態に陥っているケースが多い。医療機材はいくら丁寧に使っても、5年、10年経過して来ればパーツにガタが来るし、その頃にはメーカーも製造中止している可能性も強い。せめてパーツの3Dデータをオープンにしておくとか、供与する側、納入するメーカー側にも対応検討の必要があるように個人的には思うけれど、パーツが金属製の場合は、金属加工できる3Dプリンタの実用化がまだ進んでいない現状では難しいのかなとも思っている。

しかし、実際のパーツというのはプラスチック製のものもある。これは壊れた部品をノギスで採寸し、スケッチを元にして3D CADソフトでデザインして3Dプリントすれば、ごく短時間でもパーツ製作が可能である。金属製のバーツでも、精度や強度が高レベルのものでなければ、採寸して鋳型を作ることで製作することが実は可能なのかもしれない。今回ネパールから来ていたフィールド・レディのネパール人スタッフは、こうした3Dデザインと3Dプリントを専門に行うサービスで起業している。そういう形の雇用創出も可能なのだというのを今回は見せてもらえた。

今回は緊急人道援助のあり方に革新をもたらすかもというのでデジタル工作技術を取り上げたが、これは緊急人道援助だけじゃなくてそもそもの開発協力のあり方も大きく変える可能性があるとも感じた。

フィールド・レディの創立者が最近、こんな本を出されているようである。僕も今読んでいるところだ。

Managing Humanitarian Innovation: The cutting edge of aid (English Edition)

Managing Humanitarian Innovation: The cutting edge of aid (English Edition)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2018/03/27
  • メディア: Kindle版


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