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ルナナの氷河湖が決壊すると… [ブータン]

ルナナからの氷河湖決壊洪水の高まる脅威
GLOF threat from Lunana looms large
BBS、2018年9月28日、Sherub Dorji通信員(ルナナ)
http://www.bbs.bt/news/?p=104277

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《ルナナのテンチョ集落。遠方にテーブル状の地形が見られる》

【要約】
ルナナはブータンでも最北の地域の1つで、人がなかなか立ち入れない地域である。その地域で今大きな危機が始まろうとしている。氷河湖決壊洪水(GLOF)のリスクが日増しに大きくなってきている。ルナナ地区にはトルトルミ、ラプステン、ルゲ、ベツォという4つの湖があるが、うちトルトルミとラプステンはブータン国内でもGLOF発生リスクの高い25の湖の1つとされている。

トルトルミ湖は現在も形成中で、小さな池が氷河の溶解により徐々に湖へと変化してきている。そしてモレーンで隔てられたすぐ下方には、ラプステン湖が位置する。両湖を隔てるモレーン自体、深さ80メートルある氷の塊だが、その強度や安定性に、専門家は疑問を呈している。

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《ラプステン湖。右側にあるのがモレーン・ダム》

国立水文気象センター(NCHM)関係者によると、モレーンは永久構造物ではなく、いずれトルトルミ湖の水はラプステン湖に注ぎ込むと見られている。そして、両湖が一緒になった時、巨大なGLOF発生の引き金になりかねない。NCHM関係者は、その場合の規模が5,300㎥にもなると予測する。


ブータンが経験したGLOFは、1994年10月のルゲ湖決壊が最後となるが、その際はプナサンチュ流域の流量が一時的に急増した。トルトルミ・ラプステン湖の合体で、下流のプナカは、1994年のGLOF災害以上の規模の洪水を経験するだろう。専門家によると、その規模は1994年洪水の3倍近いと見られている。

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《形成中のトルトルミ湖》

GLOFリスクを緩和するための努力は行われている。1998年には、ラプステン湖の水位を下げるための水抜き作業が3年間にわたって行われ、水位は4m下がった。同様のプロジェクトはその後、2008年と2011年にもトルトルミ湖で行われ、1,700㎥の湖水が抜かれた。プナサンチュとポチュの流域では、洪水警報サイレンが設置されている。

ルナナの洪水警報システム担当技術者のツェリン・ドルジ氏は、毎日、3時間歩いて4つの氷河湖の水位確認を行っている。

こうしてGLOFリスク緩和に向けた取組みが行われている一方、NCHM関係者は、最悪の事態に備えておくことが必要だと強調する。「特にGLOFの場合は、いつ来るかわからないし、人はすぐに忘れてしまいます。なので、GLOFはそこにある危機だと強く訴えたいです。過去5年何も起こらなかったから今後も起こらないとは誰も保証できません。」

世界野生動物基金(WWF)は、最悪の場合、プナカやワンデュの耕作地の半分は押し流され、プナカゾンとクルタンの町の多くの部分で甚大な被害が発生するだろうと見ている。プナサンチュ水力発電事業の被害も大きく、地域の生態系にも影響が及ぶという。

◇◇◇◇

気が付くと、ここ1カ月ほど、ブータンの報道をブログで取り上げていなかったことに気付いた。国政選挙の報道ばかりで、それを取り上げるのはともかく、コメントをするのは政治的な中立性に反するとも思い、あえて見て見ぬふりをしてここ数週間を過ごしているのである。

特に選挙報道一色になっているのがクエンセルの方で、記事選択には苦労する。BBSの方がまだましかなと思い、何を取り上げようかと思いながらザッピングしていて、「ルナナ」の文字が目に飛び込んできた。ちょうどルナナについては仕事でも何かできないかと考えていたところだったので、中身を読み込んでいくと、時々見かけるGLOFリスク警鐘の記事だった。

内容的にはそうだなと思う一方、プナカゾンより下流のクルタンの職業訓練校やホテルは河畔にあるし、バジョの町や農業省の研究センターの圃場も河畔にある。結構危ないのではないかと改めてそのリスクについて認識した次第である。

◇◇◇◇

偶然ながら、CNNが10月11日にこんな報道もしていたので参考まで。

小国ブータンが炭素吸収について世界に伝えられること
What tiny Bhutan can teach the world about being carbon negative
CNN、2018年10月11日、Mark Tutton and Katy Scott
https://edition.cnn.com/2018/10/11/asia/bhutan-carbon-negative/index.html

ブータン自身の努力として「炭素吸収(カーボン・ネガティブ)」なのは、ブータンのブランドイメージのアップには非常に貢献していると思うが、人口が少なくて森林資源への圧力が小さいという大きなアドバンテージがあってのことなので、「ブータンが世界に教える」は言い過ぎのような気がする。

ブータン政府はSDGsの中でもSDG13(気候変動)とSDG15(陸域自然資源保全)を最重要視している目標の1つと位置付けている。これもブランド戦略の側面もあるが、実際にプナカやワンデュで起こりかねないGLOF災害のリスクを考えれば当然とも言える。また、SDG13やSDG15のターゲットには含まれていないけれど、カーボン・ネガティブであることがブータンなりに国際社会への貢献の途であることも意識はされているのだろう。トブゲイ前首相の発言などではそれが垣間見える。

一方で、GLOF災害リスク軽減策は、ブータンだけでもなんともならないのも事実である。CNNの報じ方がその部分に言及していないのはちょっと残念。一番CO2排出している米国の報道機関なんだから、ブータンの取組みを無にしないために米国民に何ができるかという視点も含めて欲しかったと思う。
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