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『ソーシャルイノベーション』 [持続可能な開発]

ソーシャルイノベーション 社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生!

ソーシャルイノベーション 社会福祉法人佛子園が「ごちゃまぜ」で挑む地方創生!

  • 作者: 竹本 鉄雄
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2018/09/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
 佛子園は1960年に発足した社会福祉法人で、知的障害児の入所施設としてスタートした。95年からは知的障害者の更生施設の運営にも乗り出し、98年には障害者就労施設として奥能登に地ビールレストランを開設。地元福祉関係者や行政の間ではよく知られる存在だった。
 その名が全国区に躍り出たのは、2013年9月に金沢市郊外にオープンした「シェア金沢」がきっかけだった。監修者である雄谷理事長は、周辺地域住民が集まる福祉の町づくりを志向し、約1万坪の敷地にサ高住、障害児入所施設、訪問介護施設などのほか、天然温泉やキッチンスタジオなど周辺地域から人を呼び寄せる多様な施設を「ごちゃまぜ」をコンセプトに集積。高齢者、障害児、地域の人々が交流するコミュニティを形成した。「シェア金沢」は、地方創生を推進する政府にも注目され、日本版CCRC(生涯活躍のまち)のモデルともされた。
 その佛子園が約60年の歴史の中で積み重ねてきた大小さまざまな試みは、「ソーシャルイノベーション」に相当する。本書では、佛子園及び雄谷理事長ならではの先進性、独自性あふれる取り組みを。このソーシャルイノベーションの横串としてつまびらかにしていく。

佛子園はブータンでも事業展開している数少ない日本の市民社会組織。その佛子園の歩みが1冊の本にまとめられたというので、さっそくお取り寄せしてみることにした。分量的にも164頁程度なので、サクサク読める。佛子園の歩みは断片的にはこれまで知る機会も多かったので、飛ばせるところは飛ばして、3時間ほどで読了した。

「ごちゃまぜ」というコンセプトには大いに賛同する。歳を重ねるにつれて動作に障害が生じるのは当たり前のことなので、高齢者と障害者を分けて論じるのにはそもそも反対だし、それぞれを隔離して高齢者は高齢者ばかり、障害者は障害者ばかりの共同生活コミュニティを作るのにもあまり賛成ではない。ブータン教育省は全国に特殊ニーズ教育(SEN)指定校を増やし、アクセシビリティ改善や指定校の教員のスキルアップ等を図る計画だ。そこに障害を持った児童を集めることでサービス効率は高まるだろうが、SEN指定校から一歩外に出ればそこはアクセシビリティの問題だらけだ。SEN指定校を取り巻く地域社会全体に包容力がないと、本当の意味での社会的包摂性は得られない。また、障害を持った児童をSEN指定校に隔離してしまうことで、一般の学校の生徒には障害児の存在というものをわかりにくくしてしまう。

高齢者であろうが、障害者であろうが、地域の中で受け入れて、地域の人々が当たり前のようにケアしていく社会の実現が求められる。そういう多様性のある社会では、本書の文脈とはちょっと異なるけど、「イノベーション」は起こりやすい。障害者を見たことも接したこともない人に、その障害を軽減するようなデバイスを開発しようというアイデアが閃く可能性は非常に低い。常に接していないと、高齢者や障害者のニーズに対してアンテナを張ることは難しい。

僕は本書を読んで、佛子園がブータンでなさろうとしていることについて、少しは理解を深めることができたと思っている。惜しむらくは「ごちゃまぜ」という概念をうまく英語でブータン人に伝わるようなコンテンツにできたらいいのだが、本書が発刊されたことで、それに向けた一歩は踏み出されたのではないか。残念ながらブータンは、「ごちゃまぜ」どころか「縦割り」で、組織間の交流が意外と乏しい。ややもすると障害者団体であっても横の連携が取れなかったりする。この国で「ごちゃまぜ」概念を普及するには時間もかかるかもしれないが、微力ながら僕も応援したい。

元々本書は、白山町や小松、金沢、輪島等、石川県での佛子園の事業経験を中心にまとめられたものだが、規模感や立地条件、設立に至るまでの経緯もそれぞれかなり違うけれど、そこで展開されている事業にはある程度の共通性があるようにも感じた。フィットネスがあったり、そば処があったり、温泉があったり、交流の場があったりといった…。試行錯誤を経てそういうセットのモデルを確立されていったのだろう。障害者や高齢者の雇用も生み出すコミュニティにはなっていっていくにはこれらいくつかの要素が必要で、それらが相互に関連していることも必要だと思う。

その点については、僕は、ここに工作機械を備えた工房が備わったらどんな化学反応が生まれるんだろうかと読みながら考えていた。元々障害福祉サービス事業所で木工製品等を作っていたケースは日本国内には多かったんじゃないかと思うが、これにデジタル工作機械も加えて、ものづくり工房を開くのである。そして、そこでリサイクル事業もやるは、コミュニティ内の各施設の営繕も請け負うは、障害の程度に応じて必要な支援器具をカスタマイズ製作するは―――そういう機能を持ったラボがあったらと思うと、ちょっとワクワクする。ごちゃまぜになっているからこそ良いアイデアは生まれる。そのアイデアを具体的に形にしてみることが可能になるような工房がコミュニティ内に存在することで、コミュニティのレジリエンスはさらに高まるのではないだろうか。

ついでに言うと、佛子園の実質作業部隊とも言える青年海外協力協会(JOCA)はオフィスを長野県駒ケ根市に移したそうだが、ここにそういうものづくり工房があれば、これから青年海外協力隊で海外に出発する若い人たちに、デジタル工作機械の操作研修を受けてから出発してもらうことができるのではないかとも考えた。駒ヶ根には協力隊の派遣前訓練を行う合宿所のような施設があるが、その研修の補完でものづくりの基礎を学んで出発したら、ファブラボのような施設が既にあるブータンのような国では、自身の活動に必要になるようなものを現地で作っちゃおうということが可能になる。そして、任期を終えて帰国しても、そのスキルは役に立つ。

本書を読みながら思い付いたアイデアはこればかりではない。雄谷理事長の熱量と馬力が行間からほとばしってくるような本だが、こういうアイデアを口に出すと、「お、いいね。それやろうよ」と仰る姿が容易にイメージできてしまう。

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